写真左から代表取締役の片岡義隆氏、シェアリングディビジョン/フードディレクターの石川進之介氏、マーケティング・コミュニケーション部の吉田柾長氏
アスラボ
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横丁再生計画をきっかけに料理人の不遇な環境に直面
片岡:もともとは不動産開発会社として2010年に出発した当社ですが、現在は主力事業として、厨房を複数の料理人がシェアする「シェアダイニング」の企画・運営や、地方を中心とした横丁ビジネスを行っています。
片岡:5年ほど前、不動産開発会社としての当社にシャッター商店街を活性化させてほしいという案件が来たのが始まりでした。過疎化した商店街に複数の飲食店を誘致し、横丁として再生させることになりました。その際、何人かの料理人の方々に出店オファーをしたのですが、彼らは口を揃えて「独立しようにも資金がない」と言うんです。よくよく話を聞けば、辛い修業を耐えた末に独立しようも、修業時代の給料はそう多くないため、いざ開業しようと思っても到底資金が足りない。何とか融資を得ても、それの返済に追われる日々が待っている。そういった理由で独立に踏み出せないということでした。話を聞くほどに、料理人の起業を取り巻く状況はこんなにも悪いのか、と痛感しました。
当初は店舗ごとに内装や厨房設備を作ってもらう予定でしたが、それらを当社で一手に引き受けることにし、料理人は最低必要限の投資で出店できる仕組みにしました。そうして最初にオープンしたのが、2015年に開業した山梨・甲府の「甲府ぐるめ横丁」。今では多くの人で賑わい、「あのシャッター街が嘘みたい」と地元では伝説的な横丁となっています。若手料理人の育成の場としても機能し、まずここで実績を積み、今では独立して自身で店舗を構えている人も徐々に現れています。
(山梨・甲府の「甲府ぐるめ横丁」。シャッター商店街が横丁として再生させ、にぎわいを取り戻した事例だ)
この横丁の経験から、技術はあって情熱に満ちている人達が活躍する機会を持てないという状況を知りました。大げさかもしれませんが、これは日本全体の大きな損出ではないでしょうか。日本に来るインバウンドが何より注目しているのは、日本の食文化。そんな国の一大産業で働く人達の環境が恵まれていないという状況は、何とかしいないといけない。そんな思いから、こうした横丁やシェアダイニングの事業を展開していきました。
シェアキッチンを通じて、料理人の働く環境の課題解決を
片岡:出店コストの高さから独立への一歩が踏み出せない人に対して、初期投資20万円で店が出せるというものです。キッチンのみ個別ですが、客席やドリンク場、ホールスタッフは出店者同士で共有し、料理人は料理だけに集中できる環境で料理を提供することができます。独立に必要な開業資金は1000万円ほどと言われていますが、内装や厨房設備の工事は料理人が負担する必要がないため、従来に比べて格安で出店ができる。資金面で二の足を踏んでいた人の一歩を踏み出す機会になっています。もちろん誰でも出店ができるわけではなく、面接や試食などの審査を経て出店となります。
さらに、出店して終わりではなく、その後、継続的に安定した売上を作っていくことも重視しています。出店者は、出店者同士で組合を作り、出店者同士で交流の機会を設けて切磋琢磨できるような仕組みに。独自開発したITシステムの「OKAMISAN」も導入し、飲食業ではつい感覚に陥りがちな売上の波も、データとして定量的にとらえてマーケティングに生かすなど、安定的な集客をサポートします。
こうして現在までに全国で7つの横丁を運営・プロデュースしており、今年10以上のシェアダイニングの計画を予定しています。
片岡:料理人の働く環境の課題解決です。これまで料理人のキャリアといえば、朝から晩までの長時間労働に耐えるか、多額の借金をして独立開業するかのどちらかしか選択肢がなかった。昔は根性で乗り切る人も多く、それでもよかったのかもしれませんが、ご存じの通り働き方改革が叫ばれる今の時代にフィットするものではなくなってきた。こういった状況こそが、今の人手不足の一因になっているように感じています。そこで私達は、実力や熱意のある料理人がもっと低リスクでカジュアルに独立することができ、そして安定的な店舗運営を実現するためのサポートを行っています。
石川:はい、実は私は先ほどの話にあったような“独立できなかった料理人”なんです。もともとは、小学生のころから料理に関心が高まり、大学中退後、和食や洋食の店で修行をしていました。もちろん料理人として独立することも考えましたが、多額の借金をして店を出しても必ずうまくいくとは限らない。ならいっそ、1000万円かけて独立するなら、1000万円かけて世界を旅して料理しよう、と考えたんです。世界各地に赴き、その土地でキッチンを借りてその土地の素材で料理をしました。これはまさにシェアダイニングの考えに通じていて、自分の店を持たずとも間借りキッチンでも料理をして人を喜ばせることができる、という思いが募っていきました。そんな折、アスラボと出会い、ミッションとする「料理人の働く環境の課題解決」は私にとって大変共感できるものでした。現在は、料理や旅の経験を生かしてフードディレクターとして参画しています。
(自身の料理人経験をもとにシェアダイニング事業に携わる石川氏)
地方での横丁を成功させ、都心部に進出。今後は展開を加速させる
片岡:横丁、シェアダイニングの展開は地方が中心でしたが、次第に人口の多い都心でも展開したいと考えるようになってきました。が、都心は資金面で当社単独ではなかなか踏ん切りがつかなかった。そんな中、JRさんが私達の考えに共感してくださったことでコラボが実現。今年の夏、J R新大久保駅直結ビルに「新大久保フードラボ(仮称)」をオープンします。
JR側でも、これまで商業施設や駅ナカに飲食店を誘致するにも、実力があるテナントでも、資金力で出店が叶わないということが往々にしてあったそうです。そうした経済面の障壁をなくしていくために、シェアダイニングという考え方は今後必要とされるべきと意気投合しました。これを皮切りに、今後は都内でも展開を加速させたい。これは、その第一弾となる重要なプロジェクトです。
(「新大久保フードラボ」はJR山手線の新大久保駅直結のビル3階に今夏開業予定)
吉田:多国籍な人が集まる新大久保と言う土地柄から、多国籍な料理を提供するシェアダイニングを目指しています。世界各国の多様なジャンルの料理人が、朝・昼・夜の時間帯で一つの厨房をシェアし、お客様はワンテーブル・一会計で複数店舗の料理が楽しめるというもの。また、ここでは食に関するイベントを開催し、「食を通じた新しいライフスタイル」を実感できる「場」を提供します。
(「新大久保フードラボ(仮称)」の企画を担当する吉田氏)
片岡:近年、料理人の働き方にはいろいろなニーズが出てきました。昔のようにどこかで厳しい労働環境のなかで働き続けるか、フルリスクで独立するかの二択しかなかったところから、もっと多様な働き方を広げたい。必ずしも朝から晩までの重労働をしなくてはならないという状況を変え、多くの人が才能を発揮できるフィールドを整えたいんです。例えば、ランチだけ働きたい人、都心に通勤せず郊外でのんびりと商売したい人などもいるでしょう。さまざまな企業や人と組んで、料理人が働きやすい環境を作る。そうしたニーズを実現できる施設や仕組みを作ってゆき、そして、日本の食に革命を起こしたいですね。