【概要】
2018年1月26日開催 フースタ繁盛ゼミ 11月度
《第一部:基調講演》
「美味しい」は国境を越える~加古川の1軒の焼鳥屋から世界へ~
講師:株式会社トリドールホールディングス 代表取締役 粟田貴也氏
コーディネーター:フードスタジアム関西編集長 今富信至
《第二部:パネルディスカッション》
和食を世界に! 世界に通じるジャパンクオリティとは
今富が引き続きコーディネーターとして進行。粟田氏に加えて以下2名がパネル講師として参加。
・東京レストランツファクトリー株式会社 代表取締役 渡邉仁氏
・株式会社ファンファンクション 代表取締役 合掌智宏氏
【講師】
東京レストランツファクトリー株式会社 代表取締役 渡邉仁氏(以下、渡邉)
株式会社ファンファンクション 代表取締役 合掌智宏氏(以下、合掌)
株式会社トリドールホールディングス 代表取締役 粟田貴也氏(以下、粟田)
【コーディネーター】
フードスタジアム関西編集長 今富信至(以下、今富)
和食を世界に!世界に通じるジャパンクオリティとは
今富:では、第一部に続いて、私、今富が司会進行を務めさせていただきます。第二部では、東京レストランツファクトリーの渡邉仁さん、ファンファンクションの合掌智宏さんのお二方をパネル講師に。そして第一部から引き続きトリドールホールディングスの粟田貴也さんにもご登壇いただき、「和食を世界に! 世界に通じるジャパンクオリティとは」をテーマにディスカッションを行ってもらいます。
ではまず、渡邉さんと合掌さんには会社紹介をお願いしても良いでしょうか。
渡邉:弊社は「鳥幸」や「ぬる燗佐藤」を始めとした様々な業態を展開しています。高級業態からスタートして、ポートフォリオ的な形を作ったあとに、安価な業態も作っていったという感じですね。今で言うと、商業施設さんから依頼を受けてマーケットインする感じで店舗を広げていっているのが主になっています。業態は和食が中心で、職人さんに入ってもらって店づくりをしており、現在国内に62店舗、海外に5店舗があって、特にニューヨークでのブランディングに力を入れています。去年は「MIFUNE」、今年に入ってからは「鳥幸 Toriko NY」をオープンしました。
合掌:弊社は現在「ご当地酒場 北海道八雲町」を始めとした、全国津々浦々の市町村と連携協定を結んで、その町の食材をPRするアンテナショップ的な居酒屋「ご当地居酒屋」を中心に展開をしています。現在27店舗を経営、うち海外は5店舗ですね。来年中には中国の深圳(しんせん)市にFCで出店する予定です。
今富:粟田さんも、第1部でお話しいただいておりますが、改めてお願いします。
粟田:はい。弊社は現在、「丸亀製麺」を主力に「コナズ珈琲」や「やきとり屋 とりどーる」など多業種を展開しております。現在は国内と海外合わせて1660店舗になりますね。
東京レストランファクトリー創業秘話。始まりは会員制バーだった
今富:お三方、ありがとうございます。今回のパネルディスカッションは5つのクエスチョンを用意しており、それに対してお答えいただきながら進めていきます。
最初のクエスチョンは「創業について」。こちらについて語っていただきます。ではまず、渡邉さんお願いします。
渡邉:私は今でこそ飲食店経営をしていますが、もともと商社でサラリーマンとして勤めていたので、飲食の経験は特になかったんです。当時は独立したい気持ちとは裏腹に運転資金は乏しいもので、貯金をしていた400万円を使ってどう儲けようかということをまず考えていました。で、2003年に六本木のスナックの居抜き物件を使って会員制のバーを始めたんです。これが「HOME’S BAR48」ですね。
今富:年会費10万円からの?
渡邉:そうです。今は内装も変えているんですけど。元がスナックの居抜きで、普通のバーにしてもきっと儲からないと思ったんです。でも、始めた当時の2003年は、ITだったり、元リクルートの人たちの独立があったりした時代で、人脈を作りたがる人がとても多かった。ならば、バーを会員制にして、そこで人を繋げることを商売にするのがいいのではとおもいました。結構な数のマッチングが成功して、1年半で会員数が1000人を超えました。キャッシュも1億円集めることができましたね。
今富:まさに今流行っている会員制のはしりじゃないですか。
渡邉:その分、スナックの居抜きだったから料理は全くできない状況でした。在庫を抱えたくないから、ビルに入っている飲食店のメニューを注文してもらってそれを出すようにして。結果的には在庫を抱えないで済むので利益率が高くなったというメリットもありましたけれども。僕がやっていたのはひたすら10万円の会員カードを売ることでしたね。
今富:すごいですね。なかなか聞けない話を聞いた気がします。合掌さんはどのように創業したのですか?
合掌:私は今41歳なのですが、創業当時は27歳でした。もともとは25歳まで建築業をやっていたので、飲食経験は少なかった。けれど、仕事で飲食店のデザインも手掛けていたので、この業界に憧れがあって進むことにしたんです。当初は「30歳までには独立できればいいな」と思っていたのですが、2年半居酒屋で修業してみて「もう行ける」と思って独立の準備に入りました。当時の貯金額は200万で、これでできる飲食店をやろうと考えていた矢先に店舗流通ネットの営業さんと知り合ったんです。同い年だったこともあって意気投合し、東京駅八重洲口から徒歩5分のところに焼きとん屋をオープンしました。
今富:なかなか好立地でしたね。売上はどんな感じでしたか?
合掌:20坪の店舗で月商500~600万円だったので、自分的にはぼちぼちといった感触です。その後3店舗展開したのですが、楽な経営ではなかったですね。
粟田:いえいえ、素晴らしいですよ。私も創業当時は加古川で焼鳥屋をやりながら四苦八苦していたので、気持ちがわかります。合掌さん今、41歳でしょう? 私にしてみるとまだまだなんでもできる年齢なので、その若さがとても羨ましいです。
合掌:恐縮です。
試行錯誤の末、原点回帰で生まれたのが「鳥幸」「ぬる燗 佐藤」
今富:ありがとうございます。その後、渡邉さんは「鳥幸」。合掌さんはご当地居酒屋とヒット店舗を展開するわけですが、2つ目のクエスチョンは「業態開発ストーリー」について。では、また渡邉さんからお願いたします。
渡邉:さっきのお話にもあったとおり、「HOME’S BAR48」では食事に力を入れることができなかったんです。けれど、会員さまから「おいしいものを作ってほしい」という声をいただくことも結構多くて。そこで「何を」「どこで」「客単価いくらで」食べたいかということを会員さま500人に向けてリサーチしてみたんです。その当時だから客単価8000円くらいで個室が必要だという声が多く、ならばこちらも本格的な職人を雇って和食の店をやるしかないだろうと考えました。
今富:高級業態から入ったのは今までの流れとマーケティングの結果によるものだったんですね。結局その「HOME’S BAR48」は売ってしまったんですよね。
渡邉:そこは2000万円くらいで作った店だったんですけど、六本木の再開発も後押しして最終的には2億5000万円くらいで売れました。
2005年から2007年くらいまではこんな感じでやっていたんですが、今のままでは大きく展開することができない。「家業」から「企業」に変革しなければいけないと思って色々なことを試そうと考えたんです。郊外店には居抜き型で焼き肉屋を始めてみたり、粟田さんの目の前で恐縮なんですが、八千代のイオンにうどん屋を開いてみたり。
粟田:なかなか大変だったんじゃないですか? 特にロードサイドは。
渡邉:ええ、ダメでしたね(笑)。試した業態がどれも結構厳しい中、唯一「神屋流 博多道場」がまあまあ成功したくらい。いったん原点に戻るべきだと、もともとのマーケットである六本木のお客さまの意見を聞いてみて、2011年に「鳥幸」をオープンさせました。結局、自分の原点と違うことやると失敗するってわかったんです。それよりもマーケットのあるところでお客さまを捕まえて、どう横展開するかを考えた方がいい。「ぬる燗佐藤」もそんな感じで出来上がっていて、ターゲットは六本木のヒルズ族の人々でした。ああいったアッパーな方たちは常に教養を欲しがっているので、「ぬる燗 佐藤」の、日本酒を12段階の温度で提供する仕組みはマッチした。彼らには、「この銘柄はこの温度が美味しい」という話がとても刺さるんです。食材や銘柄ではなく、そこにまつわるストーリーが好きだということに気づけたのは大きかったなと思います。
大ヒット「ご当地居酒屋」はどのように作られた?
今富:続いて合掌さん。お願いします。
合掌:焼きとん屋を3店舗経営しているときに、幼馴染が北海道の八雲町に転勤へなって「居酒屋やるなら、おいしい食材送るからね」と言われたんです。正直、八雲町は知らなかったんですが、送られてきた食材はどれもおいしくて、価格も安かった。そこでふと「こんなにおいしいものがあるのに、自分は八雲町を知らない。もしかして、八雲町はPRに苦労しているのではないか」と思ったんです。そこで、なにかできないかと八雲町の役場に電話をし、繋げてもらった農水課でプレゼンをし、結果、物流面と人材教育の協力を得て、店を始めることができました。
今富:それが「ご当地酒場 北海道八雲町」だったわけですね。
合掌:はい。北海道って誰でも知っているし食材もどことなく想像できます。でも、八雲町と聞くと「どんなところだろう?」と思ってもらえるかなという発想がありました。同じ発想でオープンして話題になったのは「カキ酒場 北海道厚岸」。私自身、ここの牡蠣は日本一だと思っているので絶対に扱いたかったんです。八雲町と同じようにプレゼンをしたところ快く協力をいただき、開店。商業施設の20坪の店舗で1700万円売れて、職人のいない居酒屋ながらミシュランのビブグルマンをいただきました。
今富:すごい、大成功ですね。その後も色々なテーマのご当地居酒屋を展開していますが、地域はどのようにして選んでいるんですか?
合掌:一番は自分のやりたい業態を考えるところからです。「こんな店をやりたい」と思ったら、それに合う食材を日本中から探します。鴨しゃぶ屋をやるとなったら日本一おいしい鴨を探すとか。
今富:Googleとか、人伝いに?
合掌:それと、ビール会社さんに聞くとか。実はビール会社さんって色々な飲食店と繋がっていて、しかも全国にネットワークがあるから本当に詳しいんです。そうやって教えてもらったところにプレゼンしに行きます。最初、店が少なかったときは怪しまれたことも多かったですが、最近は実績を見て信用していただけることが多くなりましたね。お金を出してもらうんじゃなくて、物流面での協力によって町のPRにもなるので、とても応援していただいています。
今富:なるほど、町の人にしてみてもありがたい話ですよね。では、少しいい話が続いたので3つ目は「失敗談・壁を乗り越えた話」をお願いします。
渡邉:先ほど話した色々な店を試している時に、ピザ食べ放題のお店を作ったんです。1300円でハンバーグランチを頼むと、サラダバーと窯焼きピザが食べ放題になるっていう。お察しの通り、売上が上がれば上がるほど赤字になるんですよ。
今富:常に大還元セール状態。
渡邉:結局1年ほどで店は閉めましたが、その後食べ放題で成功しているところはどのようにしてやっているのかをすごく考えました。もともと会員数を増やすことだけに力を入れていたんで、細かい原価計算ができなかった私がしっかりと利益率について考えるいい勉強になりました。
今富:合掌さんはなにかありますか?
合掌:その町の名前を借りてやっているわけなので、何かあったら弊社だけでなく連携している町にクレームが行くこともあるんです。予想もしなかったことで言うと、ランチで海鮮丼を出したとき、弊社ではなくてその町が経営していると勘違いされて町長宛に「海鮮丼を改善してくれ」と投書した人がいました。連携協定だからこその難しさは感じますね。
海外展開と地方活性。それぞれが思う「ジャパンクオリティ」に向けた展開
今富:次のクエスチョンは「展開について」ですが、すでに店舗展開を進めているお二方は何か勝ち筋を見つけていたりするんですか?
渡邉:私はまだ見つけてないですね。「丸亀製麺」さんみたいのが欲しいです。
粟田:いやいや、恐縮ですよ。
渡邉:ゆくゆくはホールディングスにしてそれぞれの業態が独立してやっていける体制にしたいですね。「混ぜるな危険」ではないですが、それぞれのマーケットが全然違うので、社員もポートフォリオの中で適材適所に配置するようにしています。先々独立して走っていけるための準備段階ですね。
今富:海外については?
渡邉:ニューヨークで展開している3店舗が話題になったことで、色々とお話はいただいています。これからどう展開していくかがポイントですね。ニューヨークで話題になることは名刺代わりになります。足掛かりにして世界展開はしていきたいですが、そのためにはビジネスモデルが大事です。あっちは競争がすごくて入れ替わりが早い。おまけに人間関係も複雑なので、オープンするのは簡単だけれど続けていくことはすごく大変です。だから今は、稼ぐことよりも次のステージに繋げていくことが重要かなと思っています。
今富:合掌さんはいかがです?
合掌:私は今後100店舗、200店舗にしていくというのは考えていないですね。現状では「佐賀県三瀬村ふもと赤鶏」が好調なので増やしていきたいなと思っています。海外展開で言えば、シンガポールに直営店舗が1店舗あります。これがぼちぼち売れたところ何が起きたかと言うとFCが出来てしまったんです。香港人のオーナーなのですが、たまたま近くのホテルに泊まっていてふらりと入った店舗が繁盛していたので興味を持っていただけたというのです。ニューヨークと同じように、アジアではシンガポールがショーケースなのだなとわかりました。
今富:では、今後は海外を攻めていきますか?
合掌:そちらは自分の投資なしで広げていきたいですね。どちらかというと国内の事業に力を入れていきたいです。実は弊社の店舗が「地域活性型居酒屋」という形でテレビ番組に出たことがありまして、これを見た東京農大の学生が次の新卒で入ってくるんです。どうやら授業で番組の映像がな流れたそうで、地域活性に興味を持って弊社に入ろうと思ったのだとか。
今富:地域活性や地域貢献への入り口のひとつに飲食をと。
合掌:そうですね。そのおかげで、今レベルの高い人材の採用ができているのでもっと色々なことができると感じています。地方も儲かっているところは儲かっていて、八雲町の町長に聞いたら借金は100億あるけれど、貯金も80億あると言うんです。そんな中で、どんな町づくりをしていったらいいかを相談されることもあって、そこに飲食を絡めてなにか面白いことはできないか考えています。
今富:粟田さん、お二方の話を聞いていかがですか?
粟田:おふたりとも発想が素晴らしい! 色々なアイデアやスタイルが飽和状態な今だからこそ、差別化できるものがないと勝てない。そんななか、おふたりの経営力を越えた鋭い感性は成功の道筋になると思います。私も今日の話から勉強させてもらえました。
東京レストランファクトリーは2020年4月上場!
今富:では、最後のクエスチョンは「今後の夢・ビジョン」をお願いします。
渡邉:弊社は2020年の4月に上場をする予定でいます。業態がバラバラなので、上場に向いているとは言えないですが、そのなかでどのように戦っていくかを考えています。先ほど粟田さんもおっしゃっていましたが、これからの経営者はクリエイティブでなければだめだと思っています。自分がたくさん勉強して、吸収して、それを社員に伝えることで企業全体をクリエイティブ集団にできればと思っています。
合掌:地域の方々や生産者などからもPRについての相談が増えている中で、それを行うなら飲食店でという方が非常に多いんです。そういった意味で、ただ飲食店を増やすのではなく、店舗を出すことでプラスアルファの効果を生み出すものを作って行きたいなと考えています。
今富:ありがとうございます。では、最後に粟田さんに総括していただきましょう。
粟田:最近、外食産業で世界のベストテンを調べたら、直営で年間売上5000億円あればベストテンに入れることがわかったんです。逆算すると6000店舗あれば、そこにいける。だから、弊社の目標もそこに定めました。できるかどうかはわかりませんが、そんな挑戦はいくつになってもしつづけていきたいですね。これからの世代の人にも、外食産業がワクワクできる業界なんだと思ってもらいたい。それぞれの思い描く夢を形にしていって、日本の外食産業が全体で伸びていくことができれば、海外でさらに「ジャパンクオリティ」が認められ、活躍する日本人も増えていくことにも繋がるのではないでしょうか。
今富:お三方、ありがとうございました。まだまだ聞きたいこともありますが、以上で今回のセミナーはお開きにさせていただきます。今日の集まりのみなさまも、お三方のように常に夢と挑戦する気持ちを忘れずに、ともに日本の外食産業を盛り上げていきましょう!