Q1.2016年、マーケットのトレンドをどう読むか?「3つのキーワード」をあげて解説をお願いします。(2015年の飲食業界について総括もふまえて)
藤森:テーマに沿って進めていきたいと思います。まずは2016年のマーケットのトレンドをどう読んでいるかについて、キーワードで語っていただくということで、3つでなくても1つでも2つでも構いません。2015年を総括しながら、今年はどんな風になると予想されているか、皆さんにお話いただけばと思います。
では千葉さんからお願いします。
千葉:私は“シュリンク”、“共感”、“絆”という三つを挙げたいと思います。
まず、“シュリンク”というのは「縮まる」という意味ですが、要するに人口減少に伴いマーケットが縮まる、これは事実でありまして、そのなかで今後はどんな試みをしていくべきかということが問われると。
そのうえで次に“共感”、これからは共に感じ合うストーリー性が必要になってくると思われます。昨今ではクラウドファンディングが隆盛で、飲食店でも自分の掲げるアイデアに対して共感してもらい、大きく資金を集める例が出てきています。
そして“絆”。震災以降、飲食店と産地が繋がることが大きな一つの潮流になっていると感じます。志を一つにする集団同士で繋がっていく、という流れは今後も続いていくのではないかと思います。
藤森:ありがとうございます。
大澤さんはいかがですか?
大澤:そうですね、第一部の米山さんのお話とも繋がるかと思うのですが、僕は“ミッション経営”を挙げたいとおもいます。飲食店をやる意義とか、農業、漁業との共感性。こうしたトレンドがいま来ていると思いますね。
もう一つは“時間帯消費の多様化”ということ。夕方早くから飲んだり、ランチに使ったり、ここ最近では一つの店の使い方がみんなバラバラになってきている。そういったことを考えながら飲食をやるということが、いま求められてきているんじゃないかと思います。
藤森:ありがとうございます。亀高さん、いかがでしょう。
亀高:一つ目は“ボーダレス”ということです。昨年は吉野家による“吉呑み”が話題になりましたが、こうした業種・業態の枠を超えたボーダレスな攻め方のなかに、飲食業界の新たなチャンスが生まれてくるんじゃないかなと思います。
例えば東京・市ヶ谷に「炭火焼肉なかはら」という人気店があるんですが、最近「ヘンリーズ バーガー」というバーガーショップを代官山に出して話題になっているようです。そういった手法が今後は問われてくるのではないかと思います。
藤森:業種の多様化ということなんですか?
亀高:そうですね。
お酒の飲み方一つ取っても、昨今では洋食業態でありながらワインだけじゃなく日本酒も出すというような、ボーダレス的な発想が顕著です。今後はより重要になってくるのでは、と感じます。
あとは昨年も挙げたのですが“肉食シニア”。“肉食女子”が定番化して、いよいよ年を取ればとるほど肉を食べて健康になろう、という年配の方が増えているような気がしますね。そこの層を取り込むことで新しいマーケットができていくんじゃないかと期待しています。
藤森:なるほど。川端さんはいかがですか?
川端:今の亀高さんの話にも関連することになりますが、“専門店化を前提とするボーダレス”、これがいま激しく起こりつつあると思います。一方でちょい呑み業態もどんどん進化している。この対極にある二つの現象によって、居酒屋業態を侵食する動きが今後さらに強くなってくるだろうと予想されます。さらにコンビニがちょい呑みに参入するとなれば、やっぱり個店の“専門店化”は不可欠なのではないかと思います。
あとは、(佐藤)こうぞうさんのように“イートグッド”なんてあまり言いたくないんであれなんですが(笑)、別の言葉でいうとすれば“おふくろの味”というキーワードですね。それはどういうことかというと、オーガニックとかそういった記号ではなく、「無償の愛」を持って自分の家族や子供に食べさせたいものを提供しているか?ということです。いわば本当の「お袋の味」、これが今後は飲食店の一つの基準になってくるんじゃないかと感じます。
藤森:こうぞうさん、“イートグッド”というテーマが川端さんから出ましたが(笑)、いかがですか?
佐藤:話の腰を折られてしまったところで恥ずかしいんですけど(笑)、私はまず“イートグッド”を挙げたいと思います。例えば飲食店経営者が30代で結婚して子供ができたとなった時に「子供にはコンビニのものを食べさせたくないよね」という感覚は基本としてあるんじゃないか。できるだけ生産者と連携して化学調味料や加工食品を使わずに、手作りでメニューを出していく、そういう流れが今年は大きな波になるだろうと思います。
二番目は“酒場”ですね。昨年は「和民」さんを代表とする居酒屋チェーンの凋落というトピックがありましたけれども、基本的には世の中全体が、居酒屋チェーンが生まれた1970~80年の前の時代に逆行しているんじゃないかと思うんですね。1960年代、まだ大手チェーンがなく、食堂とか酒場、あるいはスナックの時代。そういった店主の顔が見えて目の前で調理してくれるような店に、いまお客さんの気持ちは戻ってるんじゃないかと感じます。
それと三番目は、“新しいガストロノミー”。ちょっと景気がよくなって、客単価1万円を超える業態がいま結構好調なんですよね。そんななかで、例えば「エルブジ」や「ノーマ」で修行したようなシェフがガストロノミーをカジュアルダウンしたレストランをオープンして、全く予約が取れないような状況になっています。5~8品くらいのコースそれぞれのお皿ごとにアルコールをマッチングするような形のお店は、藤森さんも昨年『チェナクルーム』をオープンしましたね。
この3つに共通したこと。それはやはり酒を飲む場としての新しい体験をいかにお客さんに提案していくかということだと思います。
藤森:ありがとうございます。
皆さんそれぞれのコメントに対して意見など何かありますか?
佐藤:みなさん、“イートグッド”使って下さいよ!(笑)
一同:(笑)
Q2.「焼肉業態」「肉業態」について徹底討論・肉業態の進化はどこまでいくのか?
藤森:次の質問に行きます(笑)。
今回は焼き肉ビジネスフェアということで、肉業態について、皆さんのご意見を伺わせてください。ムック『焼肉店』を出版されている亀高さんからお願いします。
大林:ぜひお勧めのお店を3店舗くらい教えてください!(笑)
亀高:京都のお店を紹介しようと思ってたんですけど、それでもいいですか(笑)。
いま、とにかく焼肉業界は調子がよくて、この傾向は今後も続いていくんじゃないかなと思っています。現在の焼肉店は、そこからさらにいろいろな専門店に細分化している傾向にあるんですが、なかでも私が注目しているのが“おまかせのコース焼肉”業態です。いますごく増えてきてますね。
例えば和食であれば割烹とか料亭のように、いわゆる“おまかせ”には単価1万円以上の高級店というイメージがあったのが、さきほど、こうぞうさんもおっしゃってましたが、カジュアルダウンしてきているんですね。客単価5000円前後の焼肉店がおまかせコースで提供するというケースが出てきている。
例えば京都の久世郡というところに「多来多来」さんというお店があるんですが、注文の8割がおまかせコースという人気店です。まあ、お店からしてもいいものが出せるメリットがあるし、お客さん側もより満足感を得るためにおまかせを選ぶということが今後増えていくんじゃないかと思います。
藤森:ありがとうございます。
あと、お店の人が焼いてくれる焼肉屋さんが最近結構増えてきてる気がするんですが。
亀高:それも増えています。大阪・北新地にも「やまがた屋」さんという店主が焼いて提供するというスタイルのお店があって、ホルモンで1万円くらいのコースなんですがすごく人気があります。
スタッフが焼くスタイルでいえば「ふたご」さんなんかも有名ですが、いろんな考え方があるなかで、経営者さんにとっては一番いい状態で肉を食べてもらえるということと、食事がスピーディに進むことでより回転が早まるということがメリットとして大きいのではないでしょうか。
藤森:確かにそうですね。
大澤さん、フェイスブックによく焼肉の写真をあげてらっしゃいますが最近はどうですか?
大澤:そうですね、これは僕の個人的な意見になっちゃうのですが、僕自身は結構セルフの焼き肉の方が好きなんですよね。というのも、焼いてくれるところにいくと、どうしてもお店側の説明とか話を聞かなくちゃいけない。その都度テーブルの会話が途切れてしまうので…。
僕は、現在の流れであれば焼肉バーとか、日本酒と合わせたり、ワインと合わせたりというような酒場的な焼肉というものを支持します。なぜならそこはやっぱりお客さん主導で、能動的に飲食を楽しむ場所だからですね。
藤森:こうぞうさん、今うなずいてらっしゃいましたけど、共感されますか?焼肉ってあんまり行かれないんですか?
佐藤:いや行きますよ。例えば「炭火焼ホルモンぐう」さん。いい店ですよね。昔だったら6~7千円くらいしていた肉をコスパよく、4~5千円で提供している。最近の焼肉店は企業努力がホントにすごいと思います。
あと残すのはね、“イートグッド”ですね!
藤森:ハイ(笑)。
佐藤:ちゃんと生産段階で、自然であるための努力をした良質な肉を提供するオーガニックな焼肉とか、その辺をやってほしいですね。そういう時代が来るんじゃないかなと思っています。
藤森:川端さん、ニヤニヤなさってますけど、一言どうぞ。
川端:そういうめんどくさい店、僕はあんまり行きたくないな(笑)
ええと、僕は、昨日六花界の森田隼人さんの新しい店「CROSSOM MORITA」に行きまして、衝撃を受けました。これは、マンションの離れ一棟の1階と2階を借り切って「日本酒吟醸熟成肉」を出す店です。彼は「六花界」から「初花一家」「吟花」「五色桜」と、同じ肉をテーマにそれぞれ別の業態を展開しているんですけれども、「六花界」以外はいずれも会員制、完全予約制を採っていて、さらに「六花界」に行かないと次の店の情報が得られないという仕組みでやっているんですね。「CROSSOM MORITA」も他の店の常連か会員のみ限定で1日1組か2組しか予約を受けない。
で、彼が目指しているのは、「焼肉を料理にしたい」っていうことなんです。焼き肉屋のオヤジがいつまでたってもシェフと呼ばれないのはなぜだと。自分は「日本初の焼き肉出身のシェフ」になるんだと主張している。
そこの2階には、グループ全店に来店したVIPしか入れないんですが、壁一面にプロジェクターで景色が映し出されていて、音楽と映像が組み込まれた中で料理を提供する。そういった劇場型の焼肉店を、鶯谷のラブホテル街のど真ん中でやっているんです。
彼は今回初めてクラウドファンディングを使いましたが、それは資金調達が目的というよりも、「ミートキープ」といって、お客さんが次回の予約をする際に肉をキープして、次の来店まで熟成しておいてもらうという「仕組み」を業界で最初に自分が手掛けたという記録を残すためだと言っていますね。
千葉:私が森田氏を取材したときには、25万円支払うと2階のプロジェクションマッピングの映像を使用した特別ルームを貸し切りで自由に使えるようなことも、つまりはクラウドファンディングを活用することによって、ディープな顧客を掴む仕組みを作っていく一環だという風に言っていました。
川端:ちなみにクラウンドファンディングは1年で止めてしまう予定だそうです。「金さえ払えば何してもいいんだろう」というようなお客さんばかりになると困るからということで。あくまで“記録”を残したいということだと思います。
藤森:なるほど。
佐藤:クラウドファンディングから肉業態に話を戻すと、“熟成”とか“赤身肉”とか、そういうのはもういいんじゃない?と思うんですよね。
藤森:それは、2016年に限らずということでいいですか?
佐藤:そうです。僕がこの辺から肉業態をやるとしたら“ジビエ”ですね。ジビエ、来てますよ。そのなかでも神田の「焼きジビエ 罠」とか、夢屋の小林さんはやっぱり突き抜けてますね。ポリシーが非常にはっきりしている。害獣駆除という社会的な目的も掲げているし、九州大分の椿説屋というハンター会社と組んで、シカを手で絞めるようなやり方を採っている。これこそ“イートグッド”じゃないのと。完全な自然でしょ。
川端:僕はジビエとか、熟成肉ブームについては、トレンドからちゃんと定着していくものに関してはそれでいいと思います。ただ熟成肉にしても、ちゃんと衛生管理ができなかったり、カビ菌を添加したりして“ぽい”ものを売っちゃうと、結局全体に迷惑がかかるということは危惧してきました。
ジビエでも、ハンターの腕が確かでちゃんと処理できているか。飲食店側の正しい知識も必要で厨房内で鳩羽をむしるようなことをしていると、厨房内が羽についたダニで大変なことになってしまいますから。“イートグッド”じゃなくてバッドなこともあるわけです。どういう方法で処理したかがわからないと危ないですよ。トレーサビリティが大きな課題です。
佐藤:業界が整理整頓されてから出てきても遅いんですよ。まず、最初にやったもん勝ちですよね。安全面をきちんとやれというのは当然のことであって。どこもオーナーさんとハンターがちゃんと信頼関係を結んでやっているし、例えば「和ガリコ」だってジビエ早かったじゃないですか。
大林:はい。ジビエって、生産者も少なく量が取れない世界なので、仕入れに関してはそこをどれだけ牛耳れるかということにポイントを置いています。あとは安全性で、日本であれば、見える生産者と繋がっていることが大事だと思います。
亀高:小林さんのお話が出てきたので、もう一個のキーワードとして“カジュアル・ジビエ”というのを挙げたいと思います。
例えば「ベッカーズ」は、信州鹿肉を使ったりしたジビエバーガーを出すんですが、そういうカジュアルなジビエメニューが今後どこまで飲食業界に広がるのかということにはすごく注目しています。
先日、地方創生担当大臣の石破茂さんにお話を聞く機会があったんですが、害獣駆除の食肉活用にすごく力を入れていて、「皆さんぜひ使って下さい」と言っていました。
藤森:ありがとうございます。
Q3.肉業態のキーマンは誰か?注目企業、経営者。シェフ、店舗 等
藤森:では次に、肉業態のキーマンは誰か?という質問です。あるいは注目企業、経営者など。千葉さんいかがですか?
千葉:私は岡田賢一郎さんに非常に注目しています。岡田さんというのは、90年代に「ちゃんと。」という店を立ち上げて暴風雨のような勢いでブームを巻き起こした人です。彼はソルトグループの井上盛夫さんと一緒に、昨年西麻布に「ジ イノセント カーベリー ワギュウ スペシャリティ ラボ アンド レストラン」という焼肉店をオープンしました。岡田さんのように、経営の第一線にいた人がキャリアをいったんリセットして、クラフトマンとしての人生を再スタートしたということは、これからの焼き肉店のプロモーションから見ても大きく標榜できることではないかと思います。
先ほど森田さんのことを川端さんがお話なさってましたが、料理人の中でもいわゆる職人、「クラフトマン」としてのポジションを社会のなかで押し上げていこうとする動きは今後さらに重要になってくると思います。
藤森:いま岡田さんが取り組まれてるのはどんなお店なんですか?
千葉:それはですね、お店に入ってすぐ正面にあるショーケースの中に、ズラーっと精肉が並んでいる。そして産地やランク、部位、それがどういう状態の肉かということがすべて記されていて、お客が好みでセレクトすることができるんですね。「カーベリー」はお肉を切り分けて出すレストランという意味なんですが、ほぼおまかせという形式の店です。ショーアップされた空間の中で、しっかりした技術と共に、出自の確かな肉を味わうという一つのショー空間になっています。
藤森:なるほど。大澤さんはいかがですか?
大澤:僕は肉業態として、しゃぶしゃぶ的なものや食べ放題なんかが最近結構多いと感じており、トレンドとしても注目しています。例えば「物語コーポレーションの「ゆず庵」やKRフードサービスの「かごの屋」とかですね。
藤森:ありがとうございます。
Q4.2016年、流行る肉業態は!?
藤森:では次の質問で、今年流行る肉業態や焼肉店について、皆さん何かありませんか?
千葉:私は、今年はリオデジャネイロ五輪の影響で、バーベキューが流行るんじゃないかと予想しています。ワンダーテーブルさんの「バルバッコア・グリル」ですが、あれは“バーベキュー”の語源なんだそうであります。沢山の人たちとワイワイと食事を楽しむという魅力ですね。
そして、その対極にあるのが「立ち食い焼肉 治郎丸」。一人で好きな肉を好きなだけ食べられる魅力ということです。こうした二極化といいましょうか、そのなかで価値の高いものが選ばれていくということになるのではないでしょうか。
藤森:大澤さんはいかがですか。
大澤:そうですね、やっぱり“ジビエ”ですね。あとは流通をどうするかということですが、それは飲食店側と生産者側が一緒になって冷静に管理を進めて、そこを元にお客様の評価が生まれていくだろうと思います。
藤森:僕は洋食の人間なんで、ジビエというと季節的なものというイメージがあります。で、流通が非常に不明確だからこそ価値があるという風に感じるんですが、こうぞうさんのおっしゃるように放射能の問題、それから川端さん、大澤さんがおっしゃったように衛生面、流通の問題、いろいろありますよね。こうぞうさんはどう思われますか。
佐藤:安全性は担保されなければなりませんが、ちょっと危ないという感じがあるから面白いともいえる。例えば渋谷にアナグマをすき焼きで食べさせる店があるけど、ワクワクするじゃないですか。「アナグマってこんな味なんだ!」って。
藤森:ワクワクするんですか(笑)
佐藤:実際食べてみたら美味しかったですよ。「宇田川カフェ」をやっているLDK
のオーナーさんがやっていて、彼は本気です。要は誰と組んでやっていくかですよね。
藤森:流通を整備していくのは大事だけども、あまり整いすぎるとジビエの面白さがなくなっていくというのは難しい問題ですね。
藤森:他に2016年流行るというキーワードはありますか?
大澤:牛カツ。
川端:そう、「京都勝牛」も流行ってて行列すごいですよね。ポイントは食べ方で、タレがいくつかあって、ワサビ、醤油、カレーソースとか、好きな食べ方で楽しむ。すごく上等な肉じゃなくてもトンカツくらいのボリュームでおいしく食べられるというのが爆発的に人気になっている。FLが50%くらいで、アルコールのない業態なのにずっと行列していて、インバウンドもかなり取り込んでいる。今年はどんどん出店していくでしょうね。
藤森:他には何かありますか?
佐藤:鴨じゃないですか。エー・ピーカンパニーさんも着手しているし、カジュアルに出す店が増えていますよね。
亀高:自分もやはり勝牛さんを挙げます。これからは肉の食事業態が注目されてくると思います。去年はローストビーフ丼が大ブレークしましたが、例えば名古屋に「ホルモンショウヤ」さんという焼き肉店があるんですが、ホルモンを炭火で炙った「ホルモン重」が評判です。そういったものがこれからどんどん生まれてくるんじゃないかなと思います。
藤森:ありがとうございます。
Q5.2016年、外食業界の予想される「三大ニュース」をあげるとしたら何?
藤森:では質問を変えて、最後に2016年外食業界に予想される3大ニュースを教えていただけたらと思います。
千葉:私は冒頭でシュリンクと申し上げましたが、市場が小さくなる、これは事実です。そのうえでヒントがあると感じるのが「ある日突然40億の借金を背負う、それでも人生はなんとかなる」という本を出された湯澤さんという方です。
彼は大船に本籍を置く14店舗を展開する会社の経営者なんですが、40億というのは自分で作った借金ではなく、お父様の時代の借金なんですね。で、別の会社で働いていた彼が会社を継いだのを機にその借金を返していくというストーリーで、16年でほぼ完済しています。注目したいのは、この会社の利益の出し方です。
まず彼は、若い女性層を取り込みたいと客層を模索した。が全然うまくいかなかった。で結局ニッカボッカをはいた層、40~50代、60代のある意味ではダサい客層に標準を極めていったんです。つまり自分の会社の強みは何か?ということを見極め、不採算部門を手放し、うまく利益が出るところに収斂していった。その結果、かつて33店舗あったのが現状は14店舗という数であるにもかかわらず、今の方が利益率が高いという結果に導いたのです。そういうスタンスは、これからの時代とても大きなヒントがあると思います。
この本はPHPから出ていて、私いま第二弾を準備している所でして。ということで、皆さん大船に行こう!
大澤:僕は、シュリンクと重なるかもしれないのですが、“ロイヤルカスタマー作り”です。マーケットがシュリンクしていくなかで、今後はトレンドを追いながら進化し続けていく事が必要で、いかに一人のお客様の来店頻度をあげていくかがすごく重要になっていくと思います。常連客づくりに取り組まない店は、今後もしかしたら存続が危ないのかもしれないという風に思っています。
佐藤:今年はやはりチェーン店の存在意義が問われる、そんな年になると思います。「和民」が退場するのか、再生できるのか。
また、そんななかで「串カツ田中」は上場するのかもしれないし、「ダンダダン酒場」のようなネオチェーン店のステージが上がって一気に出店し、注目されるのかもしれない。その辺が見所かなと思います。
川端:僕は将来の消費税増税と軽減税率のことに絡んで、コンビニが店内に飲食スペースを設けるほかに、どういう実験を始めるかということに注目しています。
注目する経営者に関しては、沢山いますが若手の人に限れば、「BIODYNAMIE」を展開するブラバスの相原さん、彼は元「土間土間」にいた方で、一見洋食業態に、よく見ると居酒屋メニューを非常にうまく落とし込み、小田急線沿線の祖師ヶ谷大蔵でママさんがベビーカーを連れてくるような店をとても繁盛させています。あとは「炭リッチ」の平野健太さんですね。
亀高:川端さんがおっしゃるように、来年は軽減税率の影響でややこしいことになりそうです。外食は、家飲み、コンビニ飲みに負けない業態の魅力がますます問われると思います。
例えば居酒屋がクリスマスにこだわったチキンを作って相当売ったという話もありましたし、もっと外食側からコンビニや中食を攻略していくような動きや新たなビジネスモデルが出てくることを期待しています。
大林:新橋の「クイーンオブチキン」さん、クリスマスチキンを600~900本くらい売ったみたいですね。
川端:“ブランディング”ということにも注目したいですね。飲食店というのは要するにメーカーです。材料を買ってきて、店内で調理して、提供する。それをブランディングによって、お店を増やすだけじゃなく、数を増やさなくても利益ができる仕組みをきちっと作らなくちゃいけない。そういうことがかなり注目されていくんじゃないかと思います。
千葉:ブランディングということで気づいたんですが、「がブリチキン。」、一度、チキンを持ち帰りたいとお店に頼んだところ、箱のパッケージにキャラクターが描かれていて、強烈な印象に残りました。そういった意味では1号店から非常に強くブランディングということを意識していたと思います。
亀高:そういえば、一つ出なかったなと思うのが、“牛タン”。牛タン酒場っていますごく増えてますよね。牡蠣と通じるところがあると思うんですが、日本人て牛タンが大好きで、牡蠣と牛タンの二本柱とかがあってもいいのではないかというくらい。今後増えてくるんじゃないでしょうか。
大林:スパイスワークスさんが去年から牛タン業態やっていて、社長の下遠野さんがすごく儲かってるみたいですよ。
亀高:(笑)。牛タンは今年注目したいですよね。
佐藤:コンビニに勝つのは簡単なんですよ。“イートグッド”なんです。肉業態でいえば、肉料理とどんな酒を合わせるか、クラフトビールとか、あと日本酒とか。クラフトビール、日本酒のトレンドは強いですよ。店内で日本酒を醸造している「ほたる」という店も出てきてますしね。
千葉:外食っていうのは、家で食べる3倍のお金を払っているわけで、その3倍の価値をお客さんが評価した瞬間から意義が生まれるということです。皆さんには、お客さんが「楽しい」と感じる豊かな外食の世界を作っていただきたいと思います。ご清聴ありがとうございました。
藤森・大林:ありがとうございました。