新・編集長コラム

あの店、いつも混んでるよね―フラストレーションを感じる店こそお客を引き付ける「厚利少売」型の繁盛店

PROFILE

大関 まなみ

大関 まなみ
1988年栃木県生まれ。東北大学卒業後、教育系出版社や飲食業界系出版社を経て、2019年3月よりフードスタジアム編集長に就任。年間約300の飲食店を視察、100軒を取材する。


いつ行っても満席!予約の取りにくい人気店!――最近のSNSではこんなうたい文句で飲食店を紹介する投稿が増えています。こういう表現をすると「バズる」のです。

ひと昔前なら「この店のこの料理がおいしい」「この店の雰囲気がいい」などと店のコンテンツに言及するのが中心でした。しかし最近では「その店がいかに人気か」を強調するようになりました。「予約困難」「満席が続く」などと煽り、「限られた人しか楽しめない」という限定感が人を引き付けるようです。この“限定感”がSNSバズの今のトレンドです。

「厚利少売」という考え方があります。供給量をあえて絞り、その分、価値を付けて高い値段で売っていくという考え方です。この反対語が「薄利多売」、たくさん作って安く売ること。しかし、人口減少の日本では薄利多売モデルを続けるには難しい場面も増え、そこでこの厚利少売が注目されているのです。飲食店においてもこの考え方は十分応用できるでしょう。次からは事例を紹介します。

坪月商90万円の繁盛の理由とは?

例えば、学芸大学の「目黒 三谷」は、わずか7.7坪14席ですが、月商700万円を売る繁盛店。人通りの多い商店街の角地にある2階建て古民家で営業しており、常に賑わう様子は多くの人が知るところになっています。「入ろうとしたけど満席だった」という経験をした人も多く(わたしもそうです)、「常に満席の店」のイメージが定着しつつあります。

しかし、店内はそう広くはなく、14席しかありませんのでそれなりに予約が埋まるのも早いのも事実です。一方で店の視認性は抜群によく、視覚的には大きな存在感を与えています。人々が抱く存在感の大きさに対して少ない席数、このギャップが「限られた人しか楽しめない」という限定感をつくり出しているように思います。実際に店づくりのこだわりは強く、毎朝芝浦まで行き仕入れるホルモンを使った料理や臨場感ある炭焼き、自分たちで細部にこだわってDIYした内装など、価値を感じるポイントは枚挙にいとまがありません。1日に受け入れられる客数は少ない中、来たお客に最大限の価値を提供した結果が月商700万円を売る繫盛店ということ。まさに「厚利少売」を実践していると言えます。

学芸大学に「目黒 三谷」がオープン。芝浦で仕入れる朝挽き肉がウリの炭火居酒屋、DDやオーイズミフーズ、TBIを経験した若手オーナーの創業店(2024年2月27日公開)

お客に“フラストレーション”を与えるのが繁盛の秘訣?

また、こちらも今や繁盛店となった三軒茶屋の立ち飲み「コマル」。運営会社の2TAPSは「マルコ」はじめ三軒茶屋で複数の繁盛店を展開しており、やはり「いつも混んでる店」という印象を持っている地元の人は多いです。

「コマル」を取材した際、代表の河内さんは「お客様一人ひとりに目を配る。それができなくなくなる大箱では僕らのアイデンティティが揺らいでしまう。狙うのは、小さな店に多くの人が溢れている絵。『いつも賑わっているいい店』と、ポジティブな意味でお客様にフラストレーションを与える店になりたい」と言っていたのが印象的でした。これもまさに「厚利少売」です。小さな店でお客一人一人に目を配る。ポジティブな意味でのフラストレーション。このフラストレーションが大きすぎるのも問題ですが、完全になくしてしまうと、そのバランスが崩れてしまうことを河内さんはよく知っているのだと思います。

坪月商60万円の三軒茶屋の大繁盛店「マルコ」&「ニューマルコ」。待望の3店舗目「コマル」が開業、360度の円形カウンターの立ち飲みスタイルで、すでに連日3回転の大盛況!(2018年12月14日公開)

これらの店はサイズ感が絶妙です。もっと広い店でも集客のポテンシャルがあるのでは、と思うところをあえて少し狭くすることで「限られた人しか楽しめない」イメージをつくり出し、「厚利少売」を可能にしています。

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