「串かつでんがな」で鮮烈な“ベタコテ業態”への参入を果たしたフォーシーズ。同社が続いて投入してきたのが「鉄板酒場 鐡一」である。現在、赤羽と四谷に2店舗を展開。鉄板焼きと煮込み料理をメインとしているが、ビールや焼酎、かちわりワインとともに、「名物ホットとん」や「どて煮」など、これまでの大衆酒場料理に一味加えた多様なメニューを揃えている。店内には提灯がぶらさがり、BGMもどこか懐かしい。最近、サラリーマン・OLが多い田町、神保町にオープンした「大金星」は、朝挽きのもつ焼をはじめ、焼きたての「夜鳴き焼きそば」や牛、豚、鶏の卵とじ料理などを売りにした店。手がけたのは、「ろくまる五元豚」「鍋ぶん」のプロデューサー、カゲン・中村悌二氏と際コーポレーション・中島武氏のチーム。経営はレインズインターナショナルの「牛角」のFCなどを初期から展開した倶楽部二十九。既存のフランチャイズパッケージへの帰属をやめ、外部プロデューサーと組んで新しい大衆酒場業態へ挑戦したかたちだ。 “低価格”を切り口にした「ネオ・大衆酒場」も続々と生まれている。“均一低価格”の居酒屋チェーンが話題になっているが、4月のワタミによる「250円居酒屋」によって、このブームもピークアウトするのではないか。ワタミに先だち、レインズインターナショナルが二年ぶりの新業態となる「ぶっちぎり酒場」を渋谷にオープンした。“平成版大衆酒場”をうたっているが、メニュー全品294円の均一居酒屋である。養老乃滝は神田に一品100円台のメニューが並ぶ“激安酒場”「一軒め酒場」をひっそりとオープン。誰もが養老乃滝グループとは思わないが、いまや神田のサラリーマンの聖地化している。このように、「ちょっと一杯ひっかけて…」というサラリーマンのニーズの応える“安くて、旨くて、懐かしい”の三拍子が揃った「ネオ・大衆酒場」が、これからの東京の飲食マーケットをリードしていくような予感がする。 もちろん、鶏なら鶏、魚なら魚、ホルモンならホルモンに徹底的にこだわる“単一素材型”のベタコテ業態もさらに増えていくだろう。今日(3月18日)オープンする八丁堀の「東京鮪酒場」はマグロをコアコンテンツにしており、刺身から寿司まで出てくる店だ。“単一”でありながら、その素材の様々な提供法を考案した業態。経営するのは、かつてデザイナーズレストランブームをリードした企業の一つであるメッドダイニングだ。7年間“引退”していた掛本明夫オーナーがベタコテブームに我慢ができず再び動き出した。「でですけ」のエスカンの十河幸弘社長も大箱の「銀座ホルモン」の隣に3月23日、鶏専門業態「鶏バカ一代」をオープンする。十河さんのポリシーは、「魚なら魚、鶏なら鶏の“専門バカ”になれ!」というもの。バカといわれるぐらい、その分野を極めてこそプロであり、一流だという意味だ。 こうした“単一素材型”のベタコテ業態が進化発展をとげていくのと同時に、次のスタンダードとして「ネオ・大衆酒場」という新しい“総合居酒屋”も様々なかたちでマーケットを拡大していくだろう。時代もそれを志向している。自民党に代わる政治を期待して民主党に票を入れた国民は、最近の民主党のていたらくを見て、「もう政治には期待できない」と思いはじめている。デフレ不況は底知らずで、人々の心はえもいわれない不満、不信という“ガス”がたまっている。“龍馬ブーム”はそのハケ口であり、人々は時代の大転換、新しいヒーローの登場を待ちわびている。まさに今の世相は、幕末と似ている。明治維新の直前、民衆の“ガス抜き”として全国に沸き起こったのが、人々が踊りながら世直しを叫ぶ「ええじゃないか騒動」。「ネオ・大衆酒場」は現代人の“ガス抜き”の場である。そのうち、そうした世の中の空気を織り込んだ「ええじゃないか酒場」や「日本世直し酒場」などが出現してくるのではないか、そんな予感がしてならない。
コラム
2010.03.18
「ネオ・大衆酒場」時代が来た!
やきとん、煮込み、ホルモン、浜焼き...。最近、急速に増えつつあるベタコテ業態"。これまでは、それぞれのジャンルを極める"専門専科化"がテーマだったが、これからはむしろ新しい"総合化"の時代が来るのではないか。「ネオ・大衆酒場」時代の到来である。"
佐藤こうぞう
香川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本工業新聞記者、雑誌『プレジデント』10年の編集者生活を経て独立。2000年6月、飲食スタイルマガジン『ARIgATT』を創刊、vol.11まで編集長。
その後、『東京カレンダー』編集顧問を経て、2004年1月より業界系WEBニュースサイト「フードスタジアム」を自社で立ち上げ、編集長をつとめる。
現在、フードスタジアム 編集主幹。商業施設リーシング、飲食店出店サポートの株式会社カシェット代表取締役。著者に『イートグッド〜価値を売って儲けなさい〜』がある。