“裏神田”という定義はないが、この言葉を最初に冠したのは、小川町にある「裏神田 自然生村」という店。神田西口、北口から東は秋葉原、西は大手町、神保町までの範囲にあるエリア。淡路町駅、小川町駅周辺の神田多町、神田司町、神田美土代町などの路地裏がコアな“裏神田”のストリート。昔からある商家や民家の一軒家、小さなオフィスビル群に混ざって、最近は新築マンションが増えた。夜はサラリーマンが帰路に立ち寄る昔ながらの縄のれんや赤提灯、食堂などが多く、新しいコンセプトの店はほとんどなかった。しかし、マンションが増え、夜間人口が多くなると、徐々にニューカマー飲食店が開店し始めた。最近オープンした3店舗はまさに“裏神田”のベンチマークになる店だ。まず、10月10日オープンのクラフトビール専門店「CRAFT BEER MARKET 淡路町店(クラフトビアマーケット)」。大手町から淡路町に伸びる外堀通り沿いにある。虎ノ門店、神保町店に次いで3店舗目の出店となる。同店最大の特徴は、グラス1杯(250ml)480円、パイント780円の均一価格での提供スタイル。これまで高級感のあったクラフトビールを手軽に楽しめる。“かっこよく立ち飲める店”を内装コンセプトに掲げた店内は、50席のうち28席をスタンディング席に。入口すぐに設けた30タップのビアサーバーカウンターと、その対面にあるダイニングテーブルをスタンディング席として開放することで、一人でふらりと来る客や、2、3軒目に軽く飲む客を吸収する。空冷式の太いシルバーパイプから注がれるタップは30本。こ鮮度感、臨場感がクラフトビールの魅力をぐっと引き出している。料理のメインは多種類のオリジナルピッツア。「クラフトビアマーケット淡路町店」の先を淡路町駅のほうに進み、右側に折れた路地に佇む2階建ての一軒家が8月23日にオープンした日本酒バル「和酒和味Kokori(ココリ)」。「ココリ」とは“心”の意味。オーナーの金沢英信さん(フードソリューションズインターナショナル代表取締役)は、日本マクドナルドに6年半いて、独立して日本酒バルを開いた。完璧なシステムで動くマクドナルドとは対照的な業態。1階はカウンターだけだが、マクドナルド出身者らしく立派なグリラーをうまく使いこなして和のテイストの豚料理や変わりダネのピッツアをつくる。日本酒は小さな酒蔵の珍しい純米酒が30種類以上飲める。「30銘柄ぐらいがオペレーションしやすいですね」と金沢さん。いろんな銘柄を楽しんでもらいたいと、グラスサイズは60mlと90mlのみ。酒のジャンルをモダンとクラシックに分け、それぞれライト、ミディアム、フルに分類。6ジャンルから選ぶ。モダンは米甘系、クラシックは淡麗辛口系。このあたりも新しい試みだ。日本酒バルらしいバルといえよう。三つ目は、酒販店の神田小西が小川町のに近い路地裏に倉庫を改造して2年前に開業し、この通りを変えたといわれる「ワインホール神田小西」が隣に10月17日オープンした立ち飲みワインバル「角打ち 神田小西」。“WINE&GRILL”を売りに、ワインと炭火焼きの肉料理をカジュアルに提供する。料理は一品380円~だが、ボリューム感がある。ワインも500円前後と気軽にふらっと立ち寄れる、まさに「ネオ角打ち業態」。店に立つのは、ワインホール立ち上げから現場で努力してきたオーナーの奥さんで常務の三澤一水さん。女将というより、“マダム”といった気風で、一人で飲みに寄った女性客にもフレンドリーな接客をする。酒販店だから、びっくりするような品質のワインが嘘のような値段で飲めたりする。クラフトビールの「クラフトビアマーケット淡路町店」、日本酒バルの「ココリ」、そしてワインバルの「角打ち 神田小西」。飲食マーケットの最先端を行く店が“裏神田”に揃った。ぜひ、ホッピングしてほしい。
コラム
2013.11.07
いま“裏神田”ストリートが面白い!
神田エリアの飲食マーケットが活性化している。「ヴィノシティ」「ブッチャーズ」「デビルクラフト」「焼きジビエ 罠」「六花界」など、ワイン、クラフトビール、日本酒の店が話題をつくってきた。そして、いま神田と大手町、秋葉原、御茶ノ水、神保町までを囲む裏神田"が面白くなってきた。"
佐藤こうぞう
香川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本工業新聞記者、雑誌『プレジデント』10年の編集者生活を経て独立。2000年6月、飲食スタイルマガジン『ARIgATT』を創刊、vol.11まで編集長。
その後、『東京カレンダー』編集顧問を経て、2004年1月より業界系WEBニュースサイト「フードスタジアム」を自社で立ち上げ、編集長をつとめる。
現在、フードスタジアム 編集主幹。商業施設リーシング、飲食店出店サポートの株式会社カシェット代表取締役。著者に『イートグッド〜価値を売って儲けなさい〜』がある。