ある程度の店舗数があり、ブランド力が付けば、「どこでやるか」という出店戦略は大事になる。例えば、いま伸びている「串カツ田中」。30店舗まで来るには、同社独自の出店基準があった。それは、駅前商店街を抜け、住宅街に出る境目。できたら幹線道路沿い。クルマからも看板が目立つ1階路面。角地ならなお可、というものだ。ここから、50店舗、100店舗と伸びることは間違いないが、出店戦略を誤ると厳しい局面に立たされることもあるだろう。どこまでストイックにこれまでの路線を貫けるかで今後の展開が決まるような気がする。その「串カツ田中」の西池袋店のFCになったのが、悪立地でも繁盛店を作り続けた「アガリコ」(現在3店舗)のビッグベリー大林氏。大林氏は「『アガリコ』と『串カツ田中』は出店戦略も客単価も似ていますから、違和感はありません。むしろ、居酒屋系で強い業態だと思ったので選択しました」と話す。西池袋店も池袋駅からはかなり遠い悪立地。しかし、大林さんにとっては、「いまやるべきコンテンツ業態」と判断したのだろう。コンテンツの時代、5店舗未満のスタートアップ飲食企業にとって、大事なことは「どこでやるか」ではなく、「何をやるか」である。1号店、2号店で「駅前の好立地なら間違いない」と考えて、家賃坪3万円以上も払って出店して、あえなく閉店という失敗例を私はたくさん見てきた。立地のネームバリューに目を奪われて、コンテンツを磨き上げることを怠るからだ。西新宿七丁目、最近は「イカセンター」「タカマル鮮魚店」などの繁盛店が生まれ、飲食激戦地となっている。その激戦区を抜けて、奥に進むとひっそりした通りがある。飲食店はまばらになってくる。その一角に2年前「丸鳥るいすけ」がオープン。「てっぺん」出身のオーナー、類家さんは5月8日、さらに奥の通りに2号店「Wine no Ruisuke」をオープンした。近くには「ワイン屋」「日本酒バル 兼ル」などの繁盛店もあるが、ここはすでにオープン2週間で予約が取れない店に仕上がっている。1号店の“キラコン”である丸鶏のローストをここではピザ釜で素早く焼き上げる。2500円均一ワイン三浦野菜を差し込んだ500円前後のタパス料理が売り。このエリアにはなかった業態だ。いまの時代に強いコンテンツとは何か。それは、業態を絞って、極めることである。ワイン酒場ならワイン酒場、日本酒バルなら日本酒バルに業態を絞り、自分しかできない差別化したメニュー、サービスを極めることである。このブラッシュアップ作業が大事。客から「あ、この手の店は他にもありますよね」と思われたらダメ。「こんな店、初めて!」と感動させてこそ、ソーシャルネットワークや口コミで拡散する。そうした業態の“唯一性”が武器になる時代だ。それができれば、立地は大きな問題ではない。むしろ、立地に合わせるのではなく、そのコンテンツを立地に根付かせ、ドミナントをやって「立地をつくってやろう!」という発想を持つべきだ。そして、その立地が新しいブランドになる。立地ブランドのクリエイターになるのだ。その評価が定着すれば、多店舗展開はたやすい。好立地からの誘いや商業施設からもオファーがかかるようになる。好立地、好物件は追いかけて得られるものではない。相手からやってくるものだ。そのために、いまはひたすら「何をやるか」を極めるべきである。
コラム
2013.05.23
「どこでやるか」より「何をやるか」
最近、とんでもない悪立地でも繁盛店をつくりあげている飲食店オーナーが増えている。飲食店はますます「コンテンツ」(中身)が重視される時代。立地戦略ばかりにとらわれず、コンテンツに自信があれば悪立地だからこそ発信力を発揮できるのではないか。
佐藤こうぞう
香川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本工業新聞記者、雑誌『プレジデント』10年の編集者生活を経て独立。2000年6月、飲食スタイルマガジン『ARIgATT』を創刊、vol.11まで編集長。
その後、『東京カレンダー』編集顧問を経て、2004年1月より業界系WEBニュースサイト「フードスタジアム」を自社で立ち上げ、編集長をつとめる。
現在、フードスタジアム 編集主幹。商業施設リーシング、飲食店出店サポートの株式会社カシェット代表取締役。著者に『イートグッド〜価値を売って儲けなさい〜』がある。