新橋といえば、「オヤジの聖地」。しかし、最近、「新橋らしくない店」のニューオープンが急速に増えている。いつも満席の「魚金」洋業態や毎夜行列ができる立ち飲み「俺のイタリアン」の影響で、かつてはほとんど見られなかった女性同士の客が大量に流入してきていることが大きな要因だろう。飲食店が立ち並ぶエリアから外れた再開発が進むマッカーサー通りを背にして新しく建った高層マンションビル。1~2階には飲食店が入居しているが、その最も奥の1階角物件にオープンしたのが、「今夜もワイン」。テラスが気持ちいい流行りのワインバルだが、オーナーはかつて「青山ワインホール」で今回のワイン酒場ブームを仕掛けた大人の遊び場づくりの名人、足立さんの新店。西麻布「バンザイヴィーノ」や新丸ビルで「musmus」「来夢来人」なども経営している。その足立さんが、新橋のこの場所をに布石を打ってきたことが、大きな意味をもつのだ。ランチから朝4時まで営業。かなり広い店だが、気合が入っている。「魚金」本店近くにオープンしたのは「ビストロ ボラチョ」。白とワインレッドを基調とした、見るからに女性ターゲットの「新橋らしくないバル」だ。近くに姉妹店のスタンディング1号店「牛串&ワインバール ボラチョ」がある。オーナーは広告系らしいが、およそ新橋オヤジ系とはかけ離れた客層に驚いた。オーナーは、新橋エリアのまだ目に見えない潜在マーケットのポテンシャルを見ているに違いない。「俺のイタリアン」の近くには、やはり「新橋らしくないバル」がオープン。こちらは、スタンディング「丸金」(元「壌」)が、近くに出したはなれ的な店「丸金キッチン」だ。女将さんがいるキッチンバル。新橋オヤジ族には、ちょっと入りにくい感じ。さらに、昭和の匂いたっぷりのベタな店が並ぶ新橋駅前ビル1号館2階には、赤を基調とした「三笠バル」がオープン。この店をプロデュースしたのは、恵比寿や渋谷で大人のバーのほか、ビアパブ「目黒リパブリック」や代々木上原の「カニカンバー」など、たくさんのコンセプトバーをやってる小林さん。ここも明らかに女性ターゲットだ。売りは「100円ワインとイタリアンホルモン」。お通しの「生ハムパフェ」はサプライズメニュー。女性客の心理をよく分かっている小林さんらしい演出だ。この店のすぐ下には、立ち飲みバルの「ビーボデイリースタンド」新橋店や立ち飲み日本酒バルの「庫裏」がある。昭和の新橋を代表するこのビルも、確実に進化し始めている。いま新橋は、「らしくない店」が続々誕生している。この変化をどう読むか。これからは、「らしさ」から「らしくない」がキーワードになるのではないか。いままでは立地イメージを活かした新橋「らしさ」が店づくりの軸だったが、これからはエリアを進化させる「らしくない」けれども、欲しかったスタイルを持った店づくりへ軸がシフトする。そうした発想が、マーケットの成長を生み出す重要なポイントになるに違いない。この現象は、新橋のみならず、神田や赤羽などでも置き始めている。これからの出店戦略に活かしたい現象だ。
コラム
2012.09.06
「新橋エリア」が進化している!
いま飲食業界の話題をさらっている「俺フレ」「俺イタ」グループの1号店の「俺のイタリアン」が誕生した新橋。「魚金」グループの洋業態に対抗して出てきたわけだが、見事に大ブレーク。その影響もあってか、新橋に最近、「らしくない店」が増えている。
佐藤こうぞう
香川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本工業新聞記者、雑誌『プレジデント』10年の編集者生活を経て独立。2000年6月、飲食スタイルマガジン『ARIgATT』を創刊、vol.11まで編集長。
その後、『東京カレンダー』編集顧問を経て、2004年1月より業界系WEBニュースサイト「フードスタジアム」を自社で立ち上げ、編集長をつとめる。
現在、フードスタジアム 編集主幹。商業施設リーシング、飲食店出店サポートの株式会社カシェット代表取締役。著者に『イートグッド〜価値を売って儲けなさい〜』がある。