ブームとは恐いものである。『恐るべきさぬきうどん』(田尾和俊著)という香川発の本からヒットに火がついた讃岐うどんブーム。瞬く間に東京マー ケットを席巻し、「はなまるうどん」を代表とするセルフサービスFF業態まで産み落としたものの、ブームが去ってみれば撤退・廃業の山である。生き残った のは資本力のある一部のFCチェーン(M&Aのおかげだが)や特徴のある個店たちである。人気コンテンツとされている「製麺所系」にしても、決し て地に足がついた業態とはいえない。 そんなときに映画「UDON」の公開である。麺通団を創設した田尾氏の遊び心と地元出身の本広克行監督の思い入れが映画化の動機だと聞くが、讃岐う どんが地元ではどんな存在であるかということを知る材料としては参考になるのではないか。讃岐うどん店(うどんや)は地元では「食堂」であり「カフェ」で あり「キッチン」ある。“うどん職人”だけがつくるものではなく、そこかしこの“おばちゃん”“おっちゃん”がそれぞれ自分の味をもっている。香川最西端 の海の近くで育った筆者にとっては「いりこ出汁のきいたかけうどん。具は薄焼き卵、なると(いまはほとんど無いが)、三角の小さな油揚げの3点セット」が うどんであり、ぶっかけや釜玉などは他所のうどんである。 話が横道にそれたが、讃岐うどんに限らず、郷土料理やご当地料理はいまもの凄い勢いで東京マーケットに結集し、新業態開発やメニュー開発の重要な テーマにもなっている。しかし、恐いのはブームが来たときだ。そこで浮き足立って流行を追うと怪我をしかねない。実は昨日も「ジンギスカン」を開業したも のの、拡大を急いだあまり窮地に陥ってしまった経営者と話をした。 ジンギスカンにも北海道スタイルをそのまま持ち込んだ「北海道ジンギスカン」と肉の仕入れや調理スタイルを東京人に合わせた「東京ジンギスカン」に 分かれる。そのどちらかに特化し、コンセプトとターゲットを明確にする必要がある。スタートはマイナーコンテンツである。マスに広げていくためには緻密な 戦術が必要だ。時間をかけて「小さく生んで大きく育てる」我慢も要る。それを極め「スタイルを確立できた店」が生き残る。それにしても「恐るべきはブー ム」である。
コラム
2006.08.24
映画「UDON」公開に想う
今週26日から讃岐うどんをテーマにした映画「UDON」が公開される。讃岐人、しかも「香川WEST」生まれの筆者としては、放ってはおけない話題だ。とはいえ、レストランマーケットではもはや讃岐うどんブームは過去のもの。「再ブーム来たる?」......そんなに甘くないのが飲食業界である。
佐藤こうぞう
香川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本工業新聞記者、雑誌『プレジデント』10年の編集者生活を経て独立。2000年6月、飲食スタイルマガジン『ARIgATT』を創刊、vol.11まで編集長。
その後、『東京カレンダー』編集顧問を経て、2004年1月より業界系WEBニュースサイト「フードスタジアム」を自社で立ち上げ、編集長をつとめる。
現在、フードスタジアム 編集主幹。商業施設リーシング、飲食店出店サポートの株式会社カシェット代表取締役。著者に『イートグッド〜価値を売って儲けなさい〜』がある。