個店や中小飲食企業に比べ、その店舗数の多さでブランドをつくってきた大手・中堅チェーン系企業。駅前の一等立地に大箱の店を構え、目立つ看板で集客してきた。客を選ばず、万人受けする展開しやすい業態がほとんど。いわば、安定感、安心感を売りにしてきたと言える。しかし、逆に言えば、マーケットの変化や顧客ニーズの変化に鈍感だった。ブランドに胡坐をかいていたといえるかも知れない。それが、既存業態を守ることから、積極的に尖った業態に変えていくという攻めの姿勢に転じたのだ。数々の金字塔を打ち立ててきたグローバルダイニング。6月11日、数年ぶりに新業態「LB6」を六本木にオープンする。同社の代表的なブランドの一つである「ラ・ボエム」六本木店をリニューアルし、カジュアルワインを打ち出した新感覚のネオビストロ業態で勝負に出る。25坪と同社にとっては珍しい小型店だが、それだけ尖った仕掛けが客に刺さるに違いない。ゴージャスさを廃し、同社らしかぬシンプルな内装。一見して、グローバルダイニングの店とは見えない。いわば“脱ブランド”的な新業態だ。銀座にオープンしたラムラの「N9Y Butcher’s Grill NewYork」。こだわりの地ビール、ワインを片手に、店で焼くローストチキンやステーキを喰らうをコンセプトのバル業態。いま人気のブッチャー(ガッツリ肉食系)と樽生クラフトビールを合体させた最先端トレンドを取り入れた業態だ。しかも大手メーカーの定番生ビールは置かず、徹底して地ビールの専門性をアピールしている。サントリー系列のダイナックの新店「有楽町ワイン倶楽部」。気軽に寄れるビストロ&バルがコンセプト。量り売りのステーキと2500円〜4000円、赤、白、泡60種類のカジュアルワインを揃えた。さらに併設したワイン専門ショップ「カーブ ド リラックス」のウォークインセラーからのチョイスも可能だ。スタンディング席もあり、しっかり飲み食べからチョイ寄りまで、1業態ながら間口の広い店造りも大手企業としては斬新だ。同じサントリー系列のプロントコープレーションの新業態「Di PUNTO」。1号店の神田店から、3月にオープンした銀座7丁目で3店舗を展開している。初心者でも気軽に飲むことのできる飲みやすいカジュアルワインとオーブン料理を打ち出し、女性をターゲットにしたワイン酒場である。この店の何よりもの特徴は従来のプロントのようなブランド訴求ではなく、あえて企業カラーを抑え、街場の個店バルのような形態にしていることだ。同じような大手飲料グループの銀座ライオンが独自のコンセプトで仕掛けている北海道、ご当地シリーズ業態「留萌マルシェ」「長万部酒場」。北海道道庁との連携、協力を元に道産の食材や食品調達のみならずPR機関を担っている。先の「別海町」に続き、新たに留萌と長万部地域限定をオープンさせた。地域活性、振興と大手企業のコラボレーションは、絶対的な優位価値を作り出している。大手チェーンを代表するワタミの注目新業態が「BARU&DINING GOHAN」。当初は「japanese dining ごはん」としてジャンルにとらわれない料理がコンセプトのダイニング業態であった。しかし、新宿三丁目店のバル&ダイニング「GOHAN」でよりスパニッシュイタリアンのバル料理を軸に、ガッツリ系肉料理まで人気料理を豊富に集めたバル業態に修正したことから人気が高まり、既存2店もリニューアルしている。コロワイドは6月4日、赤坂にやきとん「ぎんぶた」をオープンした。店内で串打ちするというやきとんは、大ぶりで一本80円から。一品200円からの定番つまみから「ガツぽん」「炙りタン皮」などの名物料理も揃う“ネオ大衆酒場”業態だ。丸いテーブルやモダンな照明で、女性客も入りやすい雰囲気をつくっている。このような大手・中堅チェーンの新業態攻勢が、今後マーケットに与える影響は小さくない。底力をもつ彼らの“反撃”の動きに注目したい。
コラム
2012.06.07
大手・中堅チェーンの“反撃”が始まった!
大手・中堅チェーン系企業が既存業態を見直し、尖った新業態をオープンする動きが相次いでいる。マーケットがオリジナリティ重視、個店志向へとシフトしているが、それに対応し、いよいよ動き始めたようだ。
佐藤こうぞう
香川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本工業新聞記者、雑誌『プレジデント』10年の編集者生活を経て独立。2000年6月、飲食スタイルマガジン『ARIgATT』を創刊、vol.11まで編集長。
その後、『東京カレンダー』編集顧問を経て、2004年1月より業界系WEBニュースサイト「フードスタジアム」を自社で立ち上げ、編集長をつとめる。
現在、フードスタジアム 編集主幹。商業施設リーシング、飲食店出店サポートの株式会社カシェット代表取締役。著者に『イートグッド〜価値を売って儲けなさい〜』がある。