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コラム

「フードファディズム」と「無印レストラン」

最近、「フードファディズム」という言葉が業界のキーワードになってきた。食材に対する安全・安心神話"、あるいは"健康神話"が行き過ぎることに対する戒めである。"

PROFILE

佐藤こうぞう

佐藤こうぞう
香川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本工業新聞記者、雑誌『プレジデント』10年の編集者生活を経て独立。2000年6月、飲食スタイルマガジン『ARIgATT』を創刊、vol.11まで編集長。
その後、『東京カレンダー』編集顧問を経て、2004年1月より業界系WEBニュースサイト「フードスタジアム」を自社で立ち上げ、編集長をつとめる。


おそらくBSEがきっかけなのだろう。「食の安全・安心」が厳しく問われ、「トレーサビリティ」(食材の生産履歴)なる言葉が重きをなしてきた。そ して「ロハス」(健康と環境を考えたライフスタイル)である。どこのレストランも「ドコソコ産○×牛」とか「○×農家の朝摘み野菜」などと、食材の氏素性 を明確に示すことがステイタスという時代が続いてきた。挙句の果てに「食育」である。教育まで食が変えようとしている。 しかし、ここにきて「フードファディズム」という強烈な切れ味のキーワードが食ビジネスの世界に飛び込んできた。まるで、「自民党を壊す」と言って 政権を獲った元首相の小泉純一郎のような痛快な用語である。food faddismとは、特定の食品を食べるだけですっかり健康になる、などという宣伝をそのまま信じ、バランスを欠いた偏執的な食生活をすることである。 「あるある大辞典」で問題になった“納豆がダイエットに効く”という捏造番組がまさにその典型である。 健全なテーマも行き過ぎると、文字通り「faddism」(一時的な熱中、気まぐれな熱狂)に陥る。食は身近なテーマだからこそ、マスメディアがこ ぞって一つの話題に焦点を当てると、“ファディズム現象”が生じることになる。最近の「産地表示ブーム」はそのいい例である。「○×産」というブランドに 熱中してしまうのだ。美味しい素材は、名もなくても美味しい。遠い産地の食材よりも、近場の食材を早く食べる方が美味しい。「無名な食材」でもレストラン の仕入れ、提供方法しだいでは、「名に勝る」こともある。 乃木坂にある石鍋のレストラン。マンションの一室にあり、看板はない。メニューもない。初めて訪れる客は、値段がわからないからビビる。鶏ガラベー スの白濁スープの出汁。具は牛と豚、白菜をはじめとした鍋の定番野菜。店員は食材について何の説明もしない。しかし、肉も野菜も見れば新鮮で美味しそうな ツラをしている。名前なんかどうでもいい、と思う。で、「この鍋はいくら?」と聞くと、「台湾から輸入した特製の石鍋で、その昔は韓国の宮廷で使われてい ました。値段はわかりません」(料理の値段ではなく、鍋容器の値段について解説する)などとかわされてしまう。ミステリアスな「無印レストラン」だが、食 材の能書きに飽きてくると、これが痛快で気持ちいい。そして美味しい。そろそろ、食材に対する価値観を変えてもいいのではないか。

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