上質な牛肉、新鮮なホルモンをたっぷりの野菜で煮る「鉄板鍋」(韓国風すきやき鍋)がにわかにブームになっている。きっかけは昭和64年創業の大阪 「元祖鉄板鍋きのした」が7月4日、飲食激戦地の恵比寿に東京初出店を果たしたこと。大阪ではマスコミ人気が高い同店とあってレセプションは芸能人も交え て大盛況だった。場所は恵比寿西の五差路、豚ブームの発信源となった「ぶたや」の別館が入っているビル。すぐ近くには昨年8月にオープンし、最近ワンフロ アを拡張増床した元ドロンズ・大島直也氏が経営する「ちりとり鍋 大島」がある。この店は飲食専門求人誌『グルメキャリー』がプロデュースしたことでも話題となった。もともと恵比寿では2003年12月オープンのピューターズ「立呑」が2階で「ちりとり鍋」を出したのが最初だった。松下三兄弟の名誉のためにも触れておかねばならない。 さて、「元祖きのした」の恵比寿デビューの同じ7月4日、恵比寿南には「鉄板鍋づくし」がオープン。「づくし」は“18年前、大阪寝屋川で創業”を うたっている。およそ1年前に田町に「鉄板焼づくしTOKYO」を出店、「きのした」より先に東京出店を果たしていた。直営展開に絞っている「きのした」 に対し、「づくし」はフランチャイズ展開で出店を増やしてきた。「きのした」は株式会社きのした(代表取締役・木下眞行氏)、 、「づくし」は株式会社ア ストア プランニング(代表取締役・木下浩行氏) がそれぞれ経営、ともに“木下社長”同士の戦いでもある。 しかし、よく調べてみると、実はこの両氏、何を隠そう、実の兄弟である。4年前までは仲良く「きのした」を盛り上げてきた。眞行氏(41歳)は長 男、浩行氏(38歳)が次男。三男の隆行氏は松竹芸能のT・K・Oの人気芸人の片割れ。どおりで、両店には芸能人からの祝花が並んでいたのも理解できる。 どうやら、兄弟で“恵比寿戦争”を演出したのではないだろうか。兄は実家の暖簾を守り、弟はフランチャイズでビジネス展開を図る。出汁はともに二人の母親 がつくり上げたレシピ。独特な甘みがポイントだが、りんごや梨などのフルーツ系の差材が隠し味になっていることは間違いない。「兄弟かきに、せめぐ」と言 うが、戦うふりをして力を合わせて鉄板鍋ブームを仕掛けている、それが関西風にいえば“オチ”なのかもしれない。いずれにしろ、問題は質。素材やサービス で手を抜けば、恵比寿ではすぐに見放される。 鉄板鍋といえば、数年前中目黒の隠れ家“看板のない店”としてブレイクした「元旦」の 鶴橋発祥の韓国風辛口ホルモン鍋「てっちゃん鍋」が有名。芸能人が密かに通う店として話題を呼んだ。その後ちりとりのような四角い鉄板でホルモンと野菜を 辛口に出汁で煮る「ちりとり鍋」店が登場、そして今回の“元祖系”鉄板鍋の東京進出が相次いだわけだ。さらに“九州発祥”の鉄板鍋も登場、両国にオープン した「牛ホル鉄板鍋と焼肉のお店うえだ」もちゃんこエリアで話題となっている。九州鉄板鍋のルーツは昭和30年創業の北九州八幡の「黒崎食堂」とされる。いずれにしても、にわかに勃発した“東京鉄板鍋戦争”、今後の行方に注目したい。もしかしたら“ポストもつ鍋”は博多水炊きではなくこの鉄板鍋かもしれない。
コラム
2007.07.05
東京「鉄板鍋」戦争、ついに勃発!
大阪発の「鉄板鍋」が次々に東京に進出、九州発の店も登場し、東京でにわかに鉄板鍋戦争"が始まった。しかし、その裏側は... "
佐藤こうぞう
香川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本工業新聞記者、雑誌『プレジデント』10年の編集者生活を経て独立。2000年6月、飲食スタイルマガジン『ARIgATT』を創刊、vol.11まで編集長。
その後、『東京カレンダー』編集顧問を経て、2004年1月より業界系WEBニュースサイト「フードスタジアム」を自社で立ち上げ、編集長をつとめる。
現在、フードスタジアム 編集主幹。商業施設リーシング、飲食店出店サポートの株式会社カシェット代表取締役。著者に『イートグッド〜価値を売って儲けなさい〜』がある。