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コラム

「第四世代」が台頭し始めた沖縄飲食業界

約一年ぶりに沖縄に行ってきた。目的は二つ。中北部のリゾート地のインバウンド事情と那覇飲食マーケットを引っ張る飲食オーナーたちの「現在」を見に行くこと。リゾート地は予想を超えるインバウンド観光客のラッシユ。那覇飲食業界は「第四世代」が芽吹き始めていた。

PROFILE

佐藤こうぞう

佐藤こうぞう
香川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本工業新聞記者、雑誌『プレジデント』10年の編集者生活を経て独立。2000年6月、飲食スタイルマガジン『ARIgATT』を創刊、vol.11まで編集長。
その後、『東京カレンダー』編集顧問を経て、2004年1月より業界系WEBニュースサイト「フードスタジアム」を自社で立ち上げ、編集長をつとめる。


沖縄飲食業界の歴史をおさらいしてみよう。「第一世代」といわれるのは、創業20年前後の飲食企業、りょう次グループ(オフィスりょう次、代表取締役・金城良次氏)、JCC(代表取締役・渕辺俊一氏)、カイグループ(カイ・コーポレーション、代表取締役・又吉豊氏)。「第二世代」は「ぱいかじ」はじめ、多業態ブランド戦略を多店舗展開を図るグローバルスタッフが代表的存在。そして、「第三世代」はここ6~7年で成長を遂げてきた経営者たち。その代表が、東京の業界メディアで引っ張りだこのみたのクリエイト、田野治樹氏。田野氏の活躍は彼に続く「第三世代」の経営者たちにも影響を及ぼしている。輪っしょいファミリーの南風見一樹氏は久茂地エリアに「たけすみ」をオープン、炉端スタイルで魚と肉のキラーコンテンツメニューを提供、空間デザインもモダンで地元若者に人気。大繁盛店となっている。南風見氏は田野氏から多くのアドバイスをもらい店づくりに活かした。今回もまずは「第一世代」代表の又吉氏と「第三世代」代表の田野氏と会食した。場所は、田野氏のところから独立したバリューボックスの屋良竜紀氏の「魚島屋」1号店。屋良氏はいま最も沖縄で注目されてる飲食店オーナー。魚屋を買収したり、食材の流通にも乗り出している。

田野氏は、屋良氏の独立計画を2年前から支援してきたという。物件は又吉氏の紹介。屋良氏は、この二人の先輩によって、最高の独立スタートを切ることができた。1号店から半年で2号店もオープン、2店舗とも絶好調だという。田野氏は屋良氏についてこう言った。「彼はまぎれもなく“沖縄第四世代”を引っ張る人材です」。田野氏の話を聞いた次の夜、運よく屋良氏と「魚島屋」2号店で会うことができた。屋良氏の凄さは、圧倒的なコスパの良さとすべて一工夫されているメニューの数々。それは顧客感動レベルを超え、「こんな魚料理食べたことない!」という新しい体験とワクワク感を常に顧客に提案するという意味で、“カスタマーエクスペリエンス”のレベルまで突き抜けている。それがパフォーマンスで終わらないのは「料理は美味しくなければならない」という屋良氏の料理人としての矜持があるからだ。屋良氏の父親は京都で料理人をしていた。その血を引き継いでいるのだ。なぜ、美味しくて圧倒的なコスパ感を提供できるのか。それは屋良氏の魚屋としての仕入れ力による。県外のいくつかの漁港、漁師とのネットワークと物流をもっている。それは屋良氏が自分で各港に出向いて構築してきたものだ。

その仕入れ力によって、原価を思いっきり下げることが可能になった。「お客様が注文したくなる価格までギリギリ下げる。そのために魚卸をやってきた。利ザヤを稼ぐためではない」と屋良氏は言い切る。原価率80?100%のものもあるが、トータルのFLは47?48%。このクオリティでFは30%を切っている。「目標FLは45です。でも結果は55でいい。その差の10%をお客様に感動してもらうためのコストに使いたい」。そのコストとは、商品開発や顧客価値を高めるための仕掛け、スタッフたちの研修の費用。販促費は使わない。すべては顧客のため、地域のため、「必要とされる店になるため」のコストであり、投資である。そして、その投資の根底にある考え方は、「クラフト(手作り)」だ。びっくりしたのはすべて自家製の醤油。利尻昆布と鳥取飛魚で出汁をとり、もちろん添加物は使用しない。箸置きは竹から手作り、カラクリのある日本酒の酒器もアイデアからすべて自前。「私は絶対、どこの店の真似もしません。ないものを自分たちで作りたいから」と断言する。

客とのファーストコンタクトであるお通しには絶対手を抜かない。原価率100%。あわびは350円で提供。魚のバター焼きは地元であさ揚がったホウボウだ。鮭とばも産地に委託した自家製。「シニアの方でも食べやすいように柔らかくした」という。屋良さんの話を聞いていたら、これこそまさにイートグッドではないか!と思った。次世代に向けて、魚業態を進化させられるニューリーダーの一人が屋良さんであることは間違いない。田野氏の言う通り、沖縄「第四世代」が芽吹き始めた。「第四世代」として注目されるもう一人の人物はフレッシュミートがなはの我那覇宏生氏。人気急上昇中の名護市にある「やんばる島豚」の生産販売を手掛ける会社の常務だが、「我那覇豚肉店」はじめ豚しゃぶやホルモンの飲食店部門も取り仕切るのは我那覇氏。8月29日には1号店の「焼肉乃我那覇」を増床し、リニューアルオープン。豚肉一頭買いをコンセプトにした大型店舗となる。我那覇氏はまた、沖縄最北部の今帰仁のビーチ沿いに「海辺のカフェ ピグレット」もオープン。北部観光振興の活動にも積極的だ。これからの活躍が楽しみな人材だ。

そうした沖縄地元勢の活躍の隙間を狙って、東京勢の進出の動きからも目が離せない。その代表格が下遠野亘氏率いるスパイスワークスだ。同社が1号店を那覇に出したのは2013年の9月。それからわずか2年で6店舗を展開している。
1、牡蠣とワインの「オーシャングッドテーブル」(久茂地、2103年9月)
2、「串カツ田中」沖縄FC1号店(久茂地、2014年9月)
3、「魚寿司総本店」(1号、公設市場、2015年4月)
4、「魚寿司久茂地本店」(2号、2015年5月)
5、「海味しろの」(国際通り屋台村2015年6月)
6、「魚寿司はなれ」(3号、公設市場、2015年7月)
なかでも地元勢から「その手があったか!」と称賛されているのが、観光地の公設市場への「魚寿司」の出店。「地元の経営者なら絶対出さない場所に出店して成功している」と言われているのだ。ほかに話題としては、県庁近くに出店した「肉バル ワイルド」。沖縄料理「琉歌」を運営するカスタマーディライト(中村隆介氏)が経営、プロデュースを「アガリコ」の大林芳彰氏が手がけた。肉業態激戦地の那覇では健闘している。

いずれにても、那覇はインバウンド需要に加え、東京勢もその成長性に関心の高いマーケットだ。新しいセンスを取り入れた飲食店や飲食施設がこれからどんどん増えるだろう。その皮切りが「国際通り 屋台村」。地元ゼネコンの国場組が手がける“オシャレ屋台村”だ。プロデュースしたのは北海道から全国に屋台村事業を発信する街制作室(国分裕正氏)。スパイスワークスも1店舗出している。オシャレといえば、HUGE新川義弘氏が那覇空港近くの瀬長島にオープンした、明るい太陽が降りそそぐ南イタリアをテーマにした「沖縄の海を最も感じる」レストラン「POSILLIPO ? cucina meridionale(ポジリポ ? クッチーナメリディオナーレ)」。今回初めて訪ねたが、たしかに素晴らしい空間には違いない。そして、「POSILLIPO」の真下には飲食店舗(約30店舗)、物販店舗(約6店舗)、ビーチパーティテラス、スイーツテラスなどを誘致した一大商業施設「ウミカジテラス」もオープン。台風の影響でオープンが延期したので、オープン前の施設を歩いてきたが、正直ピンと来なかった。次回の沖縄訪問時にはどうなっているのか、それを楽しみにしておこう。

最後に今回の沖縄視察の総括をしておきたい。
1、中部、北部のリゾート地は、8?9割アジア系インバウンド観光客。インバウンドパワー、爆泊凄さを垣間見ました。
2、北部に計画されているUSJ効果で、インバウンド観光客は将来も急増。インバウンド対応策が追いつくのか疑問。
3、沖縄飲食は魚の時代。とくにマグロを見直す傾向が顕著。若手飲食オーナーが魚ビジネスに力をいれ始めた。
4、魚と合う日本酒。那覇でも日本酒専門店が誕生。内地の各地方の地酒純米酒を打ち出す店が登場。2店舗回ったが、予約が難しい状況。
5、那覇飲食マーケットの中心地は久茂地、新都心。古いマーケット街の栄町に新しい飲食オーナーがネオ大衆や野菜酒場をオープン。今後、新規出店も増え、面白くなる。
6、国際通りは家賃が高く地元の若手は出店しない。屋台村もオープン景気だが、定着するかどうか。むしろ、東京から沖縄進出したスパイスワークスが出店した公設市場に注目集まる。
7、瀬長島はウミカジテラスで活性化されるか。賛否両論あり。
8、沖縄飲食経営者は、第四世代が表舞台に。我那覇宏生氏、屋良竜紀氏がニューリーダー。
9、東京からの進出組は、ことごとく失敗。ローカライズに成功したスパイスワークスは定着するか。

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