「テラススクエア」は住友商事が主導して開発を進めてきた。商業施設の開発ではある意味、新参者であるが、“ユーザーエクスペリエンス”を踏まえたなかなか意欲的な商業空間をつくっている。1階、2階の商業ゾーンには飲食店8店舗を含む10店舗を誘致。各フロアには、緑豊かな広場に面した合計200席以上のテラス席が設けられている。テナントにとっては、集客力に合わせ、テラス席を存分に活かせる魅力がある。2階にはフードコートの機能を兼ね備えた共用客席「テラステーブル」があり、オフィスワーカーにとって便利な弁当ステーションも設置されている。オフィスワーカーのランチから、外来客の食べ飲みまで、幅広いニーズに応えられる仕掛け。1階の飲食テナントは、生演奏に合わせお酒と料理が楽しめる新業態「鉄板焼バー Cava(サヴァ)」、日本全国の樽生クラフトビールが楽しめる「クラフトビアマーケット」、中野で人気の日本酒バル「青二才」、そして博報堂と「プロント」が共同で運営する「HASSO CAFFÈ with PRONTO」の4店舗。2階には、蕎麦をつけ麺スタイルで食べる新業態「蕎麦酔処 猿夢来庵(さむらいあん)」や地元で大人気のタイ料理屋「メナムのほとり」など4店舗がオープン。さらに屋上部分となる3階には、日本初の飲食店特化型都市型農園「テラスファーム」を設置し、「猿夢来庵」や「Cava」などの契約店舗で、各店が育てた野菜を前菜やカクテルなどのメニューとして提供するという。
この「テラススクエア」の飲食テナントのなかで、私が最も注目し、楽しみにもしていた2店舗が「クラフトビアマーケット」と「青二才」だ。この2店舗は、クラフトビールと日本酒という、いまの飲食マーケットの2大“軸トレンド”の火付け役となった店だと私は認識している。「クラフトビアマーケット」(ステディワークス、代表取締役・田中徹氏)は2011年、虎ノ門に30種類の国産クラフトビールをグラス1杯(250ml)480円、パイント780円の均一価格で提供し、新しいスタイルのクラフトビール専門店として業界に革命を起こした。その後、神保町、淡路町、三越前(コレド室町2)、高円寺に続く6店舗目だ。多くのビールファンを増やしてきた「クラフトビアマーケット」の特徴は、品質はそのままに低価格提供を実現させたことだけでなく、各店舗によってフードメニューやビールの内容が異なっていること。田中氏は、店の責任者となる料理長が得意とする分野をメニューの軸とし、ビールの選定、サービス、空間づくり、接客など店長に一任している。その日の気分や、ビールのセレクトによって店を選び、回遊しているリピーターが多い。ビールのセレクトも常連客の好みや要望を取り入れている。顧客がクラフトビールをより身近に、より美味しく体験できる“ユーザーエクスペリエンス”を常に提供し続けてきたといえる。
一方、「青二才」は「日本酒大好き!」を公言するオーナーの小椋道太氏の3店舗目。1号店は阿佐ヶ谷だが、「青二才」の名を有名にしたのは2013年1月にオープンした中野店。中野南口のレンガ坂にオープンした店は、20代、30代の日本酒未体験者や初心者に難しいと思われがちな日本酒のハードルを下げて、敷居をできる限り低くするため、バルスタイルにした。小椋氏は「一人でも多くの人に、気軽に楽しく日本酒を飲んでほしい」と一杯でも気軽に立ち寄れるような雰囲気作りを心掛けた。日本酒新世代に向けた“日本酒を新しい価値観で楽しむ”というコンセプトから、酒器にシャンパングラスを取り入れた。またハイカウンター、ハイテーブルの席づくりは、「日本酒初心者や若い女性が気軽に入れるように」とあえて日本酒らしくない店にしたという。従来型の日本酒の先入観を払拭するためにも、小椋氏はバルスタイルにこだわった。やはり、この店もまったく新しい日本酒体験という“ユーザーエクスペリエンス”を提供してきた。単にクラフトビールや日本酒を提供する店はこの数年で凄い勢いで増えた。しかし、「新しい体験」を通してファンになった強烈なリピーターに支えらる両店が今回、1階路面で隣り合わせたということの意味は大きい。二人のオーナーは共通のセンスを持ち、売るものは違うが同じような次元でクラフトビールと日本酒を啓蒙する。「コラボイベントを仕掛けていきたい」(田中氏、小椋氏)と口を揃える二人。神保町と飲食マーケットをさらに面白くしてくれるに違いない。