1999年、エイジアキッチン(東京都渋谷区、代表取締役:吉﨑英司氏)の第1号店として「成ル」が渋谷駅近くにオープンしてから14年半。渋谷駅南口の再開発計画により、長く愛された店が惜しまれながら2013年8月に閉店した。同社は、1号店だけでなく、2号店の「巖」(渋谷、2000年7月オープン)、3号店の「三茶氣」(三軒茶屋、2003年3月オープン)、4号店の「三汁伍番」(三軒茶屋、2006年3月オープン)。そして、2010年10月ハワイにオープンした4号店の「成ル ホノルル」。いずれの店もその街の人々に愛され、長く賑わっているのが特徴。ヒカリエの誕生や東急東横線の地下化から、人の流れが変わり始めた渋谷の街で、吉﨑氏が移転先に決めたのは今注目の裏渋谷・宇田川町。ここに、鉄板焼きと日本酒のお店「ウダガワ 成ル」として11月10日リニューアールオープンさせた。
路地の奥にある、柔らかい明かりの灯るガラス張りのファサード。入口の暖簾やガラス越しに見える鉄板から和のテイストが伝わってくる。吉崎氏のこだわりは、この鉄板がどこの席からも見えることだ。ジュウジュウおいしそうな音を立てて伝わるシズル感や、巧みに鉄板の上で調理される姿が客の気持ちをいっそう掻き立てる。スタッフの明るい掛け声が交わされる店内で、楽しそうに過ごす客の姿がガラス越しにまた人を誘う。暖かい季節になれば、ガラス戸を外し、オープンテラスの席に様変わりする。
「東京発となる、客単価4000円のカジュアル鉄板業態をやりたかった」と話す吉﨑氏。これまでの信頼から得た生産者との繋がりと既存店から取り入れた鉄板料理のエッセンスが生み出すメニューはどれもシンプルに素材の旨みを生かすものばかり。名物の「だし巻き玉子」(480円~)は、全国の鶏卵農家から直送される鶏卵を日替わりで5種類ほど用意。「玉子」×「出汁(味付け)」×「トッピング」で客の好みにカスタマイズでき、目の前の鉄板で丁寧に焼き上げられる。その他、鉄板で表面をカリッとさせて仕上げるコンフィなど、鉄板の良さを食べる前から味わえる工夫を凝らしたメニューも。
酒は、ワイングラスで提供する日本酒(100ml 500円~)をはじめ、ビール、ワイン、焼酎など、ひと通り網羅している。珍しいものでは、焼酎をもっとおいしく飲む方法として最近話題となっている「蔵元前割り焼酎」を白ワインの様に氷を入れず(ワイン)グラスで提供。これは、相性のよい仕込み水で、蔵元自らが現地で「前割り」をして出荷した焼酎で、口当たりが一層まろやかになるのが特徴。前割り焼酎「くじら」、「海」(ボトル2500円、グラス550円)は、ワインのような感覚で料理に合わせて楽しめる。
今後は「日本酒×鉄板」や「沖縄料理」を切り口とした店舗展開、世界各国の現地パートナー企業と組んでの海外事業展開などを考えている吉﨑氏。目標に向かって、目的を達成できるような目標を掲げる。同氏の意志の強い眼差しから心の中にはいつもこの問いかけが反芻されているようだ。ひとつひとつの店・スタッフを家族のように大切にする精神と海外でも通用するサービス力を武器に、さらに国境を越えてより強い店作りをしていくことだろう。