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【飲食業は教育産業① 】キープ・ウィルグループ ~後編~ 自立した従業員をつくることは「会社の責任」と捉え 教育的環境を充実し「やりがい」をもたらす

飲食業は「人材」によって成り立っている。人材の成長は自ら学ぶ姿勢をもたらし、店や会社の礎となり、そこに関わる人々をハッピーにして、社会から尊敬される存在になる。それをもたらすのは、店や会社の”教育的環境”に他ならない。

この連載では、フードサービス・ジャーナリストの千葉 哲幸が、今日注目されている飲食業の「教育」にフォーカスし、同社のビジョンに沿って、教育や研修の仕組みについて解説していきたい。これらに倣うことによって、飲食業はますます磨かれて憧れの業界となっていくはずだ。


前編はこちら

ブランドを向上させる緻密でコストをかけた仕組み

キープ・ウィルグループ(以下KWG)の教育的環境の情報共有ツールに「Keep will group Brand Study」というものがある。これは一般の人は見ることはできないが、主にアルバイトスタッフ向けに編集されていて、とても充実した内容になっている。

まず、同社の業態を「ダイニング」「居酒屋」「和食」「カフェ」に分類していて、それぞれクリックすると「初動教育」「会社のこと」「お店のこと」「学び」と分類されたものが出て来る。

「初動教育」は4つの業態ともに共通した内容である。
ここは「サービス(ホールスタッフ)」部門、「シェフ(キッチンスタッフ)」部門の2つに分けて、それぞれ現場に入るために必要な教育プログラムが掲載されている。

「サービス」部門は、DAY0(1時間)、DAY1(5時間)、DAY2(現場研修75分を含めた5時間)、DAY3(現場研修75分を含めた5時間)、DAY4(現場研修140分を含めた約5時間)、DAY5(現場研修270分を含めた約6時間)となっており、DAY0以外では「KWG ISM」(内容は後述)の読み合わせ、座学、テスト、ロールプレーイングなどとなっている。

「シェフ」部門はさらに多く、DAY0(1時間)、DAY1(5時間)、DAY2(現場研修75分を含めて5時間)、DAY3(同75分を含めて5時間)、DAY4(同140分を含めて約5時間)、DAY5(同270分を含めて約6時間30分)、DAY6(調理実践30分を含めて4時間)、DAY7(同165分を含めて4時間)、DAY8(同165分を含め4時間)、DAY9(同165分を含めて4時間)、DAY10(同120分を含め4時間)となっている。「KWG ISM」の読み合わせ等は「サービス」部門と同様だ。

これらの「初動教育」で習得したものを「トライアルユース」という期間(1カ月~3カ月)で実践することになり、マネージャーがチェックのために店舗に赴く。アルバイトスタッフのプログラムとはいえ、専門学校並みのプログラムといってよい。

ちなみに、この初動教育プログラムの期間は会場を使用し時給も支払っている。KWGのブランドを向上させ維持していくための志の高さが伝わってくる。

ステップアップするための目安を示す

次に、「会社のこと」のコーナーでは、KWGのコンセプトとミッションを動画によって紹介している。

さらに「お店のこと」では、4つの業態の店舗の「スタッフ紹介」と「スキルパス」を紹介している。「スタッフ紹介」では店舗で勤務している従業員が顔写真入りで名前、生年月日、出身地、好きな食べ物、趣味、そして社員の場合は「入社のきっかけ」、アルバイトの場合は「(週のシフトの)希望日数」が掲載されている。
「スキルパス」では、management(店長)、server(サーバー)、product(料理長)になるためのステップアップしていくための目安が示されている

カテゴリーの最後は「学び」となっている。これはmanagement(店長)、server(サーバー)、product(料理長)向けに会社が設けている講座が紹介されている。Others(その他)というものあるが、これは特別編といったたぐいのものだ。

KWGのスクール制度について冒頭にバリスタ育成プログラムを紹介したが、この他ランダムにこのような制度が挙げられる。

■Koffee Talks(英会話教室)
ネイティブと英会話レッスンをKWGのカフェでコーヒーを飲みながら行う。
■ワイン講座
KWGのOGのソムリエールが、ワインの歴史、楽しみ方、マリアージュなどの基礎知識を習得する。
■スタジエ
KWGに勤務する料理人が、受講希望者に調理技術を伝授する。
■志塾
新入社員・中途社員を対象としたもので、KWGのマインド、仕事に対する姿勢などを伝える。
■マネージメント
マネージャーとして必要な数字、チームビルディング、MTGの作り方、営業マネージメントなど、必要なスキルをロジカルに習得する。
■ビジネスパーソン育成講座(BPS)
マネージャークラス育成スクール。イベント運営・会議参加などを通してビジネスで成果を出すためのポイントを学ぶ。
■サーバー実践塾
感動的なサービスを生み出すためにKWGが大切にするマインド、礼儀、マナー、印象力、コミュニケーション力などを習得できる。


(英会話教室の様子)

会社概要、理念体系、考え方、ビジョンを1冊にまとめる

さて、KWGでは2018年8月に「KWG ISM」という書籍をまとめた。A5サイズで150ページ程度のものだ。後ろの方が自分で書き込むスペースとなっている

このコンテンツはこのようになっている。

Ⅰ.OUR COMPANY(会社概要)
・組織図 ・沿革 ・受賞歴 ・福利厚生 ・THE Rules(就業規則/責任者規則/リーダーの心得/サポートセンター)

Ⅱ.OUR PHILOSOPHY(理念体系)
・グループミッション ・理念 ・ビジョン ・戦略 ・年度方針 ・行動規範10か条

Ⅲ.OUR VALUES(大切にしている考え方)
・OUR BASE ・OUR VALUES(思考/態度・姿勢/営業)

Ⅳ.Your NOTEBOOK(未来を描く)
・KWGが3年で叶える15の事 ・自分の事 ・1年間の目標 ・Mothers diary 講演

つまり、KWGという会社の概要から、理念、行動規範、価値観、ビジョンを1冊にまとめたものだ。それまでは、これらの内容がブランドごとに存在していたが、会社として統一されたものがなかった。

保志氏はかねてこれらが統一されたものの必要性を感じていて、会社設立15周年に向けて自分一人でつくろうと考えていた。それは、自分は創業時からのメンバーで、KWGのあらゆることを知り尽くしているからだ。

「KWG ISM」を理解した全ての人が理念の伝道師となる

しかしながら、統一されたものを管理職メンバーの全員でつくってもらうことにした。管理職20人が二人一組の10チームに分かれて、ワークショップを半年間継続して内容を練り込んで行った。

「例えば、次回はスターバックスの本を読んだ後のレジュメの発表、その次は(日本一泊まりたい旅館)加賀屋の本のまとめの発表とか、ビジョナリー(事業の将来を見通した展望)な勉強会になりました」(保志氏)

そして、各チームが1冊ずつ原型となる書籍をつくり、それらの要素を掛け合わせて「KWG ISM」は完成した。管理職が会社方針をまとめるために半年間一緒になって濃密な時間を過ごしたことは、今後の企業運営においても意義のあることだ。

筆者がKWGの1階にあるカフェの外にいた時に、隣の若い女性二人が「KWG ISM」を媒介にしながら会話を進めていた。どうやらKWGの人事担当らしき人とアルバイトに採用された人のようだ。人事担当者らしき人は、採用されたらしき人にこのように話していた。

「ここまで話したことは、ここのところにまとめてあるから、読んでおいてくださいね」
「KWG ISM」は実によく整ったKWGのツールであることを人事担当者らしき人は誇りに思っている。新しく従業員となる人にとって、KWGという会社の文化にいち早く溶け込むことができるだろう。

中盤で、「5DAYS」や「10DAYS」のことについて紹介したが、それぞれのプログラムはいつも「KWG ISM」の当該項目の唱和から始まる。管理職をはじめそれぞれの職場においても、当該の部分の唱和が励行されている。「KWG ISM」によって、これを理解した人のそれぞれが理念の伝道師になっていく。

「会社の夢を自分の夢に」「自分の夢を会社の夢に」

KWGには「ブランド開発室」があり、保志氏は現在その長となっている。ミッションは従業員の「成長」「やりがい」を創出していくということだ。そこで教育的環境の充実を図るということでは、事業展開を進める上で関係性を育んできた海外拠点を結んで「海外留学制度」をつくることも想定される。このような制度によって「従業員を引き付ける会社にしていきたい」と保志氏は語る。


KWGでは「GOOD LIFE BUSO」という新しいビジョンの下で、会社の夢を自分の夢として活躍してもらうための「公募」を行い、現在さまざまな新規事業が同時進行している。さらに、自分が思い描いていることを会社に提案する「逆公募」を行ったところ、ポジティブな反応があった。要するに「自分の夢を会社の夢にする」ということだ。

かつての会社組織であれば、新しい事業は幹部社員が担い選ばれた社員がそれに従事するというパターンが常だった。それに対して、KWGではそのプロジェクトを従業員に公表し「やりたい人」に任せるという文化を築き上げている。

このようなKWGの在りようは、冒頭に保志氏が述べた「会社の従業員に対する責任」という姿勢が一貫している。

(取材=フードサービス・ジャーナリスト 千葉哲幸)

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