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【飲食業は教育産業① 】キープ・ウィルグループ ~前編~ 自立した従業員をつくることは「会社の責任」と捉え 教育的環境を充実し「やりがい」をもたらす

飲食業は「人材」によって成り立っている。人材の成長は自ら学ぶ姿勢をもたらし、店や会社の礎となり、そこに関わる人々をハッピーにして、社会から尊敬される存在になる。それをもたらすのは、店や会社の”教育的環境”に他ならない。

この連載では、フードサービス・ジャーナリストの千葉 哲幸が、今日注目されている飲食業の「教育」にフォーカスし、同社のビジョンに沿って、教育や研修の仕組みについて解説していきたい。これらに倣うことによって、飲食業はますます磨かれて憧れの業界となっていくはずだ。


創業15年をへて新しいプロジェクトを推進

キープ・ウィルグループ(以下KWG、代表/保志真人氏)は東京・町田に本拠を置く外食企業で事業規模は店舗数33店、売上高30億円(2018年8月期)となっている。
同社は2003年神奈川・東林間に居酒屋「炎家」を創業。以来、神奈川の東部で展開してきたが、2011年の本拠地を町田に移してから居酒屋やダイニング事業に加えてカフェ事業も開拓してきた。町田は今、同社の事業展開やそれに同調する事業者も増えて、自由でクリエイティブな空気を漂わせる街になっている。

(キープ・ウィルグループ副社長:保志智洋氏)

そして、昨年創業15周年を迎えた同社では、「GOOD LIFE BUSO」という新しいビジョンを打ち出した。BUSOとは「武相」のこと。町田が中心となった武蔵の国と相模の国にまたがった県境一帯を指して、ここを先進的なエリアにブランディングをするという意志が込められている。
このビジョンを基に、飲食業以外にも新しいプロジェクトを推進して、街づくりを更に深掘りしようとしている。

筆者は、同社が教育的環境づくりに熱心であることは、外食クオリティサービス大賞(MS&Consulting主催)の第3回(2009年)と第4回(2010年)の二大会連続で大賞を受賞したことから特に注目するようになった。この大会は顧客満足や従業員満足の優れた仕組みを持つ企業がプレゼンテーションで競うもので、同社の場合は常に「全員参加型経営」という姿勢が一貫していた。設定した課題はとても難しいものであったが、それを乗り越えた求心力と集中力に筆者は感銘を受けた。

この度の「GOOD LIFE BUSO」も、このような企業文化がもたらしたものと拝察するが、これらを導き出す同社の教育的環境について、同社取締役副社長の保志智洋氏が解説してくれた。

「人生の豊かさ」を構成する三つの豊かさ

今回の本題に入る前に、保志氏は「会社の従業員に対する責任」ついてこう語った。

「私は、会社とは従業員の一人一人を“稼ぐことができるように”自立した人材に育成しないといけないという認識を持っています。そのバックグラウンドにあるのが、兄(保志真人社長)が社会人となり、自分が大学に進むころ、父の会社が倒産したという事実です。それ以来、会社とは永遠に続くものではないということを考えるようになりました」

「今、当社に中途採用の面接でいらっしゃる40代50代の人と話していて『あなたが得意とするものはなんですか?』と質問したときに、なかなか明確に応えることができずに『頑張ります!』という発言で終始するパターンがあります。そのようなことは、彼らが働いていた会社にも責任があると思います。飲食業の仕事とは、誰でも簡単にできるというものではありません。外に出て、自分でしっかりと稼げる力を育てないといけない。それは飲食業という会社の責任だと思います」

そして、保志氏は事業を推進する過程で海外の文化に触れ、「豊かさ」の意義について考えるようなった。

それは、従業員にとって「人生の豊かさ」を考えた時に「経済的な豊かさ」「時間的な豊かさ」に加えて「やりがい」という3つの要素が重要だということだ。

「日本で生まれ育った私にとっての豊さとは『お金』であり『モノ』でしたが、『時間の豊かさ』とは、オーストラリアに行ったときに感じたことです。オーストラリアの人は朝がとても早い。7時ごろにはカフェが満席になります。ジョギングしたり、犬の散歩をしたり、学校や仕事に行く前にカフェを楽しんでいる。ここでのコーヒーや食事のクオリティがとても高い。ここで皆1時間、1時間30分とゆったりと過ごしているのです」

従業員の「やりがい」のためにスクール制度をつくる

この体験がきっかけとなり、KWGでは「ラテグラフィック」というカフェ事業をはじめることになった。
それに伴ってニュージーランドのロースター「オールプレス」との縁ができたのであるが、情熱にあふれた同社のマインドと保志氏との波長が合った。

「あちらの方々は休みがとても多い。秋口になって『まだ夏休みです』と言われることもたびたび。17時前に本社にいると従業員がたくさんいるのに、17時30分を過ぎると誰もいない。『皆どうしたの?』と聞くと『帰った』という。『帰って何をしているの』というと、ファミリータイムとか、趣味や友人と過ごす時間に充てるという。このような時間の豊かさがとても重要だと思うようになりました」

そして、三番目の「やりがい」はどのようなことか。
「従業員にとって『経済的豊かさ』『時間的豊かさ』の先に重要なことは、仕事をしていく上での『やりがい』です。これも会社の責任であり、それを実現するためにはきちんとしたスクール制度をつくることが必要だと思っています」

本題に入る前に保志氏の理論である「会社の従業員に対する責任」を長く述べたが、KWDの「教育的環境」はこのような考え方が背景にある。

カフェ事業を充実させた「バリスタ育成制度

スクール制度の中で最も創り込まれているのは「バリスタ育成制度」である。これは同社がカフェ事業に着手した2012年ごろから創り込まれていくようになった。
この制度をつくった背景には、前述のオールプレス社と交流するようになって、コーヒーに対して大層のこだわりを持つ同社から触発されたことに起因する。

コーヒーが他の飲み物と大きく異なっている点は、コーヒーを淹れる人の技能によってコーヒーのクオリティが大きく変わるということだ。

オールプレス社では、豆選びから始まり焙煎などの仕事を丁寧に行っていた。KWGにとってはその仕事そのものが大いなる感動であった。そして、われわれもちゃんとコーヒーを淹れないと駄目だと思うようになった。

そこで、保志氏は同社の社員と共に「バリスタコレクティブ」という団体を立ち上げ「バリスタの育成」「バリスタを繋ぐコミュニティーの形成」「バリスタを日本の新たな職業の1つとして位置づける・啓蒙」の活動を行うようになった。「THE BARISTA COLLECTIVE」というサイトも立ち上げた。これは、社内向けのコンテンツであるが、外部の人も参加することができる。

ここにはバリスタスクールがあり「バリスタ育成プログラム」(図参照)に基づいた9段階のスキルレベルに合わせた実技トレーニングと座学が設けられている。受講料は異なるがKWGの従業員の他、一般の人も参加できる(金額等については「バリスタコレクティブ」公式HPに掲載)。KWGにはこのプログラムで「バリスタ」の資格を取得した従業員が100人存在している。

後編に続く)

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