コラム

クラフトビールの「メジャー化」が始まった!

9月下旬、ビール業界に電撃的なニュースが飛び込んできた。キリンビールが「よなよなエール」などのブランドでクラフトビールを展開するヤッホーブルーイング(クラフト業界トップ企業)と提携、キリンがヤッホーの株式の33.4%を取得し、ヤッホー製品の製造も手掛けていくというもの。マイナーイメージを売りに伸びてきた日本のクラフトビール市場は、一気に「メジャー化」するのだろうか?

PROFILE

佐藤こうぞう

佐藤こうぞう
香川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本工業新聞記者、雑誌『プレジデント』10年の編集者生活を経て独立。2000年6月、飲食スタイルマガジン『ARIgATT』を創刊、vol.11まで編集長。
その後、『東京カレンダー』編集顧問を経て、2004年1月より業界系WEBニュースサイト「フードスタジアム」を自社で立ち上げ、編集長をつとめる。
現在、フードスタジアム 編集主幹。商業施設リーシング、飲食店出店サポートの株式会社カシェット代表取締役。著者に『イートグッド〜価値を売って儲けなさい〜』がある。


今回のキリンとヤッホーの提携は、単に大企業がベンチャー企業と手を握ったというだけでなく、キリンとしてはビール事業の大きな転換点として捉えている。すなわち、これまでのメジャービール路線の反省と今後のクラフトビールに賭ける意義について深く言及しているからだ。クラフトビールニュースサイトの「クラフトビール東京」によると、キリンの磯崎社長はこう発言したという。
「大手のビールは、淡色のピルスナータイプという限られた味覚の範囲で競争している。大手がよりたくさんのお客様に飲んでいただけるよう、大衆化、低価格化を進めた結果、味に違いが無くなり、大手のビールはつまらない、と感じる方が増えている。それによって、逆にお客様のビール離れを招いている。味覚の画一化から脱却し、市場の流れを大きく変えていきたい。ビール全体を魅力的なものと思っていただき、市場を元気にする。その原動力が『クラフトビール』。市場を活性化すると共に、ビジネスとして味覚の多様性をキリンの新たな競争軸にしたい。マスプロダクトとは違う、個性的な味覚と共に、造り手のこだわりなど、ストーリー性も合わせて楽しんでいただきたい。今まで、ビールを飲まなかった若者や女性にもビールを飲んでいただけるようにしていきたい」

一方、ヤッホーの井出社長は9期連続増収増益、年率2桁で成長してきた自信をもとに、アメリカ最大手、サミュエルアダムスのビジネスモデルを取り入れていくとしている。クラフトビール市場の17.5%のシェアを誇るサミュエルアダムスは、ビールを自社で作るだけで無く、積極的に外部の会社に製造を委託している。アメリカのクラフトビール市場は成長を続けており、ビール市場全体のシェアは出荷ベースで7.8%、金額ベースで14.3%。日本はまだ出荷ベースで0.4~0.5%、金額ベースで1%ぐらいといわれている。アメリカのスーパーのビール売り場へ行くと、クラフトビールが所狭しと並ぶ。ニューヨークやLAの街ではクラフトビールを置く店は珍しくない。若い人や女性が好んでクラフトビールを飲む。生産者(ブルワリー)をリスペクトし、味の違いを楽しむスタイルが日常化しているのである。日本ではクラフトビールがやっと東京で定着し始めた段階。伸びる余地ははかり知れないと言っていいだろう。それに気づいているかどうか。ヤッホーの井出社長はそれを感じ、先取りし、コンビニでの販売や昨年7月の直営店出店(ワンダーテーブルと組んで赤坂見附に「よなよなビアキッチン」オープン)といった行動を起こしてきた。今後はキリンと組んで、自社ブランドのさらなる拡大、生産増強を図る。

キリンは、7月にすでに「SPRING VALLEY BREWERY」プロジェクトを開始し、自然と共存したイノベーティブなものづくりを行うクラフトビールブランド「SPRING VALLEY BREWERY」を立ち上げた。同ブランドの製品は、来春、代官山東横線上部開発地に新たに開設するブルワリーと、当社横浜工場内に新設した小規模醸造設備の2カ所で製造、各ブルワリーに併設する店舗を来春から順次展開する。今回のヤッホーとの提携とは別に、すでにクラフトビール事業への参入を明らかにしていた。それだけに、キリンのクラフトビールに賭ける本気度を感じる。私が昨年7月にこのコラムで書いた「今後、大手ビールメーカがクラフトビール戦線に参入してくる動きは加速するに違いない」という予測がその通りになった。大手グループが手がける「クラフトメジャー」の動きからか、今後は目が離せないだろう。一方、これまでクラフトビール人気を引っ張ってきた小規模ブルワリーの直営店やブルーパブ(店内醸造の店)の「クラフトギルド」たちもますます勢いづいている。今回のクラフトビールブームの火付け役の一つ「クラフトビアマーケット」は近く、高円寺に進出する。高円寺といえば「高円寺麦酒工房」発祥地。さらに、五反田「クラフトマン」は12月に東北では初となる30タップの「クラフトマン仙台」をオープンする。これから地方でもクラフトビールの店が確実に増えていくだろう。

(引用記事)

クラフトビール東京より

http://craftbeer-tokyo.info/report/yoho-kirin/

(過去記事)
■2012年は「クラフトビール革命元年」!⇒ http://food-stadium.com/blog/2011/blog1830.html
■「『クラフトビール業態』が動き出した! 」記事⇒ http://food-stadium.com/sp/blog/001366.html
■クラフトビール戦線“異状あり”!⇒ 
http://food-stadium.com/sp/blog/002456.html

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