飲食の業界には、どういう志で入ったんですか?
島田さん:自分は高校が、千葉県にある定時制高校なんですよ。夜間学校なんですけど、大学とかの進学は考えてなかったので卒業する時に自分ができるものを探した結果、その時に好きだった料理と、あとバイクが好きだなと。その二つのどっちかにしようかなと。元々は物を作るのが好きだったんですけど、それを母親に相談したら、たまたま知り合いの息子さん伝いに新宿にある「東京調理師専門学校」を紹介していただいて、そこの2年制の専門科「西洋専門科」に行こうと決めたんです。
ちょうどその時期に「料理の鉄人」が流行っていて「坂井シェフかっこいい。ああいう風になりたいな」というところから西洋料理科をチョイスしたんですよね。 そこで2年勉強させてもらって就職するにあたって、坂井シェフも入っていた「クラブ・デ・トラント」っていうグループがあるんですけど、元々フランスで修行して帰ってきたシェフたちがみんなで集まって作ったグループなんですが、その中のどこかのお店に就職したいなと思ったんです。
でもどこがいいっていうのは自分が選べるような立場ではないので、その中の1つのお店に採用していただいたんです。そのお店が表参道の「ハナエ・モリビル」っていうビルの5階にあった「ル・パピヨン・ド・パリ」っていうお店なんですね。
大山:それは何歳のときですか?
島田さん:20歳です。高校卒業して2年なので。そこは1階でカフェをやっていて5階がレストランなんですけど、一番最初の入りたての頃はカフェとサービスをずっとやるんですけど、それで1年半ぐらいサービスの方をやったのかな。それでいろいろワインのことやサービスのことを教えていただいて、ようやく厨房に入れることになったんです。
厨房に入って、そのお店は結構厨房が大きくて、ホテルみたいなかなり大きい厨房なのでデザート部門と前菜部門とお魚部門とお肉部門といった具合で分かれているので、それを年単位で回っていく感じなんですよね。それで最終的に6年半ぐらいそのレストランにいたんですよ。
歌舞伎町で料理をするようになった「きっかけ」は何だったのですか?
島田さん:このお店が開業する際に、店長として招き入れていただいたというか。当時別のオーナーさんがいて誘っていただいてお店を開いたという感じです。最終的に2018年くらいですかね、お店を買い取らせていただき、現在自分がオーナーとしてやらせていただいているという感じです。
大山:元々はファインダイニングで働いてたわけじゃないですか。歌舞伎町で料理をしていくというときに、 戸惑いとかはなかったのですか?
島田さん: そうですね。最初の表参道のお店の後、他のお店もいくつか回りましたけど、その時からもう既に「自分の店を持つ」という意思はあったんですよね。そういう高級系ではなくて、自分がやりたいのって「直感的に美味しい」と思える料理の方が好きだなっていう。賄いを作ってる時が、めっちゃ楽しかったんですよ。フレンチっぽくないかもしれないけど、例えば賄いで出したハンバーグとか、唐揚げでもなくアレンジしたものをみんなが食べて美味しいって言ってくれる。直感的に「うまっ!」てなる料理の方が作ってて楽しいし、素敵だなと思っていて。それにおいて、やっぱりこじんまりとしたお店の感じはすごく理想的ではあったんですよ。
大山:なるほど。客層としてはどうでしたか?
島田さん:客層は、うちはそもそもが良いですね。
大山:良いですか。最初からそんなに戸惑わないと?
島田さん:ないですね。大山さんが来るぐらいですから、客層は良いですよ。笑
大山:笑
島田さん: でも確かに、他の街とちょっと違う特殊な感じはありますね。
大山:お店はオープンして13~14年くらい経ちますよね?その中で、店舗運営上で困ったことなどはありましたか?
島田さん:はい、2011年からですね。困ったことは…なくはないですけど、どの飲食店をやってても少なからず14年やったら何かしらは起こるんじゃないですか。それくらいのものですね。 解決できないような問題はあまりないですね。もし何か起きたとしても、結構周りが助けてくれたりしてるので、人に恵まれたなと思ってますね。
大山:2018年ほどにお店を買い取ってオーナーになるわけですが、雇われているときの自分とオーナーになったときの自分、違いはありましたか?
島田さん:やってることは変わってないんですよ。元々会社でやっていて、会社を登記した段階から自分が(雇われ)社長として、基本的には全部違自分でやっていましたので。やることの内容は変わらないんですけど、ひと区切りついたなって思って、1人でビールを飲みましたね。笑
ちょっとしんみりはしましたよね。36歳の時でした。
大山:この新宿・歌舞伎町のマーケットを、どういう風に捉えていますか?
島田さん:だいぶ移り変わりは激しいなと思ってますね。やっぱり一番最初始めた頃のお客様の層と、コロナ終わってからの今の層だと全然違いますね。具体的に言うと、まず年齢層がまず違いますよね。下がってるんですよね。 どんどん年齢層が下がって、まずお酒を飲む人が少なくなったんですよ。最初はちょっと自分も「ん?」て顔してたんですけど。もう受け入れるしかないですよね。
でもうちは一応ワンドリンク制ということで、ソフトドリンクでもOKですという形でやらせてもらっているのですが、本当にパスタ屋さん感覚とかファミレス感覚で使うような若い子たちがすごく多いなって。
大山:それをどう思われているのですか?
島田さん: こちらとしては売上が下がってしまうのですが、普通の人の考えだと「ソフトドリンクの方が、原価的にコスパいいんじゃないの?」という…。確かにそうなんですけども「じゃあ何杯飲むか」って話なんですね。ソフトドリンク10杯は飲めないんですよ。ですが、お酒だと10杯飲めるんですよね。そうなったら結果的にどっちの方が利益率が良いかというと明白ですね。
お店の人気メニューを教えてください。
島田さん:鴨とマッシュルームのオーブン焼きというメニューが、結構人気あります。
普通のスタンダードなマッシュルームのオーブン焼きに、トリュフと鴨を使っています。これ結構人気ありますね。ピザやアヒージョも人気ありますね。少しボリュームありますけど。
あとはおすすめをちょっとずつ前菜3種盛りとか、おまかせにしてもらうことも多いですね。
おすすめをちょっとずつ前菜3種盛り
島田さん:あとパスタはオイル・トマト・クリームとかお好みを聞いて、お客様の好みのものを作ったりするのが好きですね。
この日は「にんにく・トマト・オイル・魚介系」をリクエストすると、はまぐりたっぷりのオリジナルパスタを作ってくださいました。
島田さん:お客さんの美味しいってものを作りたいんですよね。昔来た人でびっくりしたのは「麻婆豆腐作って」って言ってきた人いましたね。笑
うちイタリアンなんですけどみたいな。笑
でもお断りしたくないので豆腐がないからどうしようかなと思って、しょうがないから卵白使ってちょっと固めのプリンを作ってそれを豆腐の代わりにして、中華の調味料は一応少しあるので、それで麻婆豆腐風なものをお出ししました。
大山:すごいですね。卵で豆腐に代用するっていう。ワンオペで買い出しも行けないですもんね。いつしかからワンオペでやるようになったじゃないですか。これはどのような変化だったんですか?
島田さん:コロナが軸なんですよね。コロナの前はバイトの子と自分でオール2人体制でした。コロナが明けてからどれだけの集客があるのかもわからない状態で、まずアルバイトを雇用することが責任になるので、ちょっと難しいなとは思っていたんですよね。元々派遣の方も使ったりしていたので、とりあえずワンオペの路線でどんなふうな流れになるのか見てみようかなっていうのもあって、ちょっと様子を見てたんですけどその結果、もうワンオペでもいけるなっていう状態になって。いけてない日もあるんですけど。笑
そこも常連様に甘えさせていただいている部分も多々あるんですけどね。ただ予約がたくさん入っている日や週末は2人体制をとるようにはしています。常用できるようになればいいんですけど、常用の人は今いません。「タイミー」ですごくよく働いてくれてる子が運良くマッチングしてくれてたので、その子が何回か来てくれたり。そんな感じでなんとかやっています。
大山:確かにドリンク作ってくれるだけでもありがたいですよね。
島田さん:もう料理持ってって、下げてくれるだけでありがたいです。それ以上のことは求めないので。
大山:でも、こういう町の深夜食堂みたいなものっていうのは非常に大事だなと思いますよ。
島田さん:すごい利益率のいい仕事ではないんですよ。そもそもが、飲食業っていうもの自体が。お金ばっかりかかる職業なのでそこでどうやって売上を残すかって考えると、結構大変なんですけどね。やっぱり水物(お酒)になっちゃうんですよね。なので、グラスで飲めるワインの種類を多く揃えたり工夫しています。
自分が好きな料理を作るのも、やっぱり売上の余裕があって初めてできることですよね。たまに常連様で、定期的にそういうおまかせコースみたいな形式の会をやってくれる人もいるんですけど、「これ食べたい。ちょっと高級な食材とか、いくらぐらいで作ってよ」とかそういう遊びをさせていただけると、めちゃめちゃ嬉しいですよね。久しぶりにオマール海老使いたいなとか。
この仕事に対して、ご家族の理解はありますか?
島田さん:それはもう結婚するタイミングで奥さんに言ってあるので。自分が結婚した26歳になる年ですね。一番最初の「ル・パピヨン・ド・カフェ」の閉店で辞めることになったんですけど、僕たちが一番最後に挙式を挙げたカップルなんです。「お店は無くなってしまうけど、やっぱりお世話になったし、最後にここで思い出を作りたい」ということで、奥さんに「すいません。ここでやらせてください」ということで。
奥さんにプロポーズをする段階で「俺は最終的に自分でお店をやる方向性で飲食で食っていくけども、その辺に対してすごく苦労をかける部分は多少なりともあると思います。それでもよければ本当にお願いしたいです」っていうお話なんですよね。
大山:素敵すぎますね。それで快諾をしていただいて今に至ると。
島田さん:そうですね。理解していただいたっていう。
大山:ちなみに休みの日とかどういう生活されてるんですか?
島田さん:土曜日営業終わって、今うちが子供2人なので、休みの日曜日はやっぱ家族デーというか子供デーというか。どこか遊びに連れていってあげたりとかいろいろしたいので。ただやっぱり土曜日も朝まで営業なので、寝ないで日曜日遊ぶって感じです。笑
大山:すごすぎますね。 いい人すぎます!笑
島田さん:逆に週末の方が疲れるっていう。笑 でもそこで奥さんが優しいのは、子供が寝静まった後の自分のフリータイムをちゃんと作ってくれたりとかしてるんですよね。1人時間というか。
大山:素晴らしいですね。
このお店と展望・展開をお聞かせください。
島田さん:やっぱり自分的には町田に住んでいるので、最終的には町田で、お店をやりたいなと思っています。移転というか、できたらいいなとは思っていますけど、ただやっぱり今すごく常連様達に大事にしていただいているのもあって、その常連様達に町田に来てくださいって訳にはいかないので、自分ができる限りはここで頑張りたいなっていう気持ちもありますね。 なんならやろうと思えば、町田は別に自分がやらなくても分店といった感じで、別の人にノウハウを教えてベースを作っていくというやり方もあるので、それがうまくいったらなおのこといいことなんですよね。ただできる限りは、ここで頑張ります。
大山:なるほどです。長い時間ありがとうございました。英紀さん、普段取材とかされます?
島田さん:全部断ってますね。電話来ても、門前払いしますね。笑
大山:いやぁほんと嬉しいです。僕は純粋にこのお店を知って欲しいなと。
島田さん:バズりたくないんですよね。笑
大山:そうですね。ターゲットと違うお客さんが来られても困るでしょうし。
島田さん: でも、この記事(フードスタジアム)を見てきましたっていう方がいたら嬉しいですね。
大山:ありがとうございました!では、乾杯しましょう!笑
取材後記
食べたり飲んだりするのが好きな人の中では「(人に)知って欲しいけど、有名になって欲しくない」といったお店がいくつかあるものです。この「da Vinci(ダヴィンチ)」さんは、私にとってそんなお店の一つです。13年前の新規開業の時にお店の前を通り掛かり、たまたま入店し、たまたま同年齢ということで意気投合し、それ以来、島田シェフのこの街での奮闘をお客の立場として見てきました。一人一人のお客様に常に真摯に全力投球の島田シェフに、是非とも会いに行って見てください。島田さんありがとうございました。
深夜覗くと、ごくごくたまに全力投球すぎて力尽きているのも、また島田シェフが日々本気で営業に臨んでいる証と言えるでしょう。笑
島田さんありがとうございました!(聞き手:大山 正)