今年で創業85年を迎える割り材飲料メーカーの博水社。昔と変わらずいまなお愛され続ける理由は、時代にあわせた進化を遂げてきたからだろう。もともとはラムネの製造をしていた同社は、コカ・コーラなど海外の清涼飲料メーカー参入で同業者が撤退していった時代に、焼酎の割り材を開発。地元を味方に次々にファンを増やしてきた。関東の大衆酒場ではすっかり定着した割り材「ハイサワー」を製造販売する同社は、次の時代にむけて新たな商品「ハイスキー」をリリース。ネオ大衆酒場ブームを追い風に、若者からも絶大な人気を得ている次世代ドリンクである。
前回ご紹介した同社の新商品「ハイッピー・クリア&ビター」は、昨今の濃い味やオイリーなおつまみにも合うドリンクとして、飲み口をよりスッキリと開発した新商品。さわやかなホップの軽い苦味とほのかなレモン風味が特徴だ。「クリア&ビター」の名前の通りとにかく軽い口当たりで、炭酸もスッキリ。おかわりするお客も多い。焼酎(中)とハイッピー(外)のセットでお客に提供する。ウイスキーとの相性も非常にいいのも幅広い客層にうけているようだ。
次に登場したのが、業務用濃縮タイプのコンク「ハイスキー原液」だ。甘味はなく、ホップの軽いほろ苦さが、爽やかなドリンクに仕立ててくれる。これは、チューハイや炭酸のサーバーを持つ飲食店向けの1ℓ紙パックで、一本で約25杯作れるサイズ。作りかたは簡単。サーバーからのプレーンチューハイ(焼酎と炭酸だけのモノ)に 45mlほどハイスキーを足すだけで完成だ。レモン果汁も入っているのでとにかく飲みやすい。さらにはこの「ハイスキー」は【原液タイプ】なので他のメニューにも使える。甲類焼酎のロックや水割りには、ハイスキーを30ml加えればよい。これは下町で飲まれるようなアルコールの濃い酒を好む人たちに最適のメニュー。ハイスキー原液はどんなに度数の高い濃い酒に加えても、その口当たりは軽く爽やかでスイスイ飲めるのが特徴のビター系だ。そのライトな軽い苦みが「ネオ大衆酒場」の客層、若者にもなじみやすいとあって、今外せない注目のドリンクである。
ところで、なぜ“大衆酒場”とこのハイスキーは相性がいいのか。大衆酒場の経営学を知り尽くす金子氏に尋ねると、
「安くてうまい食べ物を提供するには、お酒を売って利益を確保する必要がある。そのためには、利益率の高いサワー系は不可欠」とのこと。晩杯屋のドリンク比率は売上ベースで平均約65%と稼ぎ頭だ。だからこそ、ドリンクも安くて、うまくて、つまみとの相性を追求したものでなくてはならない。「なかでもハイスキーは、【甘くなくさっぱりと飲みやすい味わい】なので、何杯でもお腹にたまらずに飲めるんですよね。5〜6杯はスイスイといけますね」。
“安くてうまい”を信条とする晩杯屋では、提供の早さも重要なポイントだ。客単価1300円。この圧倒的低価格とお客の満足度を保ちながら、一日何回転できるかが勝負になる。だから、ドリンクはオペレーションが簡単で、みんなにおいしいと言われるものがいい。そんな店の要望にしっかり寄り添って開発されたのが「ハイスキー」なのだ。晩杯屋では、サーバーからグラスに、焼酎と炭酸水をいれそこにハイスキー45ml加えて作っている。これを500mlジョッキ(290円)で出している。
すでに「ハイサワー」は、大衆酒場の定番ドリンクとなったが、発売してまだ日の浅い「ハイスキー」は、知らない人も多い。お客たちの反応はどうだろうか。「ハイサワーやハイッピーに比べるとまだ『ハイスキーって何?』という方は多いですね。ですが、どんな飲み物なのか興味津々で注文する若い方も多いですよ。特に女性がね」。ネオ大衆酒場の勝負どころは、フード、ドリンクメニューの充実ぶりにもある。定番ドリンクだけでは他と差がつかない。新しくて良いドリンクがあれば、提供する。博水社のハイスキーは、伝統を大切にしながらも常に新しい提案をしていこうという晩杯屋のポリシーにもかなう。意外な客層の獲得にも一役買っているそう。「うちの平均客数は1.4人と圧倒的に一人客が多いんです。なかでも最近驚くのが、女性の一人客が急増している点です。中目黒店なんかは、時に女性比率の方が高いくらいですからね。そんな女性がさらっとハイスキーを頼むんですよね」。女性が大衆酒場でサクッと一人飲みする。そんな時代にも、安くてスッキリ飲めて、プリン体もゼロでヘルシーなハイスキーはしっかりマッチしているようだ。
4月からFC展開をはじめた晩杯屋。町田など23区を出るとさらにハイスキーの認知度はまだ低いが、その分お客に新鮮味や楽しさを提供できているそうだ。金子氏は「武蔵小山生まれの酒として、お店と一緒にハイスキーももっと広めていければうれしいですね」と話す。
そもそも晩杯屋でハイサワー、ハイッピー、ハイスキーをはじめとする博水社の商品導入をきめたのは、「地元が一緒だから」が理由だ。
「創業の地、武蔵小山にはお世話になってきた。だから、店を通じて地域を応援したいんです」と金子社長。その思いは博水社の田中秀子社長も同じだ。「武蔵小山のみなさんに育てられてきました。だから、地元がもっと楽しくなればいいなって。今、武蔵小山と西小山を『ハイサワー特区』にしてキャンペーンもやっているんですよ。(笑)」と、キャンペーン用に作った、黄色い提灯を広げて楽しげに笑顔をみせる。“ハイサワー特区認定店”のお客には、一般では入手不可能な博水社名物“美尻(ビシリ)グッズ”をプレゼントなどの特典をつける。“美尻グッズ”とは、水着の女性のお尻のアップが印刷された同社オリジナル商材で、美尻ポスターや美尻グラスなど酒場まわりのグッズを取引のある飲食店向けに卸しているものだ。今回の「ハイサワー特区」キャンペーンでプレゼントとして配布するのは、限定の“美尻ハイッピーステッカー”などを予定している。これらのグッズは、大衆酒場の賑わいを盛り立てるだけではなく、一般のお客にも熱狂的なファンを持つキラーアイテム。店の外に美尻ポスターを貼れば、翌日には何者かに持ち去られているほどだという。非売品のオリジナルアイテムを、日頃お世話になっている飲食店といっしょになってキャンペーンで配る。そんなニクい演出も博水社・田中秀子社長の魅力である。
常に時代あわせて進化し続ける博水社。店や地域に寄り添う付き合いも同社が愛され続ける理由になっているようだ。安くてうまくて、楽しくて、どこか心地いい。そんなネオ大衆酒場に集う若者たちの卓には、ハイスキーがなくてはならない存在になってくるだろう。