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受動喫煙防止条例がもたらす経済波及の実態とは?!


リーマンショック以降、不況トレンドにある外食産業。3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震の影響によりさらなる逼迫状況にあるなか、いよいよ4月より神奈川県で「公共的施設における受動喫煙防止条例」(※注1)の罰則が適用となる。そこで一層懸念される飲食店の売上等への影響だが、マーケティング・レポート会社の富士経済(URL https://www.fuji-keizai.co.jp/)が、2010年6月から7月にかけて県内の外食店に対して調査を実施したところ、実に外食チェーンの33.3%の店舗が、2010年4月の条例施行以降、売上が減少しているという回答に。調査結果に対する反響は大きく、自治体関係者からも地域経済への影響に関する問い合わせが寄せられたという。果たして全国に喫煙規制が及んだ際の影響とは?! 神奈川県の受動喫煙防止条例による経済波及の算出数値をもとに、外食産業に起こりうる影響を探る。

「受動喫煙防止条例は、外食産業にどのような影響を及ぼしたのか?」

多くの飲食店経営者が感じているであろう、この疑問に答えるべく、前述した富士経済の調査結果より神奈川県「公共的施設における受動喫煙防止条例」の経済波及効果や、その発生要因などを抜粋してお伝えする。

■神奈川県「受動喫煙防止条例」が産業に及ぼす経済波及効果とは?!

2010年 -55億円 (外食産業影響額 -77億円)
2011年 -106億円 (外食産業影響額 -62億円)
2012年 -76億円 (外食産業影響額 -29億円)
合計 -237億円 (外食産業影響額 -168億円)

上記には、外食産業や宿泊施設、商業施設といった条例により損失を被った産業のほか、分煙機器や禁煙補助剤などのプラス成長に転じた産業も含まれる(※注2)。それにしても、2010年から2012年の3年間で見ると、マイナス成長の実に7割近くを外食産業が占めるという結果に。では、外食のなかでもどういった業態がより影響を受けやすいのか。以下、ジャンル別の発生要因を参考にして欲しい。

■受動喫煙防止条例が外食産業に及ぼす影響の発生要因

ファーストフード
  • ◆店舗の多くが禁煙へ移行している状況にあり、影響としては喫茶目的で利用する喫煙サラリーマンの客離れが見られた。
  • ◆マイナス影響はハンバーガー業態を中心に発生しており、分煙・禁煙化した店舗の多くでは、条例施行前と比較して売上1~3%減、最大で4%の落ち込みが見られた。
ファミリーレストラン
  • ◆条例への対応を比較的早期から行なっており、喫煙席と禁煙席を仕切りで区切った分煙や、席は禁煙とし喫煙ルームを設置する分煙、あるいは禁煙化を店舗規模や利用客層に応じて行なっている。そのためランチやディナーといった食事がメインとなる時間帯での影響は軽微に留まっているが、モーニングやアイドルタイム、深夜といった滞在時間も長く喫茶需要のある時間帯では喫煙客離れが発生している。
  • ◆影響額は喫茶や深夜も営業している店舗と食事中心の店舗で異なり、前者は4~6%、後者は1~2%、条例施行前の売上と比較して減少している。
喫茶
  • ◆元来、喫煙者の喫煙ニーズと非喫煙者の分煙ニーズが高く、大規模チェーンでは条例施行以前から分煙対策を行なっている店が多かったため、条例施行後に、新たに分煙・禁煙化する店舗はほとんど見られなかった。
  • ◆一部のチェーンだけが禁煙・分煙化へと移行しており、当該店舗では条例施行前と比較して5%程度の売上の減少が見られた。
料飲店
  • ◆料飲店では、利用客の半数以上が喫煙客というチェーンも存在するほど、非常に喫煙ニーズの高い業態であり、また滞在時間も他の業態と比較すると長いため条例対応に伴う分煙・禁煙化の影響を最も受けることとなった。
  • ◆喫煙ルームの設置や店頭での灰皿設置では、喫煙するために席を立たなければならなく会話が途切れてしまうため、当該業態での導入障害は大きい。
  • ◆マイナス影響は、条例への対応を進めている上位チェーンで顕著に見られており、分煙・禁煙化した店舗で喫煙環境変更前から最大30%の売上減、多くの店では15%~20%程度の売上減少が見られた。
専門店
  • ◆飲酒を伴い利用客の滞在時間が長く、客単価の高い店舗では接待や宴会といったシーンで喫煙ルームや禁煙の店舗が敬遠される傾向にあり、分煙・禁煙化後の影響は最大で20%、多くの店舗では数%、売上が減少している。

 

これだけの影響があると分かったうえでも、4月より罰則の適用が開始されるため対応が迫られることは必至。果たして、現状では、どの程度の店が分煙の導入など規定に沿った対応をしているのか。対応状況に関するデータを以下にまとめた。

  1. [1] 神奈川県内の外食チェーン店の条例への対応状況(100m2超+100m2以下)
    神奈川県内の外食チェーン店の条例への対応状況(合計)
    • 条例発令後、本条例の基準内となる喫煙環境へと変更する店舗は増え続けており、罰則が課される2011年4月までには店舗面積の広さに関わらず71.4%の店舗が条例基準内へと移行する予定となっている。
    • 最終的に外食店が条例基準内で選択する喫煙環境は、喫煙客と非喫煙客の双方を確保できるが投資金額の大きい「エリア分け条例基準内」か、投資金額が不要な「全面禁煙(店外灰皿なし)(店外灰皿あり)」に二極化している。
    • 店舗で喫煙を排除することが困難と判断される業態や店舗では、条例基準を満たすエリア分け工事を実施、一方で喫煙ニーズが低い業態では、「全面禁煙」を選択する傾向の強いことが挙げられる。
  2. [2] 神奈川県内の100m2を超えるチェーン外食店の条例への対応状況
    神奈川県内の100平米を超えるチェーン外食店の条例への対応状況
    • 100m2超の店舗の90.6%が、罰則が適用される2011年4月までに条例対応を完了する意向を示した。
    • 「エリア分け条例基準内」の比率が最も拡大傾向にあり、これは100m2超の大型店であれば、分煙機器設置スペースの確保や設備投資の調達が小型店に比較すると行ないやすいためである。
  3. [3] 神奈川県内の100m2以下のチェーン外食店の条例への対応状況
    神奈川県内の100平米以下のチェーン外食店の条例への対応状況
    • 100m2以下の店舗の67.3%は罰則適用直前の2011年3月末時点においても、条例基準を満たす喫煙環境への変更を行なわない意向を示した。100m2以下の店舗に対しては、罰則が適用されないためと考えられる。
    • 一部の企業では、企業スタンスやチェーンオペレーションの統一性、消費者の混乱回避のため、100m2超の店舗と同様に「禁煙」「分煙」を志向した。
  4. [4] 個人経営店の条例への対応状況(100m2超)
    個人経営店の条例への対応状況(100平米超)
    • 分煙もしくは禁煙が義務となっている100m2超の店舗では、条例施行後、条例基準を満たす店が21%から65.2%と大幅に増加。その対応の多くは、フロア分煙や全面禁煙など、新たな設備投資を必要としないもの。
    • 50万円以上と高額の設備投資を必要とする「エリア分煙(条例基準内)」、「喫煙ルーム設置」に対応した店舗は11.7%。今後投資を予定している店舗も16.3%と低水準に留まり、条例期基準を満たす分煙装置は、個人経営店にとって多額のコストが負担となっている状況が窺い知れる。
    • 罰則の適用が開始される2011年4月までに条例への対応を行なう意向を示していない店舗は20.9%。その主な理由としては、「対策にお金がかけられない」や「禁煙席が増えることで、客数が減ることが目に見えているため」といったコストや売上に関する回答が多く見られた。
  5. [5] 個人経営店の条例への対応状況(100m2以下)
    個人経営店の条例への対応状況(100平米以下)
    • 分煙もしくは禁煙が努力義務となる100m2以下の店舗では、条例施行後の2010年7月時点で「全面禁煙」が61.9%であり、2011年3月までに条例基準を満たす喫煙環境へ移行しない店舗が55%と半分以上となった。
    • 一方、条例対象外ではあるものの、2011年3月末までに自主的に条例基準へ移行する店舗は26.4%であり、そのほとんどは追加投資の必要ない全面禁煙となっている。

さらにもうひとつ、非常に気になるのが条例の経済波及効果による雇用の減少である。条例施行後3カ年の誘発職業者数の変動は、以下の通りだ。

2010年 -1461人 (外食産業では -1548人)
2011年 -1667人 (外食産業では -1250人)
2012年 -992人 (外食産業では -580人)

そして本題。神奈川県の「受動喫煙防止条例」の経済への影響に関する調査結果を参考として、各産業の全国における市場規模をもとに算出すると、

「受動喫煙防止条例が全国で施行された場合の経済波及効果とは!?」

2010年 -104億円
2011年 -210億円
2012年 -174億円
合計 -448億円

さらに、「受動喫煙防止条例にともなう誘発職業者数の変化は!?」

2010年 -22552人
2011年 -28685人
2012年 -19795人
合計 -71032人

以上、富士経済「受動喫煙防止条例がもたらす需要変動の実態」のレポート結果である。リアルな数値を前に、果たして、受動喫煙問題にいかに取り組むべきなのか、また備えるべきか、自身の経営する(務める)店の方向性を決める参考として欲しい。

※注1 「公共的施設における受動喫煙防止条例」

2010年4月に神奈川県で施行されたこの条例は、不特定多数または多数の人の出入りがある空間(公共的施設)を有する施設(公共的施設)に対して、受動喫煙を防止することを目的に、分煙もしくは禁煙とすることを義務付けるものである。

※注2

対象産業は、条例対象産業(外食・宿泊施設・商業施設・食品・酒販)、店舗設備関連作業、喫煙・禁煙関連産業。各産業の市場規模・動向をヒアリングし、「公共的施設における受動喫煙防止条例」による影響金額を推計した。さらに、その影響金額(*A)が、経済全体にもたらす波及効果を算出するため、三菱UFJリサーチ&コンサルティングに依頼の上、総務省の平成17年産業連関表をもとに今回の経済波及効果算出に即して新たな産業連関表を作成。この産業連関表に、*Aの影響金額を与えることで、経済全体に与える影響「経済波及効果(生産誘発額)」を算出した。

参考資料)

「受動喫煙防止条例がもたらす需要変動の実態」 富士経済社発行
https://www.fuji-keizai.co.jp/report/index/111102848.html

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