■ポジティヴフード「もつ福」の事例
マーケティング部主任 三神有悟氏 × もつ福赤坂見附店 八幡店長
―早速ですが、今回ご協力いただいた「店内のたばこ環境の表示」に関するご意見、ご感想を伺わせてください
八幡氏:正直言うと、現場としては最初抵抗がありました。居酒屋に関して言えば、ほとんどのお客様はたばこが吸えると思っていらっしゃいます。ですから逆に"たばこが吸えます"と敢えて強調してしまうと、ファミリーの方々がいらっしゃった際に「ほかの店にいこうか」となり、店としては集客の機会損失に繋がる懸念があったからです。
―実際、実施してみていかがでした?
八幡氏:うちの店は常連のお客様が多いためか、実際、表示を見て来店を決めるという方は少ないようで、影響は感じられませんでした。
―経営側として、現場の意見をどう考えますか?
三神氏:現場からこういった懸念が上がることは、事前に予測していました。その上で今回ご協力したのは、飲食店は自分たちの店の情報を明確に打ち出し、お客様に選んでいただく、という姿勢が今後さらに重要になるからです。そういう意味で、喫煙禁煙に関しては、今までお客様の選択権が不明確でした。私もお客の立場として、八幡店長の言うように居酒屋はたばこが吸えるだろうと考えています。しかし、神奈川県のように「吸えない、もしくは分煙が常識」という考えのお客様なら、それは全く逆の見解となる。こういった「曖昧な一般常識」に頼った見せ方というのは、メニューやサービスならしないと思うのです。ですからたばこも同様に、情報提供をしっかりやるべき。実際に、表示を行なって問題となったのは、「喫煙と禁煙の読み間違い」の1件のみでした。これは、メニュー表記が少々曖昧だったことが問題なので"たばこが吸えます"という間違いようのない表示に変更することで、その後クレームは起こらなかった。売上にも響いていないので集客の機会損失にもなっていないですし、むしろお客様の選択をより大事にできるようになり、経営側としては今回の結果に非常に満足しています。
―たばこの表示は、メニューを分かりやすく表記するのと同じ目線でのサービスだと?
三神氏:はい。飲食店はテイクアウト的な業態と異なり、料理だけじゃなく空間も一緒に売っています。空間はサービスの一部。吸う側にとっては、たばこが吸えるからこそ食事が楽しめる、お酒が楽しめる。そういうところをもっと意識する必要がある。神奈川県が無条件に禁煙になってしまった事は、この問題を考えるに至った良い機会でした。
八幡氏:今、三神さんの話を聞いて僕も反省した部分があります。現場としては売上を意識し過ぎるところがあり・・・。確かに、明確に店の情報をお客様に伝えないと店として優しくないですし、本当の意味でお客様に選んでもらえなくなってしまう。裸になるわけじゃないですけど、全ての情報をオープンにして、その上で選んでもらえる店にするということが非常に大切だと感じました。
三神氏:「たばこに関する常識」が揺らいでいる時期なのだと思います。共存できる環境が一番いいのに互いのメリットばかりを主張し合う。そうしていたら、いつまでたってもスタンダードはできません。タクシーが吸わない空間だと根付いたのは、そう決めて表示したから。結局、表示にする以外に"スタンダード"は確率できない。表示が当然になれば、その上での戦い方があり、飲食店は次のレベルに進むでしょう。実際、嫌煙家の方でしたら禁煙空間で食べる"もつ鍋"はおいしいでしょうし、喫煙者であればたばこを吸いながら食べる"もつ鍋"がいいでしょう。そうなると、禁煙空間で食べる"もつ鍋"を売りにする店もでてくるでしょうね。我が社は逆に「たばこを吸えるもつ鍋屋」を売るかもしれない。戦略は状況に応じて練っていきます。
―皆よりも先んじて、多少のリスクも伴いながらでも断行していく理由は?
三神氏:マーケティングという立場の考えとして、恐らく、世の中的に、飲食店は表示必須か全面禁煙の流れになっていくと予測されます。そう仮説を立てた場合、参加するメリットとは、全面禁煙の防止策に参加しているという意識が持てること、早い段階からサービスとして取り組んだ方が他店と差別化できて集客のネタになること、そして、表示が主流になっても何のダメージを受けないという、大きく3点です。
―表示活動を広めるにあたり、地域毎に取り組んでいく方がいいか、期間限定のイベント的に参加店舗を募って行なうべきか、飲食店はどちらの方が良いと考えますか?
三神氏:地域毎がいいと思います。お店としては、もちろん目的客が一番いいですが、基本的にお客様のお店選びはエリアからだと思うのです。ですから、エリアの選択肢の部分で、選んでもらう付加価値ができる。そうすると街自体の活性化に繋がり、逆に個店毎に表示の有無がバラバラだと、お客様にとっても分かり難いと思います。
―困っているお店も、お客が増えたらいいなって言う部分での期待は持てますか?
三神氏:急激に集客に繋がることはないですがチャンスにはなるでしょう。皆が表示をするようになったら、そこから先はもっと突っ込んだサービスの勝負になる。たばこが吸える店だけど煙の吸気にはもの凄く配慮していますよとか、分煙を完璧にしていますとか。勝負するポイントがより明確化するだけですから、そもそも、たばこの表示をエリアでやるデメリットは全くなく、懸念材料はないと思うんです。
―エリアの優先順位はあると思いますか?
様々な人種がいるところ、観光地的要素の強いエリアは先にやるべきだと思います。逆に、地域特性が目立ってないところや同じような人種が集まるところは、考え方もある程度似通っているので後でもいいと思います。
―ありがとうございます。まだまだ多くの店にとって店内のたばこ環境の表示は一般的ではありませんが、神奈川県のような例が東京に起こったら一気に非常事態になります。それを防ぐ為にも、今後更なる推進活動を進めていきます。
三神氏:こちらこそ。今回、なにより良かったのは、飲食店におけるたばこの環境問題を徹底的に考えるきっかけになったことです。良い機会でした、ありがとうございました。