空前の健康ブームが追い風となり、近年、国内外で問題となっている“飲食店でのタバコのあり方”。神奈川では、今年、100平米以上の飲食店に対して分煙環境の導入を規則づける「受動喫煙防止条例」が制定された。導入コストは一店舗400〜500万円程度。さらにオペレーション費用も必要となり、不況下において、神奈川の飲食店経営者は厳しい決断を迫られている。この影響が外食業界全体に降り掛かる前に取り組める対策法を探るべく、過去3回に渡り業界トップリーダーや現場の意見を取材してきた。
その中で誰もが口にする共通Wordが“共存”だ。「喫煙者」と「非喫煙者」が互いに気持ちよく過ごせる環境を創り上げれば、受動喫煙を防げると共に飲食店もムダなコストを割かずにすむ。では、どのようにしたら実現しうるのか。対策を検討する際、行政の意向は?デベロッパーは?と、広い視野を持ち、各方面の方向性も理解した上で、外食産業としてすべき具体策を考えねばならない。
平成14年に健康増進法が制定されて以来、行政でも様々な受動喫煙への対策がなされてきた。なかでも“飲食店における受動喫煙防止”に早くから取り組み、現在、他区の模範モデルにもなっているのが「中央区」である。そこで今回は「中央区」及び「東京都」に受動喫煙防止に関する活動内容、今後の方向性について関して話を聞いた。
東京都の模範モデル「中央区」の取組み
●中央区(中央区保健所 生活衛生課:山崎賢一氏)
−−−中央区として、飲食店における受動喫煙防止」に力をいれるようになった背景は?
平成19年、世界保健機構(WHO)で飲食店等の完全禁煙が法例化されたり、神奈川での禁煙条例の施行などの背景もありましたが、最も大きかったのは区民の方々からの声でした。区長への投書箱に「飲食店での受動喫煙防止に取り組んで欲しい」といった声が多く寄せられるようになり、区として対策を講じる必要があると考えたのです。
−−−具体的に、どのような対策を行なっているのですか。
たばこは嗜好品ですから一律禁煙にするという論点は間違っています。要は、たばこが嫌な人が喫煙店にいかないですむ仕組みを創ればいいので、喫煙・禁煙の表示を店外に掲げる事で受動喫煙を減らしていく。これを区の飲食店にできるかぎり協力していただき普及していく事に決め、平成18年、独自のステッカー(4種)と啓発用リーフレットを作成しました。
このステッカーを、23区では初めて区内すべての飲食店約1万店舗と2000ヶ所の理・美容施設、公共施設等に配布し、営業者等の自主的な判断により、各施設の取り組みに合ったステッカーを店の入り口に表示をしていただくようお願いしました。
−−−4種のステッカーとは?
終日全面禁煙とする「全面禁煙」、利用者が多い時間帯のみ禁煙にする「時間分煙」、独立した禁煙室等を設ける事でたばこの煙やにおいが流れる事を完全に防ぐ方法「完全分煙」、喫煙席と禁煙席をエリアで分ける「空間分煙」の4種です。また、表示した飲食店等からの報告に基づき、区ホームページで公表しています。
「たばこ対策はしたいが常連客への配慮からやりにくい」「行政に協力する形なら説明しやすい」という声が多かった為、ステッカーには中央区保健所の名前を記載し、営業者が導入しやすい仕組みを作りました。
−−−現段階での飲食店での実施率を教えてください。
飲食店では、660施設と全体の6%。割合は、全面禁煙183軒、時間分煙285軒、完全分煙40軒、空間分煙152軒となっています。(保健所にハガキにより報告のあった軒数です)
−−−今後の課題を教えてください
飲食店ではまだわずかしかたばこ対策が講じられていないのが現状です。構造やスペース上、分煙が難しいという店舗も多く、禁煙店にする事で新規に取り込める客も見込めるものの、たばこを吸う既存の客が減り、経営上厳しいという店側の不安もあります。
しかし、非喫煙者と喫煙者の“共存”という視点で考えた場合、「店外表示が当たり前」という仕組みを作る事が最も効果的だと考えられる為、今後も継続的に、既存店舗及び新規開業施設に対してステッカーの掲示を求めていきます。
−−−中央区として、飲食店に努力をお願いしたい事は?
また対策を講じられていない店舗及び新規のお店については、ステッカーの表示にぜひご協力をお願いします。各施設の取り組み状況は区ホームページにて公表し、年二回更新していますのでご覧下さい。
∇中央区:受動喫煙防止の情報サイト
http://www.city.chuo.lg.jp/kurasi/kenko/Judoukitsuenboshi/index.html
∇ステッカーに関する詳細はこちら
http://www.city.chuo.lg.jp/kurasi/kenko/Judoukitsuenboshi/index.html
東京都は、条例化による一律規制を行なうか!?
●東京都(福祉保健局保健政策部:近藤匠氏)
−−−東京都として、タバコ問題を取り組み始めたのは、いつ頃からですか。
タバコ全体、あるいは受動喫煙という問題に関しては、平成14年に健康増進法が制定された以降、平成15年からです。公共の場や職場における分煙化対策の研修会を始め、ガイドラインやリーフレットの作成など、啓蒙活動を中心に行なってきました。
−−−神奈川の例がありますが東京都でも、条例化による規制は考えていらっしゃいますか。
現在、都は「飲食店の受動喫煙防止対策検討会」を設置し、検討を行っていますが、都は、条例化による規制は考えていません。店の規模、業種、立地条件など様々な中で一律というのは非常に難しい。できる店から取り組んでいくことが、現段階で最も現実的だと考えています。
−−−具体的に、東京都ではどういった取組みをされているのですか。
平成20年度に、現状を把握するため4000軒の飲食店を対象に調査を行ないました。
調査に回答頂いた1504軒の約7割が禁煙や分煙の対策をしておらず、その理由(複数回答)は、「お店のスペースや構造上、効果的な分煙が難しいため」が約7割でした。
また、調査に回答頂いた1504軒の約2割が禁煙や分煙の対策をしていましたが、そのうちの約3割がそのことをステッカーなどで表示していませんでした。
このため、対策に取り組めるお店が時間分煙などの比較的取組みやすい対策から着手して頂けたらと考えています。また、そうした取組みを行っていることを「店頭表示」して頂くことで利用者の方が予め店内の対策を知ることが出来、結果として、都民の受動喫煙の機会を減らすことにもつながります。今後の取組みとして、都は今年度、店頭表示のためのステッカーと飲食店向けの受動喫煙防止に関するリーフレットを作成し、関係団体や区市町村の協力を得ながら配布し、普及に努めていきます。
−−−東京都として、外食業界及び飲食店にお願いしたい事はありますか。
対策を実施していないお店の方には、取組みやすい対策から着手して頂ければと思います。対策を行っている場合、都が今後、配布するステッカーなども御利用頂き、店頭表示をして頂くこともお願いいたします。都のステッカーはホームページからダウンロードできるようにします。ぜひご活用ください。その他、受動喫煙防止に関する東京都の取組みはホームページに公開されていきますので、今後の店作りの参考にして下さい。
∇東京都:受動喫煙防止の情報サイト
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/kenkou/kenko_zukuri/tk_jouhou/j_kitsuen/index.html