売れなくても利益が出せる「串カツ田中」の経営学
—店舗数が増えて、上場もできて原価率や人件費比率は変わるものですか。
貫 そうは変わらないです。週休二日制とかは、前からやっていたので、人件費もそんなに上がっていないですよ。人件費比率は30%ぐらい。営業利益率は、10〜20%くらいですね。
—それは強みですよね。
貫 僕らはコックレスなので、他社と比べて社員比率が少ないんです。アルバイトで運営できるようになったら、人件費は、固定費じゃなくなるんですよ。売上が悪い店は悪い店なりの人員配置をすれば、赤字にはならない。強い経営というのは、売れる店じゃなくて、売れなくても利益が出る店だと思うんです。人件費、原価、じゃぶじゃぶとかやっている店は本当に危ないと思います。2回転でも赤字、3回転目でやっと利益出るというのは危ない。それで原価削るか、人件費削るかしたら、そのビジネスモデルは成り立たなくなってしまう。僕は極力赤字展開していかないというのが、強い店をやれる基本だと思います。
-127店舗をやっていて、売れない店の共通点はありますか。
貫 やはり立地が大きいですね。もちろん経営やサービスもありますけどね。売れる立地は、マーケットもあるし、平日、土日の差があまりない場所ですね。住宅街だと土日がめちゃくちゃ売れる。世田谷店が7月で500万弱売れますね。常連比率がとても高いですね。
ファミリーも通う住宅街の“ネオ大衆酒場”
—そういう意味で、私は、「串カツ田中」は串カツ屋とみせて、実は大衆酒場と言っているんですが、それについてどうお考えですか。
田中 串カツ大衆酒場、串カツ居酒屋だと思います。大阪の串カツ屋といわれるところよりはうちはメニューが多いんです。
貫 大衆酒場は、ファミリーが来にくいと思います。
—新しいタイプの大衆酒場ですね。“チンチロリン”などのエンターテイメント要素の強化は。
貫 お子さんが多いので、“ガチャガチャ”とか。(笑)お子さんを大事にしたいというのが、僕らの中長期計画にありますね。
「串カツ田中」と「鳥貴族」の出店戦略
—一方で、「鳥貴族」は増収増益で順調ですね。「串カツ田中」と「鳥貴族」は業態も似ていますよね。参考にした部分はありますか。
貫 そうですね。それはすごい参考にしてきてます。いい会社だなって思います。ブランド愛も強くて。
—そうですね。カムレード方式でフランチャイズ展開をしていて結束も固い。
貫 たしかにそうですね。でも、うちじゃプレミアムモルツ中ジョッキを280円では出せないですね。(笑)自分らの実現不可能なことをやっているのですごいと思います。
—あとは出店戦略も違いますよね。
貫 そうですね。鳥貴族は空中階にも出店できるし、乗降客数10万くらい規模のエリアで2店舗くらい出せるんです。僕らはそれはできない。10万だと僕らはカニバリます。出店もできれば1階がいい。ただ、うちの強みというと、パッケージが15坪からと小さいので、世田谷店みたいなところにも出せるんです。鳥貴族は、パッケージが50坪くらいなので住宅街には難しい。僕らは尾山台とか小さいところでも出せるというのがうちの強みですね。
飲食企業が上場するということ
—ところで、飲食企業が上場するとよく言われるのは、お客さんよりも株主の方を向いてしまう、ということ。原価率を下げたりして、株主が優先しちゃって、その結果、企業が劣化して、リタイヤしちゃうというケースもあります。そういった状況についてどうお考えですか。
貫 上場企業の一流の社長じゃないので、よく分かってないんですけど。(笑)僕らは、単一業態なのでブランド愛が強い。そのブランドを守ることが、長期的に株主さんを守ることに繋がると思ってます。短期的に利益をとろうというのは、それはちがうと反対しています。目先の利益のためや、うちの会社のためだけやったら、そういう取り組みはやめようと。お客さんのためになるんやったらやろうと、そういう基準でやっています。
—飲食の上場企業についてですが、売上が落ち込んで店舗展開を首都圏でできなくなって地方のFCとカニバリズムが起こって、FCオーナーからの不満が噴出しているという状況もある。これについてはどういうご意見ですか。
貫 売上や利益が落ちるということは何か原因があると思います。ただ経営していく中で、良い時も悪い時もあると思うんです。一時的に業績が落ちたら、その会社の人たちがなんとか立て直そうと必死で取り組んでいると思うんですよね。そういうときは辛いだろうし、本人が一番理解して、本人が一番頑張っていると思うので、第三者が言うことじゃないですね。なので、批判も称賛もする気はありません。自分らもいずれそうなる可能性があるので、そのときのためにしっかりと自分らも奢ることなくやっていかないといけないな、と思わしてくれる出来事の一つですね。
串カツ田中が目指すもの
貫 これからも串カツ田中というブランド自体は、粛々と伸びていこうと思っています。社員に対しては、いろんな気づきがあってほしいというのがあるので、“串カツ田中マン”としてより深く考えるようになってほしいですね。自分自身が企業理念に洗脳されているというか、社長自身が、理念の実現に向かいたいと本当に思っているので、それをみんなが共有できたらいいなと思っています。
—串カツ田中の理念とは。
貫 「串カツ田中の串カツで、一人でも多くの笑顔を生むことにより、社会貢献する」。一人でも多くというのは、お客さん、スタッフ、取引業者さん、今度は株主さんということになってくると思うんですが、それを実現していきたいです。
—田中さんとしてはどういうブランドに育てていきたいですか。
田中 店舗が増えても1店舗目と変わらず、“田中ブランド”を大切にしながら、1店舗でも1000店舗でも同じように楽しんでいただけるよう広げていきたいです。
■田中洋江氏プロフィール
同社取締役副社長。1999年、大手広告代理店から貫氏の個人事業の飲食店に入る。同氏の父・田中勇吉氏の秘伝のレシピをもとに「串カツ田中」を貫氏とともにつくりあげてきた。現在は副社長とともに企画部長も務める。
(インタビュアー 佐藤こうぞう、文・構成 望月実香子)