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インタビュー

飲食企業が上場する意義とは—。
マザーズ上場を果たした「串カツ田中」貫啓二社長・田中洋江副社長を独占インタビュー

2016年9月14日、串カツ田中(東京都品川区、貫啓二氏)が東証マザーズ上場を果たした。大阪名物“串カツ”を打ち出す同社は、1号店出店から7年で店舗数は全国に127店舗を誇る。田中洋江副社長の父・田中勇吉氏が生み出した伝統の味を大切に守りながら、FC展開で急速に店舗数を伸ばしてきた。一見すると相反する“伝統の味”と“多店舗展開”。その矛盾を同社は、門外不出のレシピ、サラリーマンからファミリー層にまでうける新しい居酒屋のスタイル、巧みなマニュアル化など工夫を重ねて克服してきた。繁盛店をいくつも経営するオーナーたちもFC加盟するほど飲食店経営の飲食店経営の極意が詰まった「串カツ田中」。
上場を果たした後の、貫社長、田中副社長の心境、飲食企業が上場する意義、そして同社の今後の戦略をうかがった。


“トントン拍子”の上場とその先にあるプレッシャー

dscf6366-1—まず、率直に上場した心境を貫さん、田中さんお一人ずつ聞かせてください。

貫啓二社長(以下、貫) みなさんによく聞かれるんですが、本当にプレッシャーしかない。責任感とプレッシャーですね。

—東証の鐘をついた感想は。

 やっぱり気分はいいですね。達成感があって。上場した時、東証の電光掲示板に「串カツ田中」の文字だけが流れるんですよ。それをエスカレーター降りる時に見るのが、感慨深かったですね。鐘ならすのも良かったですけどね。思った以上に音が大きくて。(笑)

—田中さんは控えめでしたね。

田中洋江副社長(以下、田中) 私の音だけ、周りの人から「なんか違ったね」って言われたんです。叩く位置が低すぎて。(笑)

—どういう気持ちでしたか。

dscf6369田中 上場まではあっという間でした。みなさんにおめでとうございますっていってもらえるんですけど、スタッフがもっと喜びを感じていると思います。鐘もそうですけど、その前に大和証券の28階のトレーディングルームで、社員300名くらいの方々が「おめでとうございます」ってやってくれたのはすごく感動しましたね。

 なかなか見学できるところじゃないんですが、みなさん揃って祝っていただいて。そういうシーンはやはり感動しますね。あと、投資家まわりでは、40社くらいまわったんかな。最初は、機関投資家が5社くらい買ってくれたらいいじゃないか、っていう感じだったんです。じゃ、10社目標にプレゼンしていこうって決めてたんですが、いざやってみると、目標を大幅に上回る機関投資家が買ってくれました。公募価格も上出来くらいの公募価格で評価してもらったり、そういう一場面一場面ではすごくうれしかったですね。ですが、「よっしゃ!上場したった、うしし」みたいなのはないですね。(笑)

—今回調達できたのは10億でしたね。

 そうですね。最初の公募の時点で8億くらい、オーバーアロットメントに伴う第三者割当と合わせて10億くらいの調達になりますね。

—田中さんは上場についてはどうお考えですか。

田中 実ははじめはFCも反対したぐらいなんです。会社をそんな規模に持っていこうなんて全く考えてなかったですから。貫の考えで上場目指すんだったら、もちろん一緒にやっていくしかないので、進んでいこうと。

 僕が攻め派で、田中は守り派なんです。僕は、止まったら落ちる恐怖があるから攻めてるだけで、田中はほんまにひっそりと会社を守りたいんですよ。

—規模を大きくすることによって、店としての質を落としたくないということですか。

田中 そうですね。家の味を守って、串カツ田中だけの社員でやっているのに、他社が入ってきて、軽く扱われるのが嫌だったんです。

—田中さんのお父様がこの事業の発端でしたよね。店舗数を伸ばすのもいいが、味を守っていかなければいけないということですね。

田中 その仕組みを作っていかなあかんと思いますね。

 

上場を決めた理由、「半永久的に続く店づくり」

—ところで、いつ頃から上場を考えて、アクションを起こされたんでしょうか。

 考えはじめたのは2年前くらいですね。

—2014年。なにかきっかけがあったんですか。

 おぼろげに2年くらい前に思って、上場するって決めたのは1年半前。外部から管理部の取締役とかも入れて、そこからはトントン拍子でしたね。

—なぜ上場しようと決めたんですか。

 僕ら100店舗を目指す、とか具体的な数字はなかったんです。半永久的に続けていく会社なんだろうっていうイメージはあったんですが。半永久って言ったらおかしいですけど、100店舗で終わらないな、と。ずっと続けていくんだったら、ちゃんとした会社にして、労働環境も整えて、会社の与信も高めていく必要があるなと思ったんです。100店舗で終わるって決めてたんやったら、上場する必要はなかったと思います。100店舗にとどまらず、ずっと会社として続けていきたいんです。上場する時に、数値化した方がいいと言われたので、1000店舗って掲げましたけど、それはできると思っています。当分止まる予定はないので、そう考えるとやっぱり上場は会社のため、というのが大きいですね。

—1000店舗を新たに掲げてらっしゃいますが、数字というよりは、この業態を半永久的に続けていくことを目指したいということですね。

 そうですね。僕らの目的は、串カツを焼鳥に匹敵する食文化にしたいというのがあります。そうなろうと思ったら、今のお子さんが大人になって自分らのお金で飲みにくるようになって、またその10年後には家族を連れてくるようになって、やっと文化になると思うので、30年くらいの長期計画です。それができたら、会社として強い会社、強いブランドになっていると思います。

 

上場を目指したからこそ

dscf6381—具体的に上場に向けてどういう努力をしてきたんでしょうか。これから上場を目指しているオーナーさんたちに参考になればと。上場までのステップは。

 ステップと言えばいっぱいあるんですが、例えば、法律をちゃんと守るとか。よくみなさんがおっしゃるのは、「上場経費ってどれくらいかかるの?」っていうことだと思うんです。いろんなことやっぱり聞かれるんですよ。「どんな人をいれて、給料どれくらい払ってんの?」とか。僕もそこはたしかに気にしていたんです。でも、上場目指さずに、今の127店舗になっていたらうちの会社はヤバかったですね。上場に基準を合わせていたから、100をすーっと抜けていけたんです。上場をしたこと、目指したことは、会社にとって必要なことをやっただけ。会社がある程度の規模になってきたら、監査法人も絶対入れていた方がいいと思うんです。大企業になっていこうと思うならば、必要なことばかりなんですよね。

—上場すると企業が社会的存在になりますよね。

 そうですね。あとは、上場するとなると「御社はどういう会社ですか」「強み・弱みはなんですか」ということを嫌というほど聞かれるんです。そうするとより深く考えるようになりましたね。自分の会社があるべき姿とかを考えさせられる機会が増えました。

—上場を決めたことによって、経営者として鍛えられたということですね。
上場を決めた1年半前は、店舗数と全体の売上はどれくらいでしたか。

 店舗数で70店舗くらいじゃないですかね。売上は13億とかそれぐらいだったと思います。

—その規模で上場を考えるのはある意味早いですよね。マザーズ市場は、上場基準も緩和されていますからね。

 基準は緩和されてますが、上場審査は、以前よりもめっちゃ厳しくなってますよ。

—店を増やして、この会社をずっと続けていこうと考える中で、上場してちゃんとした会社にしようと。

 飲食で働くならうちがいい、と思ってほしいんです。教育もよりダイナミックにできるようになりますし。一人でも多くのお客さんを笑顔にしようと思ったら、店舗もいる。スタッフの笑顔を作っていこうと思ったら、成長の機会を与えないといけない。ということは会社を大きくしていかないといけないという判断です。

 

強みは“串カツ田中”単一業態のブランド力

_________400x400—上場への過程で、証券会社や監査法人から串カツ田中の強みや弱みを聞かれたとおっしゃいましたが、そこを具体的にお聞かせください。

 強みは、やっぱり田中の味やレシピ、事業としての展開性、様々なエリアに適用しやすい、ファミリー客が多くて客層が厚い、単一業態なので数値管理やマニュアル化しやすい、というのが強みですね。弱みでいうと、人材の採用と教育が大変というところですね。

—上場したことによって、弱みだった採用や教育投資しやすくなったのでは。

 いろんなことを明確化するということは、普通の会社はちゃんとやっているかもしれないですけど、僕らはやってなかったんですよね。気づいたらこんな結果になっていた、という感じだったんです。予実管理をしっかりして、それに追いつけるように採用をして、教育をしてっていうのをちゃんとロジックで考えるとこまではできていなかった。上場するということを決めたからこそ、社内をあらためて見つめ直すことができたんです。だから、上場を目指してなかったら本業がヤバかったと思います。(笑)

—今は人材育成面ではどういう取り組みをされていますか。

 評価制度をしっかりつけるというのはやっています。注意してほしい部分には、多少インセンティブを設けたりとか。仕組みで大事なことはこれが大事ときづいてほしい。研修の制度を高めています。個人プレーよりはチームプレーです。

 

串カツ田中を急成長させたフランチャイズ戦略

dscf6373—急激に店舗数を伸ばしたことによって味のブレは出ていないんですか。

田中 以前よりもPB商品をつくっていて、衛生的にもいいですし、味もブレなくいけるのでそれは心配はしていないです。

—今後も店が増えても、店舗力が落ちることはない。

田中 商品に関してはないですね。

 サービスに関しては、店長の力量如何ですが。そこをなんとか改善する方法を考えていく必要がありますね。

—フランチャイズについていうと、串カツ田中が伸びたのは、FCオーナーさんたちの力があると思いますが、それはどうやって伸ばしてきたんですか。今、社数はどれくらいですか。

 今、約40社で、80店舗くらいですね。

—基準はありますか。社数を増やしたいとかは。

 社数については特にないです。店舗を増やしたいとは思っていますが。できれば、既存オーナーの方が増やしていってくれるのが一番いいんですけど、FCは、企業力の差がすごいあるんですよね。個人経営からファイブさんみたいな飲食企業まで本当にまちまち。ファイブさんはこの前7店舗目を出してもらいました。やっぱり企業力が強いんですよね。個人経営だと増えていかない。なので、FCは飲食企業とやっていきたいですね。

—田中さんはフランチャイズが広がることに対しての不安は抱いてらっしゃったということですが、現状のオーナーさんたちとの関係性は。

田中 基準を飲食企業と決めているので、そこでの不安はないですね。

—これから店舗数を伸ばしていくにあたっての戦略や考えるリスクは。

 やっぱり教育ですね。大きくなってくると伝達が難しくなってきていしまう。伝え方を上手にしていかないといけないな、というのはありますね。店舗数が増えると食中毒のリスクもどんどん増えていきますからね。今のところないですが。

—商品力はどうですか。

田中 昔は私の考えの中で、チェーン店になりたくないという思いが強くて、“個店”という基準にとらわれてメニューづくりをしてきたところがありました。今はもう少し柔軟にメニューづくりをできるようになりました。

 イメージ的には、その店しか知らずに来ていたら、チェーン店と思われないようなメニューづくりをしている。僕自身もしょっちゅうお店行くんです。だから、自分が週一でいって飽きるのはいやなんです。常連さんの気持ちに一番敏感ですね。自分がいったときに食べたいと思う物があったらいいなと。

—串以外のサイドメニューもけっこう変わっていますよね。

 大幅には変わっていないですけどね。サイドメニューやドリンクもちょこちょこ入れ替えてます。

—客単価も変わっていないですか。2300〜2400円

 そうですね。

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