インタビュー

仙台から東京へー。新会社を設立し、新たなスタートを切ったCLASSIC INC.代表取締役 萱場俊克氏インタビュー

地元・仙台、首都・東京。この異なる二つの土地で20年以上にわたり、飲食人として挑戦的な店を仕掛け、ヒットさせてきた萱場俊克氏。2007年、恵比寿「ALMA」出店を皮切りに、東京へ進出。現場で陣頭指揮をとり、8店舗をそれぞれ成功に導いてきた。本物志向の料理やドリンク、細部まで作り込まれたハイセンスな空間に、仙台と変わらず東京でも毎夜、店に活気を生み出してきた。そんな輝かしい功績を誇っていた萱場氏が、2016年6月1日、CLASSIC INC.を設立し、満を持して独立を果たした。東京で開ける萱場俊克、第二幕——。新会社に込められた想いと夢、そして、これからをうかがった。


東京、新たな挑戦の地

—まずは、独立された経緯を教えていただけますか。

そうですね。前の会社の創業時から、お店を作ってはまた作って、とずっと続けてきました。9年前に東京・恵比寿に「ALMA」を初出店して、会社として全体の売上が20億円までいったんですよね。オーナーは投資家的な視点で、僕が現場で二人三脚でやってきました。会社が20期目に入り、突然オーナーから東京と仙台で分社化すると、一方的な話がありました。多くは語れませんが、いろいろあって僕が東京の8店舗すべてを、社内M&Aという形で買い取ることになりました。仙台、東京の現場でずっと一緒にやってきた幹部の子たちも、うちに来たいと言ってくれたんですが、家も家族も仙台で、40歳を過ぎてお給料もそれなりに高い。そう言ってくれるのは幸せなことなんですが、かなり悩みましたね。経営者として考えると人件費がかなり重くなってしまう。それでも彼らが東京で一緒に勝負したいと言ってくれたので、彼らと一緒にスタートしようと決めました。そこから銀行と交渉をはじめて、東京の既存店を買い取って新会社設立にいたりました。

—幹部全員が萱場さんのところに来たとなると、大変ですね。

最初は新会社設立をやめようかとも思ったんですけど、自分だけ逃げる訳にもいかず。ただ想像を絶するほどの金額だったので、いろいろ考えました上での決断です。最初A銀行さんとB銀行さんの2行と交渉をはじめたんですが、A銀行さんに財務と人材を見てもらったら、奇跡的に満額で借り入れができたんです。それもちょうどマイナス金利のタイミングで、1パーセント以下で借り入れができました。キャッシュフローもプラスでスタート。現在、既存店は順調に推移していますね。

 

好調な既存東京8店舗

mv_shinagawa01—既存店は、現在8店舗ですね。

そうですね。出店順にいくと、恵比寿「ALMA」、銀座「VAPEUR」、品川エキナカの「TAMEALS」、中目黒「TAVERN」、大手町「TAMEALS」、日本橋COREDOの「IL BARCARO ALMA」、池袋「TAMEALS」、恵比寿「夜木」ですね。

—売上は年間どれくらいですか。

全部で12億円弱くらいですね。

—品川の「TAMEALS」はすごいですね。一番売上げているのでは。

そうですね。あそこが一番ですね。

—坪数は。

35坪くらいですね。品川「TAMEALS」で、タップサーバー入れて、初めてエキナカでクラフトビールを出すんです。これから詰めていきますが、8タップほどで導入を考えています。

—エキナカクラフト。いいですね。

メーカーさんによると、品川の「TAMEALS」が改札内で日本一ビールを売るお店らしいです。

 

「ハイクラスのカジュアル」、新会社「CLASSIC INC.」に込めた想い

logo—すごいですね。
ところで、CLASSIC INC.という社名に込めた思いは。

1年ほど前から美容室も経営しているんですが、そこのスタッフがお客さんから聞いた話からいただいたんです。その話を聞いて初めて知ったのですが、「クラシック」って、「クラシック音楽」とか、「古くさい」とか「伝統的」みたいな意味と思っていたんです。ところが、本質的には「一流」とか「本物」とかを意味する言葉で、そういうものだからこそまわりが評価して、最終的に「伝統」になっていく、という意味らしいんです。それを聞いて、それこそ僕らが目指したいところだなって。すぐにCLASSIC INC.という名前でスタートしようと決めました。

—CLASSIC INC.としてのこれからの戦略は。

そうですね。まずは8店舗のブラッシュアップ。掲げているのは「ハイクラスのカジュアル」です。僕らは独学でやってきたところもあるので、あらためて基本から学び直そうということです。例えば、クラフトビールの導入。ビールって、機材さえあれば誰でも注げて、どこでも飲める。そういうシンプルなもの、誰もが飲むものこそ、いかにおいしくするか、を大切にしたいんです。しっかり知識を積んで、機材を変えたり、グラスに水の膜をつけたりとか。そういうところを基本からしっかり学び直して、ブラッシュアップしていきたいですね。有楽町にあるグランメゾン「アピシウス」で、一週間うちの幹部を研修してもらうなどして、取り組んでいるところです。「ハイクラスのカジュアル」、基本から「一流」を学ぶためです。

—グランメゾンのサービスを吸収しようということですね。

サービスも料理もすべてです。それをそのままうちのお店で実践するというわけではありません。グランメゾンのやり方があって、うちはうちのやり方があります。ご協力いただいているシェフソムリエの方は、グランメゾンで30年以上のキャリアを持つ方で「僕はグランメゾンのサービスしかできないんです」とおっしゃるんです。そういう一流の“サービスの在り方”というものを学んで、それをあえて街場でカジュアルに、肩肘はらずにやる。だけど、しっかり“ホンモノ”も知っていますよ、と。僕らも「いいものを出している」と胸を張って言えるためには、そういうところを勉強しなきゃいけない。
ほかにも、コーヒーの自家焙煎もはじめています。うちのスタッフに「コーヒーを自家焙煎したい」という子がいるんです。事務所の近くに僕がよく通っているコーヒーショップがあるんですが、そこに焙煎機が入っているんですよ。それで、そこのオーナーさんに「うちのスタッフが焙煎の勉強をしたいって言っているんです」と頼み込んで、研修費をお支払いして、一から焙煎を教えてもらいました。それからうちでも自家焙煎をはじめて、お店で商品として販売も少しずつですがはじめています。
将来的には、自分たちが扱うものは、自分たちで作っていくようにしていきたいと思っています。最近では、「手作り」や「クラフト」が当たり前になってきていますが、これって流行りでもなんでもなくて、もともと飲食店がやらなきゃいけない根本なんですよね。僕らも少しずつできることからはじめている最中です。

tameals_otemachi—そうですね。原点回帰ですね。

このあいだ行ったお店で、メニューに「自家製ソーセージ」とあったんです。いま、逆に言うと、ソーセージを“自家製”するのが当たり前になってきているじゃないですか。(笑) それでソーセージとパテドカンパーニュをいただいたんですが、あまりおいしくなくて。(笑)これからもっとこういった業態で、拡大していくとは思いますが、そうじゃなくて、「この一品をどこまでおいしく作れるか」というところを、うちの料理人に学んでもらいたいんです。「コム・ア・ラ・メゾン」というバスク料理のお店が赤坂にあるんですが、そこに行くと「もう一回最初からやらなきゃダメだな!」と、いつも思わされるんです。「勝てないなぁ」と。メニューは一年中変わらないんです。パテドカンパーニュがあって、フォアグラのテリーヌがあって、一品一品はシンプルなんですけど、全部本当においしい。シェフが毎年バスクに行って、現地の情報を入れて、素材をちゃんと見ているなと感じさせられるんです。

—生産者とのつながりはどうですか。

ありますよ。例えば、広島の有機栽培でレモンを育てている「ぽんぽこらんど」さん。前の会社にいるときに広島にいった際、知り合ったんですが、今ではうちで年間1トン以上は使わせてもらっています。レモンって熟すとけっこう甘いんですよ。ここのは皮もおいしくて、料理にも、レモンサワーにも使っています。輸入品だと、皮にワックスとかついていて、洗ってもなかなか落ちないじゃないですか。だったら、国産のものを使おうと。しかも、意外と安いんです。ほかにライムも栽培されているんですが、小さいんですけど、果汁がすごいんです。変な外国産のものって、たまに箱を空けてみるとカサカサで1個200円とかする。そんなものよりも全然いいですね。そういういい食材はずっと探し続けていますね。

 

オープンな経営で、現場に経営者感覚を

—経営的な戦略はいかがですか。

経営的には、今までグレーだったところを100%ホワイトにしていこうと取り組んでいます。例えば、月に1回、店長会議があるんですが、そこで会社の口座にいくら入っているかや、キャッシュフロー、誰が何に領収書を使っているかなど、全部見せるようにしました。店長がスタッフを連れて飲みにいきたいとか、あそこの店を勉強のために見に行きたいとか、そういったことに関して、お伺いも何も必要ありません。ただ各店舗に利益予算、売上予算があって、そこが減ってしまう。だから、自分で今月はこれくらい使っていいと決めてもらっています。小口現金も会社から出すのをやめました。まず自腹で払ってもらって、月末締めて、2〜3日後に会社から振り込むようにしています。そうなると、買う時に、これが本当に必要な物かということを考えはじめるんですよ。つまり、店長が経営者感覚になるんです。
ひとつだけホワイトにして怖いのが、赤字になった時の銀行の貸しはがしくらいですね。(笑)それ以外は、いいことしかないなって思っているんですよ。みんなの経営者意識が高くなってくると、どうやってお金をかけずにお客さんにきてもらうかを考え始める。例えば、サービス、おもてなしってお金のかからないものじゃないですか。そこに対して、日々、暑い時はどうしよう、寒い時はどうしようとか。そういうことを考えて工夫するようになるんです。

alma_ilbacaro—会社として業績も上がっているんですか。

運営がはじまったのが7月1日からですが、今のところ順調です。予算も100%超でした。8月も今のところは100%を超えています。室町COREDOでアクアリウムイベントをやっていて、そこが特にグッと伸びているのと、他の店舗がちゃんと予算とれているっていうのが大きいですね。

—目標の利益率は。

店ごとに違いますね。業態も違いますし。今回買い取った借金があるので、それをどう分けるかというのを、今年12月まではぐちゃぐちゃとしています。できる限りとことんリアルに現場に伝えるということを今やっている最中ですね。

—これから新業態、新店舗の計画は。

直近だと、10月6日に恵比寿ガーデンプレイスにオープンする横丁「BRICK END」に出店します。トランジットさんがプロデュースに入って、5店舗出るんですが、うちはミュージックバーをやります。店名は「berkana(ベルカナ)」。古代ルーン文字に「berkana」というマークがあって、「再生と成長」という意味なんです。
このミュージックバーには、いろいろやりたいことを詰め込みました。カウンターは11mくらい、アナログのレコードと、クラフトビールのサーバーも入れました。新店は必ずクラフトビールを入れていこうと思っています。あとは、グランドピアノを模したテーブルに、電子ピアノを入れ込んで、演奏もできるように。たっぷりとった大きな窓からは、目の前を走る山手線が眺められて、雰囲気がなかなかいいんですよ。恵比寿ガーデンプレイスも含めて、このあたりは9000人近く就労者がいるらしいんですよね。でも、高級店が多くて、みんな目黒とか麻布十番とかいっちゃうんです。そこで、サッポロ(サッポロ不動産開発=恵比寿ガーデンプレイス事業主)さんは、あのあたりをもう一度“街”にしなきゃいかん、とかなり気合いをいれているみたいです。数年かけてどんどん変えていくそうです。
会社としての今後の計画は、どんどん大きくなっていくというよりは、スタッフの子たちがやりたいことを実現するために独立しなくても、会社にいながら自分の夢を実現できて、お金ももらえるという体制にできたらと思っています。個人ではできない、チームだからできる、そういう形をどんどん作っていきたいですね。例えば、「ミシュランの星をとりたい」と言っている料理人もいます。ハードルはすごく高いですが、1回きりの人生なので、みんなやりたいことにチャレンジしてほしいんですよ。ただ、あくまでビジネスなので、数字の計算もしながら両方みていかなきゃならない。だから、経営者意識が必要なんです。

—店舗展開ありきというよりは、人が育ったら、店を増やしていくイメージですね。

そうですね。一時期、TAMEALSのような業態を多店舗展開、チェーン展開していくというふうに思っていましたが、今はまったくそういうことは考えなくなりました。それはただの経営者の自己満足でしかなかったと気づいたんです。現場の人間は、本当はどう思っていたんだろう、というのを聞きながら、その情報をもとにみんなでどうしようか、って考えるようにしています。デベロッパーさんの話は、やるやらないを抜きにして、すべて話を聞いてみようと思っています。チャレンジは、3年とか5年に一回になると思います。それよりも15坪とかで街場に出店して、もっともっと原点回帰じゃないですけど、僕たちの基本に戻ってやっていきたいですね。

—3年後、5年後、10年後、どんなイメージですか。

そうですね。今は、このCLASSIC INC.という会社がどうあるべきかを模索しているところなんです。だから、僕の役目は経営で、僕以外全員取締役は現場なんですよ。会計から何から全部僕が一人でやっていて、税理士事務所がついてるのでなんとかできるんですけど。みんなにもう一回チャレンジをしてもらえたらいいなって思っています。
今、取締役は4人、社長の僕を入れて5人なんですが、取締役で誓約書を作ったんです。
例えば、全取締役が年収1000万円以上超えなかった場合は、僕は一切昇給できない。退職金は均等に分配する。あとは、金銭的に変なことをしたらダメだよっていう基本的なところ。それと、2019年までに、全員がソムリエの資格をとる。うちはマネージャーシェフ、シニアマネージャーシェフ、次がエグゼクティブと3段階に分けたんですが、エグゼクティブでもソムリエ持ってないん子もいるので、彼らも3年後までにはとってもらうと決めました。最後に、何で自分が一番になるのか、というのを書いてもらっています。

img_9137-2—血判状みたいですね。(笑)

僕たちは、良くも悪くも仲良しなんですよ。ずっと一緒に20年やってきた子たちなので、なあなあにならないようするためです。仙台の頃から変えた業者さんもあるんですが、それだけ古いお付き合いなので、どこかなあなあの関係になっていたんですよね。商売の根本に「三方よし」があるじゃないですか。でも、お互い甘えがあったら全然「三方よし」にならない。長く付き合っているからではなくて、そこはいつでも勝負なんですよ。来年、お金のところでチャレンジするのは、店側の権限を強化して利益も会社と店で分け合う体制にしようと取り組んでいます。例えば、1000万円と設定した売上予算をクリアして、1300万の売上げた店があったとします。予算よりも多く出た300万の利益は、会社と店舗で折半する。半分は会社がもらって、残りは店長に全部渡す。それを店長がどう自分のお店で分配するかというのは、自分で決めてもらうようにしようと思っています。自分が全部もらって、スタッフがついてくるんだったらそれでもいいと思います。要は、お店を一つの会社としてとにかく考えてほしい。とにかく権限を現場に移譲するという形をとっています。

 

新事業へ意欲。コンサル・ケータリング「CLASSIC & SESSIONS INC.」

—チャリティにも積極的に取り組んでらっしゃるそうですね。

お店の一日の売上を全額寄付するというチャリティイベントは、前の会社からもう20年ほどやっています。会社を設立したばかりなので今年はお休みしていますが、教育機関への寄付が多いですね。南アフリカやアジアで移動図書館を作ったり、農業支援から学校給食を充実させたり、現在は、そんな活動をされているNPO団体TAAA(アジア・アフリカと共に歩む会)を通じて寄付しています。

—すばらしい活動ですね。ほかに取り組んでいくことはありますか。

9月28日に新会社「CLASSIC & SESSIONS INC.」を設立して、飲食店へのコンサルティングとケータリングの事業もはじめます。コンサルティングというと大げさですが、飲食店の方々のちょっとした困りごとから全体的なプロデュースまで、お店や事務所で相談に乗れたらと思っています。主軸はケータリング事業。ファッションブランドや百貨店の催事、音楽レーベルのイベントなどで、今お話をいただいています。そこでお出しした食事を気に入ってもらえれば、またお店に来てもらえる。そんな循環が生まれるようにつくっていきたいですね。

(聞き手/佐藤こうぞう、文・構成/望月みかこ)

img_9146-2■萱場俊克氏プロフィール
1972年仙台生まれ。CLASSIC INC.代表取締役。18歳から飲食一筋。仙台の飲食企業で店舗開発、新店舗店長、常務、代表取締役社長までを歴任し、仙台の飲食シーンを常に牽引してきた。07年7月恵比寿に東京1号店「ALMA(アルマ)」をオープン、08年5月には銀座に2号店「VAPEUR(ヴァプール)」をオープン、いずれも大ヒットさせる。その後も、東京で着実に出店を重ね現在8店舗を経営する。同氏の店作りは、常に地域密着型で、リピーターづくりに定評がある。16年7月、CLASSIC INC.設立。同年9月、CLASSIC & SESSIONS INC.設立。飲食事業のほかに代官山ヘアサロン「CHAUSSE-PIED EN LAITON」の経営も手がける。

インタビュー一覧トップへ

Uber Eats レストランパートナー募集