−−とんかつ坂井精肉店の業態開発のきっかけを教えてください。
前回の日経MJ 掲載、外食企業ランキングを見たときに、どこに喧嘩を売ろうかなって考えたんです。ハンバーガーは無理ですし、牛丼、回転すしも無理ですし、負ける喧嘩はしたくないですから。いい勝負ができる土壌を探した時に目に留まったのが”とんかつ”。相手に不足は無い、魅力的なフィールドだと思ったんです。アークランドさんの”かつや”はある程度ディスカウンターでやっていますけど、とんかつってハンバーガー業界でいうと、モスバーガーやフレッシュネスがトップにいるような、グリーンハウスさんの”さぼてん”さんや”和幸”さん、アッパーな価格帯がトップにいるんですよね。じゃあ、マクドナルドのような存在、とんかつ業界のディスカウンターになれば、アッパーな店で400店舗までいけるのであれば、それ以上も狙えるのではないかと考えました。ここ1年はずっと開発をしていて、毎日とんかつを食べ続けています。
−−アルコール売上げ比率20%以下の業態、というのも基準になっているようですが?
アルコール比率の高い店舗ですと、店舗数に限界がありますよね。飲酒運転の罰則も厳しいですし、郊外はもう出店は難しいと思いました。都心部でまだいい案件があれば「てけてけ」の展開もありえるのですが、今は若い人もアルコールをあまり飲まなくなっている、今後の見通しを考えたときに、アルコールを扱わない業態の展開が急務だと考えました。
−−利益率はアルコールのほうがとれるのでは?
利幅が獲れる分、初期投資では居酒屋のほうがコストがかかるんです。都心部だと保証金でさえ1000 万〜1500万いってしまいますが、我々とんかつの郊外の店舗では300万円を超える金額は払ったことがないです。1店舗単体でPLを見たときの数字は、今の段階ではやはり居酒屋の方が高いです。でも、キャッシュフローベースで見たときに、とんかつは1店舗1000万から1500万で出店できますが、居酒屋は5000万〜6000万かかるのであまり変わりません。売上に関しては居酒屋よりも立ちやすい、という手ごたえは感じています。
−−とんかつ1号店の業績はいかがですか?
八千代店は30 坪で月商800万なのですが、居酒屋で30坪800万売るというのは、ちょっと大変だと思うんですね。月坪20万後半で、客単価700円。来店客数は1日 400〜500人です。イオンの担当者にも月商500万売ってくれれば嬉しいといわれていたので、これは予想以上の数字で自信につながりました。SCは初出店で、自分たちでも500万いけばいいかなと思っていたので、フタを開けてみればびっくりですね。居酒屋のようなオープン景気だけではないと思いたいです。
−−1号店、SC内でまずは成功を収められたわけですね。
うちがレストラン街の中で一番(客単価が)安い業態なんです。向かいが弊社と同じ神楽坂に本社を構える外食の大先輩、大戸屋さんなのですが、大戸屋さんより50 円〜100円安い価格設定です。我々が出店するまで、レストラン街で月坪あたり一番売っていたのが大戸屋さんなんですね。なので、大戸屋さんに胸を借りるつもりで挑戦しています。大戸屋さんは約45坪64席なんですが、我々は30坪45席で、オープン初月は売上、客数ともに上回った結果を出せました。持ち帰りは1日約100件、とんかつの持ち帰り需要がこんなにあるのかと感じています。ただ、商業施設なので、土日に集客しやすく繁閑の差が激しいですね。
−−商品が低価格で提供できる理由は?
実は痩せ我慢しているんです(笑)。原価は40% 以上かけています。オペレーションも高速回転させたいので、意外に人件費もかかっています。Lは20%が理想なのですが、現状24〜25%は掛かっていますね。今後はカミサリー(セントラルキッチン)を作って、随時PBに変えていくようにしていきます。味噌カツの味噌も店舗で手作りしているのですが、次の柏店からPBにしたり。あとは肉を店舗で手切りしているのですが、カット済みで入手することで、店舗での人件費削減を考えています。肉のロスも出ませんし。まだまだマスのスケールメリットを享受できる状態ではないのですが、とんかつも全メニュー”ロース肉”に限定することで、大量に仕入れてディスカウントをお願いできる状態にはなってきています。我々はまだ仕入れルートが限られているので、これが10店舗20店舗になった状態で、どのくらい原価を抑えられるかが重要ですね。後々、アメリカから直接買い付けて自前の物流網で、というのが実現できたら良いですね。現状はアメリカのパッカー→商社→卸→仕入先 →我々ときているので、これが今後の課題ですね。課題は山積みです。
−−原価率引き下げ以外に課題や注力されている点はありますか?
今重視しているのは圧倒的な集客です。商品力を高めてオペレーションも向上させていきます。あとは、とことん提供スピードにこだわっています。提供は3 分以内です。他店さんでは揚げ置きしているところが多いですが、やはり厚みのある豚を熱々で美味しく提供したい、そう思って試作を重ね辿りついたのが2度揚げです。低温で揚げておいて一旦ホールディングしておいて、注文を受けた段階で仕上げに高温で揚げる。そうすることでとんかつをファストで提供できる。お客様が来たら来た分だけ、ファストで提供してどんどん回転させられる。しかもこのご時世、安かろう悪かろうではなく、グレードが高くて安い商品を目指しました。味を追求して辿り着いたのですが、それが結果、スピード提供にもつながりました。
−−なるほど、圧倒的な商品力もウリですね?
豚肉は1 人前120gですが、実際に現場では厚切りがウリなので140gくらいになってしまいます。その分、お得感は十分だと思います。考えるのとやってみるのとでは大違いで、とんかつは意外にデリケートな商品なので、パン粉つけ段階だけできちんとパン粉が立っているかどうかや、手切りの肉なので、どうしても厚さにバラつきが出てしまう。最後の最後には勘に頼る業態なので、まだまだ改善点はあります。今は店舗でパン粉を作っているのですが、手間とコスト面で難しいので、今後満足いくクオリティのものが出てくれば、外注も考えています。
−−よく出る人気メニューは?
出数が多いのは”とんかつ定食”と”ソースかつ丼”が同率1位ですね。この2商品は、馬場店からは販売価格もさらに下げて、各40円ずつ安く提供します。今後八千代店も下げていきます。
−−業態にストーリー性を持たせることが外食の構造改革に必要だとおっしゃっていましたが?
恥ずかしい話ですが、最初は店名を”ブートン”や”とんかつブー”にしようと思っていたのです。でも、なんだかピンとこなくて。SC だと、一度ディベロッパーさんに気に入られたら一気に出店が可能になるので、ディベロッパーさんから気に入られる業態をやりたいと思っていました。その中で、業態にストーリー性がないと、SCウケはしないな、ともう一ひねりして店名を考えました。”坂井精肉店”には肉屋が運営している感、本物感を出しています。”丸亀製麺”と”はなまるうどん”とだとそこにある奥行きが違いますよね。
−−敵は外食産業だけではないとおっしゃっていましたが?
外食は、中食・内食にも対抗できる業態をつくらなければ勝ち残れません。
−−今後の展開を教えてください。
まずはとんかつの原価率を下げることに尽力して、今期は直営10 店舗展開の予定です。今は八千代、高田馬場、柏の3店舗ですが、直近で居抜きで3店舗話が決まりそうです。2号店の高田馬場店は1-2階で25坪35席で、売上は八千代店に届かないくらいですが、基本的にフードコートにはとんかつが入っていないので、3号店の柏のフードコートは絶対成功させたいです。メニューはどんぶり物を増やして、価格もフードコートバージョンで下げて提供します。
−−今後の目標を聞かせてください。
来期20店舗、来来期20店舗、3年で50店舗が目標です。会社としてもそのタイミングで上場を考えたいですね。直営だけで売上が40〜50億の規模になれば、上場にもっていきます。既存の業態では、居抜きで看板だけ変えればいいような物件があれば「てけてけ」も出店します。当社では、僭越ながら「外食一新」というキーワードを掲げています。圧倒的な商品力と、中食、内食にも対抗できる価格帯であること。投資回収は1年、長くても20ヶ月という社内基準による、ローリスクミドルリターンまたはハイリターンのビジネスモデルの実現。業態にストーリー性を持たせる、以上のことを実現させる業態「とんかつ坂井精肉店」をこれから益々ブラッシュアップし、展開していきます。
【企業データ】
会社名;ユナイテッド&コレクティブ株式会社
本社所在地;東京都新宿区神楽坂3-4-1 神楽坂山本ビル2F
設立年月日;2000年7月27日
社員数;約200名(PA含む)
資本金;5000万円
店舗数;14店舗
【坂井 英也(さかい ひでや)プロフィール】
昭和49年10月15日生まれ。
平成10年3月法政大学文学部哲学科卒業
同年スズキ株式会社入社。しかし飲食店経営の夢を捨てられず同年12月退社。退社後池袋を中心にダイニングバーを展開する「てしごとやグループ」へ入社。キッチンスタッフとして様々な店舗での業務、商品開発を通じ現場感覚を磨く。平成11年調理師免許取得。シダックスが運営する「志田企業塾」に平成11年 4月入塾、平成12年3月卒業。飲食店経営を理論と実地の両面から学ぶ。
平成12年7月「ユナイテッド&コレクティブ有限会社」を設立。高田馬場にて「魚・旬菜・お酒 心」を開店。平成14年6月株式会社へ組織変更。現在14店舗の飲食店を展開中。