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神泉に「旬おばんざいと発酵酒肴 ただ今」が開業。海外留学や勤務の経験を積んだ女将が、古民家を改装した昭和風情漂う都会の隠れ家から、改めて日本文化の魅力を発信する

4月1日、神泉に「旬おばんざいと発酵酒肴 ただ今」がオープンした。店主の日暮聡美氏は、海外留学や外国人旅行者が集うカフェでの勤務、「いざかや炎丸」のシンガポール店立ち上げなどをグローバルな環境を多く経験。その中で、改めて日本文化の奥深さに着眼し、魅力を伝える店の開業を決意した。店舗は、神泉の築30年の古民家を改装。旬の食材に発酵食材も合わせ、手間暇かけた和食が看板だ。IT化や効率化が加速しつつある昨今の飲食業界において、敢えて逆行とも言えるアナログで昭和風情の漂う店づくりで多くのお客を魅了している。

神泉駅から徒歩2分と駅チカ。木の設えと、青々と茂る植物のファサードは日暮氏の抱く「都会のオアシス的な雰囲気」というイメージを具現化した
長澤造園が設えた中庭。縁側も客席になっていて、常連の憩いの場になっているという
店内席は、カウンターとテーブルがあり。冬に稼働させるため、薪ストーブも設置済みだ
手前から「茄子の揚げ浸し」、「里芋とタコの旨煮」、「ピリ辛こんにゃく」、「牛すじ大根」。ほっとする素朴な家庭料理を中心に揃える
揚げ物でも人気の品である「エビカツ」は自家製のタルタルソースとポン酢を添える。「新しょうがの釜飯」などの釜飯は注文を受けてから炊き込みをするので、お客には早めの注文を促している
左から料理長の児玉凌氏と店主の日暮聡美氏。児玉氏は、もともと長澤造園で一緒に働いていた仲間。調理師学校卒業後、パティシエなど飲食経験もあるため店に加わった。お客のリクエストに応えて、記念日のケーキなども対応している

(取材=高橋 健太)


海外への留学や勤務経験を経て、日本文化への思い入れが加速。独立の夢を抱く

神泉駅の南口を出てすぐの、緩やかな坂道を上っていくと、木造りのファサードに白い暖簾がたなびく「旬おばんざいと発酵酒肴 ただ今」と出合う。築30年余りの中庭付きの古民家を、同店と軒を連ねる長澤造園(東京都渋谷区、代表取締役:長澤仁志氏)の協力のもと改装した和食店だ。店主の日暮聡美氏は「気軽に顔を出せる、おばあちゃんの家みたいな雰囲気を作りたくて」と、語る。

海外への興味を強く持っていた日暮氏は、大学卒業後、語学留学のために渡米。帰国後は、そこで培った英語のスキルを活かすべく、外国人旅行客が集うカフェ「TRAVEL CAFÉ 六本木店」で5年ほど働き、多くの人とコミュニケーションをとれる飲食店の魅力に開眼した。

その後、PrunZ(東京都葛飾区)が運営する「いざかや炎丸 本八幡」でアルバイトを開始。きっかけは、同店で食事をしていた際、偶然、代表の深見浩一氏と出会ったことだ。「深見社長のことは、居酒屋甲子園やS1サーバーグランプリで活躍されているのを見ていて、すごくリスペクトしていたんです。だから、お店で見かけたときに挨拶に行ったら、そのまま意気投合して『じゃあ、ウチで働こうぜ!』と声をかけられまして」と、日暮氏。しばらく経った後、シンガポールでの新店立ち上げのメンバーにも加わることとなり、現地へ渡って1年ほど働いた。当時を振り返り、日暮氏は「文化の違いなどがあって、現地の人々を相手に仕事をするのは本当に大変でしたが、だからこそ、すごく楽しくて。同時に、一度外に出たからこそ、改めて日本の良さもわかるようになりました」と、語る。この頃から、日暮氏は「日本文化を発信できる飲食店を作りたい」と思うようになった。

帰国後は、渋谷百軒店で独立開業した友人の店舗「ロブスター&シャンパン Ebizo」を手伝ったり、日本文化の知見を深めるため新橋演舞場で働いたりなど、飲食業だけに限らず、幅広い経験を積んでいく。そんな中、「ロブスター&シャンパン Ebizo」の常連だった長澤造園の代表、長澤仁志氏から声がかかり、造園業の手伝いを開始。「日本文化を発信する飲食店を作りたい」という夢を話すと、同社が所有する造園所の隣の空き家を利用した店づくりを提案される。築30年の昭和の風情が漂う中庭付きの民家は、「日本文化を発信したい」と考える日暮氏の理想にこれ以上ないほどぴったりの物件だった。同社の協力のもと、自らも壁塗りや調度品の調達を手掛け、約2ヶ月をかけて改装。中庭は造園業の本領を発揮し、古き良き日本庭園の趣に仕立てた。こうして4月1日、「旬おばんざいと発酵酒肴 ただ今」を開業した。

食材は毎日市場に足を運んで調達。手間暇を惜しまない、素朴な家庭料理が人気

料理は化学調味料を使わず、醬油、味噌といった発酵食品で滋味深い味わいの和食に仕上げているのがモットーだ。食材は毎日、日暮氏が足立市場へ足を運び、馴染みの店の人とコミュニケーションを取りながら目利きし仕入れている看板は、日替わりのおばんざいだ。取材日は「茄子の揚げ浸し」(600円)や「ピリ辛こんにゃく」(600円)、「里芋とタコの旨煮」(600円)といった素朴な家庭料理が中心。ほかにも、「パティシエの厚焼き玉子」(600円)、「自家製しめ鯖」(830円)といった軽い酒の肴や、「ホタテ貝柱の磯辺焼き」(580円)、「スルメイカの西京焼」(960円)といった焼き物、「エビカツ」(770円)、「ほくほくじゃが芋のフライ」(660円)といった揚げ物などが品書きに並ぶ。また、注文後に30分かけて釜で炊き上げる「新しょうがの釜飯」(980円)、「稲庭うどん」(550円)、「茶そば」(650円)といった〆の品も充実している。

ドリンクは、ビールや日本酒、焼酎、ワイン、酎ハイなどが一通り揃う。中でも、「手作り梅酒」(660円)や「手作り赤じそハイ」(660円)、「辛口ジンジャエール」(550円)などは、日暮氏による自家製のドリンクで、常連の人気も高い。また、ビールは「お客さま同士が注ぎあいをして、コミュニケーションが生まれるように」という日暮氏の考えから、あえてタップは置かずに瓶での提供。「クラシックラガー」、「赤星」、「スーパードライ」(各770円)の3種を用意している。そのほか、日本酒をお客や日暮氏の知人づたいに選んだり、ワインをお客のリクエストに応えて選んだりと、「人との縁」で酒のラインナップを決めている。

あえて非効率な手段でも、日本文化の魅力や人との交流を重視した店づくりを実践

現在、開業してから3ヶ月あまりが過ぎているが、少しずつ常連が定着しつつある。「店舗数を広げるとか、お客さまを急に増やすとか、そういう考えはないんです。ちゃんとお店でお顔を合わせたお客さまを大切にして、そのお客さまがまた別のお客さまを呼ぶ。そうして、少しずつ和が広がっていけばいいなと思っていて」と、日暮氏は語る。また、今後、自店舗の風情を活かして、昔ながらの日本文化を次世代に伝えていくことにも力を入れていくという。「中庭の縁側に座って線香花火ができたらと、遊びで品書きに『線香花火』を加えてみたら、親御さまに連れられて来た小さなお子さまのほとんどが線香花火をご存じないことにびっくりしたんです」と、日暮氏。「今、コロナ禍の影響もあって縁日みたいな日本のイベントを見る機会がなくなってきていて。でも、そういった文化がなくなっていったら寂しいじゃないですか。だから、昼の時間には近所の子どもたちを集めてかき氷をしてみたりとか、小さなイベントを開こうかなと思っていて」と話す。

IT化が進み、効率が求められる現代の日本社会で、敢えてアナログで、不便で、旧時代の風情を残す店づくりにこだわる日暮氏。「食材は、毎日わざわざ市場に行かなくても発注システムを使った方が早いですし、おばんざいやドリンクのシロップなどの仕込みも、手作りではなく既製品を活用した方が手間はかかりません。私のやり方は時代にそぐわないし、効率はよくないのかもしれない。それでも、海外での経験を通じて感じた日本の魅力、人と人のコミュニケーションの温かみを、後世まで伝えていこうと思っています」と、日暮氏の意志が込められている。

店舗データ

店名 旬おばんざいと発酵酒肴 ただ今
住所 東京都渋谷区神泉町15-6

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アクセス 京王井の頭線神泉駅から徒歩2分
電話 03-3461-6336
営業時間 17:00~23:00
定休日 不定休
坪数客数 15坪 15席
客単価 5000円
オープン日 2021年4月1日
関連リンク 旬おばんざいと発酵酒肴 ただ今(Instagram)
※店舗情報は取材当時の情報です。最新の情報は店舗にご確認ください。

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