P&Gから起業。消費者と距離が近い点に魅力を感じ、飲食業界へ
池尻大橋駅から徒歩3分ほど、商店が立ち並ぶ通りにオープンした「SiCX by FarEastCraft(シックス バイ ファーイーストクラフト)」。コンクリート壁に、富士山をあしらった店のロゴが映えるファサードが異彩を放つ。朝8時から夜25時まで営業し、夜にジンを楽しむ以外にも、モーニングからランチ、カフェ利用まで幅広いニーズを吸収し、オープンから間もないながらも地域住民を中心に話題となっている。
運営はFarEastCraft(東京都目黒区)。代表取締役の前田 亮氏は現在32歳。カナダのアルバータ州で高校を卒業後、関西学院大学へ進学、卒業後は日用消費財メーカーのP&Gに入社した。営業やマーケティングに10年ほど携わった後に退職し、2019年8月、日本発の酒を通じて日本の魅力を世界に発信すること、日本の酒造を復活させることをミッションにFarEastCraftを立ち上げた。「もともと消費者に近い仕事がしたいと考え、P&Gに入社しました。様々な経験を積み、たくさんのことを学びましたが、実際の業務では、消費者ではなく販売店の方とやりとりすることがほとんどでした。食に関わる事業なら、より消費者と近い距離で、リアクションをダイレクトに感じられる。加えて、母の実家が京都で割烹を営んでおり、おばんざいやお酒を楽しむ場は子どもの頃から身近な存在だったことから、この業界に挑戦しようと思ったんです」と前田氏。
“酒の総合商社”を目指し、蒸留事業と飲食店運営の両輪で展開
同社が目指すのは”酒の総合商社“だ。飲食店舗である「SiCX by FarEastCraft」の運営はあくまで事業のひとつで、その開業と同時にOEMでジンの蒸留もスタートさせ、こちらをメイン事業として考えている。「我々がチャレンジしたいのは、酒市場全体の拡大です。飲食店単体でスタートするよりも、酒造メーカーとしての機能を持ちながら店舗を運営することで、効率的に事業の規模拡大が測れると考えている」と話す。
ジンを選んだ理由については、「単純に、ジンが大好きなことが一番の理由。加えて、配合するボタニカルに幅も自由度が高く、地域でとれた新鮮な材料を使っているという点で地域貢献的なアプローチができるところもジンの魅力です。また、他の酒類に比べてジンは蒸留期間も短いことが多く、製品化にかかる時間的コストも少ないですし、キャッシュフローの観点から見ても魅力的です」と話す。
食後酒のイメージが強いジンを、おばんざいとペアリングし“食中酒”として提案
店の最大の売り物は、120種類以上を揃えるクラフトジン。「日本で最もジンに精通した」と前田氏が太鼓判を押す、神田のジン専門店「GLOBAL GIN GALLERY」協力のもと、無類のジン好きである前田氏自身が選りすぐったジンを用意。1杯900円から5000円のものまで幅広く揃える。フードには、「京の鯖寿司」(480円)、「レンコンと豚バラの甘辛炒め」(580円)、「和牛のタタキ」(980円)など、日替わりのおばんざいを用意。高品質なジンを取り揃えている代わりに、フードは可能な限り手頃な価格設定にしているという。
「『おばんざい(和食)とジンは合うの?』と疑問を持たれるお客様もいますが、実は相性は抜群なんです」と前田氏は胸を張る。例えば、「BOBBY‘S」は、華やかなレモングラスが香るジン。ソーダ割りにすれば「生姜からあげ」(380円)と相性抜群だ。また、「Isle of HARRIS GIN」は、スコットランドのハリス島の海藻を使ったジン。海藻の風味が和食の出汁と調和するという。「ジンは食後酒のイメージが強いですが、このように、ソーダやトニックで割っておばんざいと合わせ、“食中酒”として提案したい」と前田氏は話す。
朝8時から営業し、地域の憩いの場に。ジン好きの目的客も多数来店
同店では朝は8時から営業していることも特徴だ。「SIDEWALK STAND」から仕入れる、同店オリジナルブレンド豆を使ったエスプレッソドリンクや、「TOLO PAN TOKYO」に協力してもらった「クロックムッシュとソーセージのブランチプレート」(1000円)も提供し、モーニングやカフェ利用のニーズにもこたえる。「正直、売上の大半は夜に集中し、朝や昼に営業することは経営的にはコスト増です。ですが、夜にお酒を楽しんでいただく方々に加えて、子供からおじいちゃんおばあちゃんまで、老若男女問わず地域の人が集まれる場所でありたいという想いがあります」と前田氏。
池尻大橋に店を構えたのも、前田氏自身がこの街が大好きだったからだという。「池尻大橋は長年住み続けている愛着のある街。戦略的なことよりも地域に貢献したいという思いで、8カ月ほど池尻大橋に絞って物件を探し続けました。実際にオープンしてみて、朝は近所の高齢者の方がコーヒーを飲みに来てくださり、昼はお母さん同士の一息つく場所に使ってもらえたり、子どもたちが看板犬の”富士丸“に会いに来たりと、地域のサードプレイスとして機能しつつあることが何よりも嬉しい。同店が池尻大橋の飲食シーンを盛り上げる一端を担えれば、と思います」と前田氏は話す。地域住民に加え、ジン好きが遠方から訪れることも想像以上に多く、営業は順調な滑り出しだという。
海外へ日本の酒をアピールし、国内酒造業の復活をビジョンに邁進中!
今後、自社蒸留のジンが完成し次第、提供を開始する他、お客から要望の多いランチの提供も検討中だ。「当社のミッションは、日本の造酒業界の復活と酒市場全体の市場拡大。年々、国内の酒の消費量は下がり、後継者不足などの問題で蔵の数も減っている。一方、酒の輸出については前年比2桁成長を続けている。そこに勝機を見出し、当社でも自社のジンを海外、特に北米に輸出し、日本発のジンとして海外に日本の魅力をアピールしたい。そして、衰退の一途をたどっている国内の酒造業界を盛り上げたいんです。世界からみた日本は東洋(FAR EAST)、池尻から世界へ!そんな想いを社名に込めています」と前田氏は語る。
店舗データ
店名 | SiCX by FarEastCraft(シックス バイ ファーイーストクラフト) |
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住所 | 東京都目黒区東山3-6-12 ミリオンベル 1F |
アクセス | 池尻大橋駅から徒歩3分 |
電話 | 03-6303-4140 |
営業時間 | 8:00〜25:00 |
定休日 | 無休 |
坪数客数 | 14坪22席 |
客単価 | 昼500円、夜3000円 |
運営会社 | 株式会社FarEastCraft |
オープン日 | 2020年1月22日 |
関連リンク | SiCX by FarEastCraft(Instagram) |