2008年のオープン以来多くのファンを獲得し、“予約の取れない店”としても知られたフレンチ「restaurant bacar(レストラン バカール)」。カウンター7席・テーブル6席という小さな空間で、「オテル・ド・ミクニ」で三国清三シェフに師事しフランスの三ツ星レストランを経験したシェフの石井真介氏と、オーナーソムリエの金山幸司氏による、斬新な料理の数々と楽しくライブ感のある“食の演出”がお客たちを魅了してきた。そのような「バカール」が人気の絶頂のさなか、突然の閉店を余儀なくされたのは2015年3月。オーナーソムリエの金山氏が体調を崩したことが原因だった。閉店と同時にシェフの石井氏は「バカール」を退職。ここから石井氏の新たな闘いが始まった。
惜しまれつつ「バカール」を退いた石井氏は、他のレストランのコンサルティングなどを行いつつ、自身の新たなレストランをオープンすべく準備を進めた。困難を極めたのは物件選び。少しの妥協も許さず納得のいく物件に出会うまでに、1年もの時間を要した。この長い準備期間中、石井氏は苦悩し、また、自らの料理や食への考え方を深く見つめ直すことになる。この1年を経て2016年4月12日、いよいよオープンしたのが「シンシア」だ。シンシア(sincere)は、“嘘偽りのない” “真摯な” “率直な”などの意味を持つ言葉。この店名に石井氏の深い思いが込められている。
北参道駅から徒歩3分、千駄ヶ谷のビルの地下。店のドアを開けるとまずキッチンが目に入り、石井氏とスタッフたちに迎えられ席へ通される。大理石の床に、深いグリーンを基調とした落ち着きのある店内。ほどよい広さながら席数は19席と決して多くはなく、オープンなキッチンと客席が一体となったつくり。壁際の奥の席はキッチンの方へ向いたひと続きのソファになっていて、まるで石井氏の自宅に招かれたような、もしくは、石井氏やスタッフが立つキッチンを舞台に見立てた、プライベートな劇場へ足を踏み入れたような錯覚に襲われる。ここで供されるのが、石井氏の情熱が形になった「menu SP」だ。
「menu SP」(10368円/サービス料別)は、「バカール」時代の人気料理をさらに複雑な調理法で進化させたものなどで構成された9皿のコース料理。料理を提供する上で、石井氏が昔も今も変わらず大切にしているのが、“お客を楽しませること”。他の真似ではない、見たことのないような新しさと、おいしさと、驚きのある演出。調理の合間に客席を駆け回り、自ら料理のしかけと過程を見せて回る石井氏の姿には、ただただ“喜ばせたい”という思いが溢れている。キッチンと客席は厚い壁で隔たれるべきではなく、石井氏が師事したシェフたちのように、全てをオープンに、料理人の人柄が見える料理を楽しんでもらうべきだという考えが店のスタイルに現れている。
調理は石井シェフと2名のスタッフ、「イデミスギノ」出身のパティシエ 大山恵介氏で行っている。また、金山幸司氏の後輩にあたる牛島弦氏が料理とワインのペアリングを担当(ワインペアリング7杯 5940円/サービス料別)。スタッフ全員が直接お客へ料理を運び説明することで、各々が責任感を持ち、成長できるように心がけている。スタッフ、食材や食器などを提供してくれる生産者、石井氏の再スタートを心待ちにしていたお客や仲間たち。そして、料理の楽しさを教えてくれた両親。周りをとりまく全ての人への、石井氏の感謝と愛が「シンシア」という形になって、再び多くの人を惹き付けている。今後はブッフェスタイルのランチや、新しいコースのスタートも予定している。フレンチを知らない若い人たちにも、フレンチの良さを知ってもらうような取り組みも考えているとのこと。作る人の思いと情熱が伝わる石井氏の「シンシア」。今後ますますファンを増やしていくことになりそうだ。
店舗データ
店名 | シンシア |
---|---|
住所 | 東京都渋谷区千駄ヶ谷3-7-13 原宿東急アパートメントB1 |
アクセス | 東京メトロ 北参道駅から徒歩3分 |
電話 | 03-6804-2006 |
営業時間 | 18:00〜23:00(L.O.21:00) |
定休日 | 日曜日・第1第3月曜日 |
坪数客数 | 22.5坪 19席 |
客単価 | 15000円 |
関連リンク | シンシア(FB) |