恵比寿南の交差点から至近のビル7階に「麦酒庵 恵比寿店」が2月12日誕生した。オーナーの水田善之氏は、4年前まで大手通信会社に勤めていたが、自他共に認めるクラフトビール・マニアであった同氏は、ビールイベントの企画などにも携わり、いつしか飲食業界への転職を考え始めた。その後、脱サラし、四谷の日本酒と牡蠣で有名な「酒徒庵」で経験を積む。もともと日本酒(特に濃厚系やお燗系)にも精通していたことや、「酒徒庵」店主のサポートもあり、同店からの暖簾分けという形で、自身がかねてより理想として掲げていた『クラフトビールが味わえて、しっかりした和食を出す店』というコンセプトのもと“麦酒と牡蠣とおばんざい”「麦酒庵」(大塚)を2011年に開業した。クラフトビール×和食という組み合わせは、当時としてはほとんど無かったことや、クラフトビールを、マニアだけでなく幅広い層の人達に楽しんでもらうために、しっかりした和食を出し、一軒目使いの店として落ち着いて酒も料理も楽しめることは重要と考えていたからだ。それから3年経ち、満を持しての2号店オープンとなった。
「飽き性だから、2号店は少し変えた感じでやりたかった」と水田氏が語るように、新店舗は、店長に「はせがわ酒店」5年、荻窪の銘酒酒場「いちべえ」の店長として3年というキャリアを持つ田中祐晶(よしてる)氏、料理長に魚介系和食を得意とする池田歩氏を迎え、既存店では牡蠣をメインとしていたが、今回は“麦酒と日本酒と和食”の店としてオープンした。立地については、いくつか候補地は挙げていたが、山手線沿いの西側で主要駅から近く、雰囲気重視だけでなく『味』のわかる客層が来る街ということで、恵比寿に決めたという。
ビールは最大17種類の樽生を提供できるシステムを導入している。取材当日は12種類が提供されていたが、食中に合うものや、ホップ感が強すぎないものを中心にしながらも常に幅広い厳選銘柄を揃える。この日は、ビールが苦手な女性にも飲みやすいフルーツビールの「南信州 アップルホップ・ふじ(長野)」や、燻製ビールの「富士桜高原 ラオホ(山梨)」、アルコール14度の濃厚ビール「アウトサイダー バーレーワイン(山梨)」(100mlのみで500円)など。サイズは、小(230ml、500円~)、中(370ml、750円~)、大(490ml、950円~)の3種類。日本酒は、常時100~120種類が揃い、ストック分も入れると約200種類あるという。取り揃えるレンジは広く、オーナー水田氏が得意とする濃厚系・お燗系の日本酒や店長の田中氏がセレクトする華やか系・生酒系など個性豊かで多種多彩な日本酒を味わえる。ポーションは半合(350円~550円)が基本。しかし高い酒でもいろいろと気軽に試して欲しいとの想いから、60mlポーションでも提供する。「酒を理解した上で、それに合った出し方、合う料理を提供してます。お客さんとのコミュニケーションを図りながら、その方の好みを把握し酒を選び提供できるのでメニューはなくてもいい」と強調する水田氏は、酒を軸にした提供の仕方を大事にしている。同店は、クラフトビールメニューはあるが、日本酒メニューは「いくつかご紹介」と多少リスト記載があるのみ。料理に合う味やその時の気分などで店長の田中氏に相談しながら決めるのがいいだろう。
食事のメニューは、つまみの一品から、刺身、焼き・揚げ・蒸し・煮物、本日のおすすめ、〆のお茶漬け、おにぎりなどが揃いまさにしっかりした和食が堪能できる。築地から毎日仕入れるという新鮮な魚は、定番の「刺身4種盛合せ」(1600円)をはじめ、旬の料理として並ぶ。刺身盛合せは、〆たもの、炙ったものなど変化に富んだ味わいを楽しめるのも魅力だ。またこの時期に人気の「牡蠣のクリームコロッケ」(800円)は、アツアツでとろっとろっのクリームと食べやすいサイズの半身牡蠣の食感が絶妙の一品だ。
実は、クラフトビールや日本酒以外の酒に関しても相当マニアックなオーナーの水田氏。今後は、クラフトビール、日本酒の他に様々な酒と料理の組み合わせの展開が可能だと示唆していたが、どのような組み合わせになっても、『提供の仕方』にこだわり、それが店の確かな強みとなるのだろう。