六本木ミッドタウンの向かい、外苑東通り沿いビル2階に「ワインビストロ Picoler(ピコレ)」が2012年12月10日オープンした。オーナーシェフは並木秀人氏。同氏は野菜レストラン、フレンチ、食品加工会社(製造・販売)が運営するレストランなど、さまざまな業態のシェフとして経験を積んできた。店のコンセプトは「ワインに合う野菜料理」。取材した日のおすすめメニューは、野菜で野菜を食べる「ラタトゥイユたっぷりの三浦大根ベジミートがけ」大根ステーキ。通常の大根と比べると、その大きさに驚嘆する。調理する前は直径約20cm、1本7~8kgもあるという。この三浦大根は「山崎農園」が作ったもの。海洋深層水で育てるため、とてもみずみずしくジューシーな味わい。目をつぶって食べたら、大根とは思わないだろう。大根の上にのせるラタトゥイユは、ふんだんな野菜と少量のひき肉を使用している。メインに三浦大根を使ったこのメニューは牛や豚で作った場合に比べ、恐らく「半分以下のカロリー」だそうだ。
料理はフレンチをベースとしながら、野菜レストランでの経験を生かし、ヘルシーかつ野菜本来のうまみを引き出す調理方法。「少量の肉に大量の野菜を使用することや、油をなるべく使わない、低カロリーな料理方法を心がけている。野菜は一度蒸し、グリルすることで、本来のうまみが凝縮され、コクがでる。野菜をメインとしながらもワインに合うビストロメニューを目指している」と並木シェフは話す。旬の野菜を使い、低カロリーでありながら、ワインに合うビストロメニューを堪能できる。女子にとって何ともありがたい店だ。とはいえ、肉のメニューも充実。長時間熟成の「自家製168時間熟成ハム」(830円)、かたまりの肉からつくる「パテ・ド・カンパーニュ」(830円)。発注した日にしめられ発送されてくる「信玄地鶏のパリっと焼き」(880円)、骨付きブロックを仕入れ、丁重に骨を取って焼く「骨付き仔羊のソテー」(780円)など、加工食品会社で培った技能を活かし、並木シェフ自らが加工する。
三浦野菜の中でもハイクオリティーな素材を仕入れているが、フードメニューは1000円以内とビストロ価格。その秘密は契約農家との関係にある。フードコーディネーターの資格を持つ並木氏の妻、麻未子さんは会社員を経て、「日本野菜ソムリエ協会」や、ホテル・飲食店に野菜を仲卸する「三浦の八百辰」で4年間働き、実際に畑で農家の手伝いをした経験を持つ。そこで、契約農家の「山崎農園」や「小川農園」に出会ったという。「農家さんからは、自分たちが育てた野菜の六本木デビューを喜んでもらっている」と麻未子さん。同店のコストパフォーマンスは並木夫妻と生産者の信頼関係の上に成り立っていると言える。
ドリンクにもこだわりがある。ホットワイン(740円)は、広島県生口島(いくちじま)産の「瀬戸田レモン」を使用している。通常のレモンに比べ、香りが強い事が特徴。輪切りにし、温めたワインに浮かべる。あまりの香りの強さに、店内の別の客が「私もホットワインを」とつられて注文してしまうとか。酒をこよなく愛するオーナーは「お客様に気兼ねなく飲んでほしい」という思いから、樽生スパークリングワイン(550円)、カラフェ(1980円)などを提供。ボトルワインは生産国にこだわらず様々な種類を取り入れ、小売をしておらず、他の飲食店でも取り扱いが少ない銘柄を中心に仕入れている。価格は1880円から5000円と非常にリーズナブルな設定だ。
「おいしい野菜をつくるのは農家さん。そして素材を生かしながらさらにおいしい料理をつくるのがシェフの役割。個人店は価格面で大手には勝てない。ゆえに、生き残るためにはハイクオリティーなメニューをお客様に提供することが必要。そして、バランスよく店を運営していき、良質な野菜を作ってくれる農家さんのためにも店を継続し、生産者である農家さんとお客様をつないでいくことを大切にしたいと思っています」と並木氏は最後に語ってくれた。