東急百貨店、パルコ、ヨドバシカメラといった大型商業施設をはじめとして、大型アーケード街に多くの商店が軒を連ねている吉祥寺駅北口は、中央線でも指折りの商圏だ。そんな北口駅前は、戦後の闇市をルーツとした昭和の時代そのままといった、市場がある。軒先を突き合わせるように建ち並ぶ商店の間を縦横に抜けるように走る路地と路地。まるでハモニカのような様であることから、“ハモニカ横丁”と名付けられた横丁。 女性客で賑わう、生パスタ屋といった今どきの飲食店もあるが、昼間は主に物販店を中心に店が開き、シャーターを下したままの店も少なくない。夜になると飲食店が店を開け、酒場を求める人々で賑わいを増す横丁であるが、横丁全体としての活気には残念ながら今ひとつ乏しい。 そんな横丁に思わず誰もが足を止めてしまうほどのインパクトを放ちオープンしたのが「片口」だ。半間サイズの白の暖簾が下がってはいるものの、なんと間口、一間半ほどが、全面オープンだ。しかも、路地からすしを握る大将と握手が出来るほどの至近さにカウンターを構えている。そんな大胆過ぎるほどの開放的な店作りながら、老舗店で修行した大将が握る江戸前握りと酒が、気軽に味わえるとあって、さらに驚かされる。オーナーである手塚氏は「ハモニカ横丁にはない飲食店をと考えていました」とその経緯を話す。さらに「和食の店で、しっかりとお酒を飲める店が欲しかったので」と続けた。店名の「片口」が日本酒の酒器である片口から由来するように、手塚氏の酒を楽しむことへのこだわりが見える。 メニューは江戸前握りのほか、新鮮な刺身に酒肴が並ぶ。江戸前にぎりは、おまかせで「赤身とほかの魚三個握り」(480円)、「中トロほかの魚三個握り」(680円)と、“ちょいつまみ”から、「八個」(1500円)、「十個」(2000円)、「本日の旬」(2500円)まで揃う。当然、お好み握りでも楽しめる。刺身は「お造り三点盛り」(1000円)から、「まぐろ」、「あじ」などの単品が680円からとなる。酒肴では「いくらおろし」(380円)、「子持ち昆布」(580円)、「殻付き帆立貝焼き」(680円)、「出汁たっぷり玉子焼き」(480円)といった、酒が進むアイテムを揃える。 酒は、日本酒が「玉乃光純米吟醸」(一合700円)など3種類から、焼酎は「玉乃光純米焼酎」(700円)など4種類。ワイン、スパークリングのグラスが600円、ボトルは2500円から、スパークリングが2610円から。ほかに紹興酒やウイスキーまで充実している。 正統なすし業態でありながら、立ち飲みや、あかちょうちんのような空気感で楽しませてくれる「片口」は、すし業態の概念も小気味よく覆し、既成概念にとらわれない自由な発想で和ませてくれる。実は手塚氏、横丁内に幾つもの個性的な飲食店や物販店を立ち上げ、ハモニカ横丁を面白くする仕掛人なのだ。 ビデオ草創期、新しい時代の情報の形として注目し、ビデオ映像作成会社VICを学生時代に立ち上げた手塚氏は、ビデオ機器本体、周辺機材を扱い、事業を広げてきたという。しかし、家電量販店の出店や、ビデオからITへとメディアの形、あり方など周辺環境が変わり始めた事から、新しい分野となる飲食業へと方向を進め、横丁を盛り上げている。その記念すべき1号店「ハモニカキッチン」では、主にアジアンな料理が楽しめる。その後、焼き鳥の「てっちゃん」、ワインとビールに洋食の「アヒルビアホール」、和総菜とお酒の「エイヒレ」、ロティサリーの「ポヨ」、スペインバル形態の「カフェモスクワ」、新しいところではビアホール「ミュンヘン」と、店名からも遊び心を感じる、個性的でユニークな店を次々とオープンさせている。どの店も全面を開口し、誰もが気軽に出入り出来る解放感ある作りに、人は溜まり、盛り上がる。その空気感、臨場感は路地を、横丁を行き交う人に伝達していくようだ。アーティストの言葉にならない表現を捉えたくビデオ映像を作成した手塚氏。飲食の場でも、言葉ではなく、五感に伝わるような表現が息づいている。
店舗データ
店名 | 片口 |
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住所 | 東京都武蔵野市本町1-1-1 ハモニカ横丁内 |
アクセス | JR吉祥寺駅、井の頭線吉祥寺駅より徒歩1分 |
電話 | 0422-21-3066 |
営業時間 | 17:00~24:00 |
定休日 | 無休 |
坪数客数 | 7.5坪(1階4.5坪/2階3坪)・20席(1階10席2階10席) |
客単価 | 3000円 |
運営会社 | 株式会社VIDEO INFORMATION CENTER INC |