出店ラッシュが続き、過当競争が日に日に激化するラーメン業界。いまでは一つの街にラーメン店が過剰に集中するケースも珍しくなく、限られたパイのお客を奪い合う光景がいまや日常化してきている。そうした中、全国でも有数のラーメン激戦地へと成長したのが東京・高田馬場。街の中心部を貫く早稲田通り周辺には実に80件ものラーメン店が軒を連ねると言われている。ここまで店舗数が増えるともはや各店のラーメンの味がどうこうと言ったレベルではなく、供給過多が原因による消耗戦が日々繰り広げられることになる。その先にあるものは体力の消耗した店の撤退。だが、たとえ競合店が減ってホッと一息ついたとしても、またその後に新たなラーメン店が出店するというケースも……。そうした無為な競合で互いが体力をすり減らすのではなく、お互いが協力し合うことで高田馬場という街を“ラーメンの街”として盛り上げ、各店が一丸となって街自体の集客力を高めていこうと結成されたのが「高田馬場ラーメン組合」である。 「高田馬場ラーメン組合」の結成は2010年2月23日。「麺屋 宗」店主の柳 宗紀氏が「北狼」店主の井澤克彦氏に呼びかけ、そこから高田馬場に店を構えるラーメン専門店とラーメンを売り物にした中華料理店にも声をかけてまわり、毎月「限定メニュー」を提供して盛り上げていこうという趣旨の下、それに賛同した15店の参加店と2店の協賛店の計17店でスタートを切った。高田馬場を“ラーメンの街”として広くアピールしていくことで、「ラーメンを食べるなら高田馬場で!」という目的客を育てるのが、組合結成のそもそもの狙いである。ラーメン店の多さから“ラーメンの街”と称される地域は全国的にもいくつか点在するが、「高田馬場ラーメン組合」の場合、加盟店が互いに協力して限定メニューを毎月提供していくことで、街自体をいつ来ても飽きのこないラーメンのテーマパークのようなワクワクする空間に仕立て上げようとしているのが大きなポイントだ。 同組合が取り入れた限定メニューは、いまやラーメン店に欠かすことのできない集客のための売り物の一つでもある。現在のラーメン業界において、お客は気に入った1店の店に何度も通い詰めるよりも、数多くの店を食べ歩いて制覇したいという欲求がひと昔前よりも大変強くなっている。そこで威力を発揮するのが、一定期間しか食べられないプレミアム感で付加価値を作り出した限定メニューの存在だ。同組合もここに着目し、組合の参加店がスクラムを組んで魅力的な限定メニューを月替わりで提供し、それを“スタンプラリー”形式でイベントに仕立て、高田馬場という街に何度でもラーメンを食べに足を運んでもらおうと仕掛けたのである。開始月の5月は“特別お試し価格”としてワンコイン500円というお手頃価格に設定し、「旬の食材」をテーマに各店がその腕前を振るった。例えば、「麺屋 宗」はロールキャベツ、「北狼」は苺、「威風堂堂」は春野菜のバーニャカウダ、「味一」は春あさり塩バターラーメンといった具合に。6月も「旬の食材」をテーマに880円で供し、7月は「ごま」をテーマに同じく880円で提供。「ごま」で用いた練りごまはメーカーから協賛されたもので、単に限定メニューに取り組むだけでない新しい広がりも積極的模索している。 ただ、組合結成の趣旨には賛同するが、毎月限定ラーメンを提供していくまでには手がまわらないという店も多く、組合に加盟はするが限定メニューの提供には参加せず協賛というポジションの店も2軒ある。その一方で、組合に加盟することで初めて限定ラーメンにチャレンジしたという店もあり、いざやってみると大変ではあるものの、商品開発面においてレベルアップを図ることができたなど、限定ラーメンに確かな手ごたえを感じている店も少なくない。また、協賛店2店は、スタンプカードを持参すればサービスが受けられるという形でスタンプラリーに参加。この17店をスタンプラリーで結ぶことで、それまで足を運んだことのなかった店にもお客の目を向けさせることに見事成功している。 このスタンプラリーは、5月、6月、7月とに展開し、8月はその集大成として加盟店が2つのグループに分かれ、「明治通り東西ラーメン対決」というイベントを放つ。これは明治通りで加盟店を東西2つに線引きし、「北狼軍団」と「Team宗」に分かれてそれぞれが合作で作り出したラーメンを供し、その人気を競うもの。お客は880円で2杯のラーメンが食べられ、おいしいと思った方のラーメンに投票する。開催日は8月8日(日)の11時から17時で、限定200食売り切れ御免のイベントだ。高田馬場という街は学生街という性格から、学生が休みに入る春先と夏場は否応なしに売上が落ち込む傾向にある。どの店も何とか売上をカバーしようかと毎年頭を悩ませ、いろいろ策を講じるが、それなら各店が協力し合うことでより大きなパワーを生み出し、高田馬場という街に外からお客を呼び込もうというのがこのイベントの狙いである。 「高田馬場ラーメン組合」を結成したことによる大きな利点は、それまで交流のなかった加盟店同士が仲よくなり、情報交換を図れるようになったこと。お互いの仕入れ値も分かるようになり、ゆくゆくは共同仕入れなどにもつなげてコストダウンを図るといった可能性も選択肢としてある。また、限定ラーメンを通じて各店がアドバイスを送り合うなど、加盟店全体のレベルアップも図ることもできた。高田馬場は学生街というその性格から、常に低価格の商品が求められる街でもある。他店が値下げしたからといって自店も値下げして追随するといった商売では、結局は自らの首を絞める消耗戦でしかない。無為な値下げ合戦に巻き込まれることなく、付加価値の創造で集客を図る。その意欲的な取り組みは、低価格競争の進む昨今の飲食業界において、一つの指針ともなるであろう問題提起を投げかけている。
ヘッドライン
[イベントニュース]
2010.08.07
高田馬場発、人気ラーメン店が手を取り合い「高田馬場ラーメン組合」を結成!8月8日には組合が一丸となってのイベントも開催
- 8月8日(日)には加盟店が東西2つのグループに分かれ、それぞれ合作のラーメンを供して人気を競う「明治通り東西ラーメン対決」を開催
- 加盟店のロゴが入ったTシャツも作成。加盟店はこれをユニフォームとして着用し、店内でも販売する
- 「北狼軍団」を率いる井澤 克彦氏(写真左)と、「Team宗」を率いる柳 宗紀氏(写真右)。明治通りを挟んで立地する「北狼」と「麺屋 宗」を舞台にイベントを行なう
(取材=印束 義則)