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広尾EAT PLAY WORKSプロデューサー、井上盛夫氏インタビュー。これからの商業施設の在り方とは?

7月20日、広尾駅すぐに「EAT PLAY WORKS “食ベて 遊んで 仕事して“」をコンセプトにデザインされた複合施設が開業。野村不動産を事業主のもと、Salt Groupがビル全体一棟をトータルプロデュース。1・2階は国内外で注目を集める銘店の新業態17店舗が集結した「THE RESTAURANT」、3・4階はメンバーズラウンジ、5・6階がオフィスフロアとなっている。仕掛け人であるSalt Groupの代表、井上盛夫氏にインタビューを実施。EAT PLAY WORKSが目指した姿、これからの商業施設の在り方について語ってもらった。


(Salt Group代表・井上盛夫氏。国内外、数々の不動産プロデュースを手掛ける)

EAT PLAY WORKS

Salt Group

ビル全体を一貫したコンセプトでプロデュース

2~3年前でしょうか、野村不動産から相談を受けました。間口の狭い長方形の更地。駅から近いものの、広尾は商売が難しい土地とも言われています。一筋縄ではいかないこの案件をどう活用しようか?と考えたとき、参考にしたのはロンドンのデベロッパーとの仕事を通じて得た経験でした。成功している多くの事例に共通するは、ビル全体で一貫したコンセプトを打ち出していることでした。一方、日本のビルは下層が商業施設、上層がオフィスまたはホテルというパターンが多く、分断されてしまっている。限られたフロアだけでなく、一棟まるごとのコンセプトから任せてもらえるならぜひやりたい、と野村不動産にお願いしました。

何故、いま横丁ブームなのか?「小箱の集積」によるメリット

そして生まれたのが「食ベて 遊んで 仕事して」というコンセプト。1・2階は飲食ゾーンの「THE RESTAURANT」。飲食店が立ち並ぶ横丁形式にしました。最近では当施設以外にも多くの横丁が相次いで開業していますね。何故、いま横丁ブームなのか。それはテナントとデベロッパー側にとってwin-winだからと私は考えます。横丁とは、いわば「小箱の集積」。家賃の高い一等地の商業施設でも、横丁であれば1店舗の面積は大きく取らないので家賃が安く抑えられるのでテナント側のメリットになる。そして店が集積することによる集客効果が期待できるので、デベロッパー側も嬉しい。このビジネスモデルはしばらくブームが続くと睨んでいます。この「THE RESTAURANT」も、この横丁形式であれば野村不動産が掲示する売上もクリアできるだろうと見通しが立ったので採用しました。

予約がなくても入れる“ミシュラン・カジュアル”が世界的トレンド

広尾という高所得者が多く、ライフスタイルへの感度が高い土地柄も踏まえて、“ミシュラン・カジュアル”をテーマに設定。星付きレストランのシェフによる、予約不要で入れるカジュアルレストランを集めました。世界的に見ても、トレンドはカジュアルに向きつつある。ロンドンもそうですし、マンハッタンのソーホー地区もそう。予約を取らないカジュアルレストランに感度の高い人が集まっているんです。私がそのミシュラン・カジュアルを初めて体現したのが、青山の「The Burn(ザ バーン)」。ミシュラン一ツ星「ジャン・ジョルジュ東京」で腕を振るっていた米澤文雄シェフによるレストランです。何より、私自身もレストランに行くのは好きですが、何か月も前から予約をしてというのが苦痛で(笑)。ふらっとは入れる場所があれば嬉しい人も多いだろう、と考えました。

若手シェフ同士で切磋琢磨できる環境を作りたかった

もちろん、星付きレベルのシェフを口説き落とすのは容易ではない。米澤シェフに加え、「レフェルヴェソンス」などレストランを展開するCITABRIA代表の石田 聡さんと意気投合し、彼ら協力のもとテナントリーシングを行いました。目指したのは、30代~40代の気鋭の若手シェフを集めて、互いに刺激になるような環境でした。

目玉としては、オープン5ヶ月でミシュラン一つ星を獲得した、ブルックリンの人気店「Oxomoco(オショモコ)」の日本初上陸店。ニューヨーク最先端のメキシカンレストランです。名のある店なので誘致は難しいかと思いましたが、オーナーが米澤シェフと「ジャン・ジョルジュ」時代共に働いていたつながりで、「米澤さんが言うなら!」と出店していただきました。その他、米澤シェフによるベジタリアンレストラン「Salam(サラーム)」や、石田さんの「レフェルヴェソンス」で活躍していた根本憲仁シェフによる「Bistro Némot(ビストロ ネモ)」、イタリアン、スパニッシュ、沖縄料理、すし、とんかつ、スナックまでバラエティ豊かに17店舗を配置しました。立地や施設コンセプト以外に、「若手シェフ同士で刺激しあえる」という点に魅力を感じて出店を決めたテナントも多かったですね。

実際にシェフや店舗同士の交流は盛んで、皆さん楽しそうです。テナントで商店会を結成し、営業時間や定休日など運営にかかわる決め事は自治で決定しています。また、新型コロナの感染対策として席を間引きすることになったのですが、店間で席を譲りあうといったこともあったようで、互いに協力しあう雰囲気が生まれています。

 

(ブルックリンの人気店「Oxomoco」と米澤シェフによるベジタリアンレストラン「Salam」)

日本のコワーキングスペースの概念を覆す施設を

3、4階はメンバーズラウンジ。海外でもたくさんのオフィスを見てきた中で、「ここで働きたい」と思うオフィスとは、デザインが恰好良いだけではない。考え方、コンセプトからが一貫している。そういった、日本にまだない、概念を覆すコワーキングスペースを作ろうと考えました。“仕事と遊びに垣根を作らない人”に向け、デスクで仕事するのはもちろん、ソファで読書に耽ったり、瞑想で自分と向き合ったりできる空間にしました。EAT PLAY WORKSも「日本のワークスタイルの概念を変える」、そうした場所を目指していきます。

今後は、街と森をつないでいきたいですね。日本の国土の7割は森で、たくさんの自然に恵まれた国なんです。日本の地方に眠っている大自然を活用したコンテンツを多岐に渡り生み出していきたいと思っています。また、ワーケーションやリトリートの場所としてなど、様々な形で街と森とを繋いでいくことで、心と身体がウェルネスな状態で過ごせるための新しいライフスタイルを提案していければと思っています。

トップダウンによる強烈なコンセプトを打ち出した施設が残る

世界のデベロッパーと一緒に仕事をして気づいたのは、彼らはすべてトップダウン。トップの中に明確にやりたいこと、表現したい世界観があり、それに合わせてみんなが動く。だからこそ強烈なコンセプトを打ち出した面白いものが作れるんだと実感しました。日本ではどうしても多数決で物事を決めていくきらいがある。前例のないものを作るから人は感動するし、コロナ禍もあり、日本のデベロッパーも変わらざるを得ないと思います。これまで以上に振り切ったものを作らないと人々を楽しませることはできないし、今後、生き残っていくのはそういう施設なのではないでしょうか。

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