飲食店・レストランの“トレンド”を配信するフードビジネスニュースサイト「フードスタジアム」

特集

Post (With?)コロナの外食産業~ロイヤルホールディングス会長・菊地唯夫氏 講義レポート~

外食産業では新型コロナウイルスに深刻な影響が及ぶ中、ロイヤルホールディングス会長の菊地唯夫氏による飲食経営塾「菊地塾」では、5月12日、オンライン講義が開催された。テーマは「Post (With?)コロナの外食産業」。これからの外食産業がどう変わっていくのか?経営者はどう行動すべきか?その講義内容をレポートする。



ロイヤルホールディングス代表取締役会長 菊地唯夫氏
1988年、早稲田大学政治経済学部経済学科を卒業後、日本債券信用銀行(現あおぞら銀行)に入行。2000年、ドイツ証券に入社。2004年、ロイヤルホールディングスに執行役員総合企画部長兼法務室長として入社。2010年に同社代表取締役社長、2016年に代表取締役会長兼CEOに就任、2019年から現職。日本フードサービス協会会長(2018年5月退任)、サービス産業生産性協議会幹事、キャッシャレス推進協議会理事、京都大学経営管理大学院特別教授。


(飲食経営塾「菊地塾」のメンバー約50名が参加し、オンラインにて講義を行った)

新型コロナが長引くことも想定した「With」の視野を

皆さんこんにちは。ロイヤルホールディングスの菊地唯夫です。本来であれば対面形式で予定されていた「菊地塾」講義ですが、予定を変更してオンラインというかたちで開催いたします。テーマは「Post (With?)コロナの外食産業」。新型コロナウイルスを通じて社会はどう変わるのか?そして、飲食業界はどうなる?をお話していきたいと思います。このコロナショックは、未だかつてない大きな変化なので、私も明確な答えは持ち合わせておりません。ただ、私なりに今の状況を整理し、皆さんのヒントとなるお話ができればと思います。

タイトルにあえて「With?」と付けたのは、この状況は当面長引くと予想されるからです。日々の感染者数は減少傾向にありますが、第二波が来るともささやかれるなどコロナショックがいつ終息するのかはわかりません。もはや“コロナ後”ではなく“コロナとともに”事業を進めるという長期的な視野で考えていかなくてはなりません。

まずは確認ですが、新型コロナウイルスの状況下での優先順位は以下だと私は考えます。

① ヒトの命(お客様・従業員)
② 会社の存続(資金繰り、固定費の削減)
③ Post コロナを考える

①の「ヒトの命」が何よりも最優先であることに異論はないと思います。次に②「会社の存続」について。会社を存続させるにはまず何よりお金が必要です。既に皆さんはキャッシュの確保に奔走している最中と思います。そして③「Postコロナを考える」。今日はこれについて詳しくお話していきたいと思います。

東日本大震災は「連帯」「絆」、一方、コロナショックは「分断」をもたらした

これまでにも外食産業の危機というのは幾度となくありました。まずは、過去に見舞われた大きな非常時と、今回のコロナショックの特徴を比較してみたいと思います。

2008年のリーマンショック。アメリカを端にした金融システムの崩壊で、欧米を中心に日本でも不景気に見舞われました。ですが、リーマンショックでは比較的傷の浅かった中国が大規模な経済対策を行ったことにより、その後の経済回復が図られました。一方の今回のコロナショックは、あらゆる国が影響を受け、終了後の経済回復のけん引役が見当たらない状況です。

もうひとつ。2011年には東日本大震災が発生し、東北を中心に甚大な被害がありました。ですが影響は国内にとどまり世界経済は堅調でした。また、自然災害では人が「連帯」して乗り越えようという機運が高まり、「絆」といった言葉が盛んに叫ばれました。ところが、今回の新型コロナウイルスは人が介在する災害のため、世界中に人の「分断」の危機が迫っているというのが対照的な点です。

このことから新型コロナウイルスのようなパンデミックは、自然災害や経済危機と異なり終息が読めず、しかも再発リスクがある。長期間にわたって経済を不活性化する可能性が高いと言えます。

コロナショックで露呈した「固定費問題」

今回のコロナショックで露呈した問題があります。それが「固定費問題」。もうご存じの通り、飲食店の経営を考えるうえで家賃や光熱費、人件費など毎月決まってかかる費用を固定費と言います。コロナショックによる外出自粛要請により一気に飲食店から客足が途絶えてしまいました。ですが飲食店は売上が作れない中でも固定費の支払いは免れません。そこで気づいたのが、外食産業は高すぎる固定費に基づいたビジネスモデルになっているのではないかということです。

これまで外食産業では、正社員に加えてパート・アルバイトの非正規スタッフのコンビネーションで人件費の調整を行ってきました。忙しいときはアルバイトさんのシフトを多く入れ、逆に閑散期はアルバイトさんを削って正社員だけで営業するといった具合ですね。ここでいう非正規スタッフの人件費は“変動費”と見なされてきましたが、実は“固定費”だったのではないか、と私は思うのです。

近年、人手不足という社会の変化によってアルバイトさんも店にとってなくてはならない戦力として固定されているケースが多く見受けられます。アルバイトさんは店の繁閑に応じて働いてもらい、もし辞められてもまたいつでも採用できるというのは難しくなっており、事業にとって欠かすことのできない、固定的戦力になっているという認識です。

また、家賃も大きな固定費のひとつ。売上がない中で家賃の支払いに苦しんでいる経営者も多く、政府による家賃減免の話も出てきています。従来は、たとえ高い家賃でも、場所の力によってそれだけ売上があれば支払うことができましたが、今回のように自粛ムードにより客足が激減した際が非常に苦しい状況に陥ってしまいます。

これら人件費や家賃の固定費が膨らむほど、経営の“損益分岐点”も上がります。損益分岐点とは、黒字と赤字の境界線となる売上のこと。つまり売上をあげるために必要な費用を収益でカバーでき、損益がゼロになって、それを越えると利益が出る、という売上高のことですね。

今回のコロナショックで、外食産業の損益分岐点売上はかなり高く、固定費の高止まり状態にあったことが露呈したと言えるのかもしれません。これまでは堅調な景気や高いインバウンド需要によって高い売上を上げることができていたために隠れていた問題だと言えます。

もちろん、これだけ一気に需要が消失してしまったわけですから、固定費が低かろうが、少なからず影響は出たと思いますが、このような局面だからこそビジネスモデルの再検証が必要だと私は思います。

高い損益分岐点は、コロナショックのように売上が立たない非常時には大きな負担としてのしかかってきます。今後も、たとえコロナが終息したとしてもまた別の感染症の再来や自然災害が頻発する可能性があることを考えると、固定費、ひいては損益分岐点をいかに下げるかは重要な課題となってきます。例えば解決策としては、売上に応じた家賃の変動化や、外食企業同士で閑散に応じて人材をシェアしたり、厨房などの設備を共有するなど、新しいビジネスモデルを構築することが必須と言えますね。

また、これはジャストアイディアですが、この固定費問題を解決するためには「ピークとオフピークの考え方」も変えていく必要があるのではないかと思います。これまで飲食店では、もっともお客様が多いピークの時間帯を基準に、店舗の面積を広く取り人材を準備をしていました。ですが、固定費を下げるためには、お店が暇な時間のオフピークを基準に考え、ピーク時には変動費で対応するという考え方にシフトしていくことが必要となるのではないかと思います。

コロナショックは外食産業の”カンブリア爆発“になり得るか?

一方で今回のコロナショックで見えた、外食産業の新しい可能性もあります。すでに多くの飲食店で取り組んでいるテイクアウトやデリバリー、ECなど新たな販売チャネルの開発。従来のイートイン主体のビジネスモデルから、外食産業の多様化が進むと考えられます。また、長期間の外出自粛により、Face to Faceの重要性が再確認されているように感じます。これは、目の前のお客様に喜んでもらうという外食の醍醐味の再確認ということにもなりますね。

もともと、テクノロジーの発達によってコロナショック以前から外食産業はゆっくりとこの方向に動いていました。それがコロナショックで一気に加速した。だから、今やっている取り組みは将来に結び付くはずです。

この外食産業の多様化と考えると、東大の松尾准教授が提唱するAIの進化は生物の多様性を生み出した“カンブリア大爆発”という説を思い出させます。カンブリア爆発とは、5億年以上も前、地球に恐竜すらいない時代、それまで多様化していなかった生物が一気に多様化したことを言います。生物が多様化した要因として、生き物に“目”ができたからと言われています。視覚で敵を認識することができるようになったから、羽を付けて逃げられるようにする、甲羅を付けて隠れられるようにする、といった具合で様々な種類の生物が生まれていきました。コロナショックを経てスマホの位置情報を活用したテイクアウト、デリバリーの取組みなど、デジタル化は外食に新しい“目”をもたらしています。その“目”によっていろいろな景色が見えてきた。これにより多様化に向けた大爆発が起こるのかもしれません。多様化によって外食産業は“フードビジネス”に進化する可能性がある。テクノロジーの力で外食、中食、内食という、食の境界が希薄化、垣根がなくなることで外食がより大きなものになるチャンスを秘めていると思います。

最後に。私は、人類はいつかこの難敵に勝利すると信じています。Restaurantはフランス語で「回復させる」を意味するrestaurerから生まれ、Hospitalityは体調を崩した人の手当をするホスピスを背景にした言葉です。今世界中で多くの人が亡くなったり、感染で病んでいます。コロナショックの収束が見えたその時、人々の回復に外食産業はいかに寄与できるかが、外食産業の社会的存在価値につながるはずです。とりわけ今回のコロナショックは、世界中で“連帯”ではなく“分断”を引き起こしており、分断された社会を回復させる意味でも、外食の役割は重要であると我々は認識すべきときと考えます。先の見えない状況が続きますが、皆さんの知恵を絞りこの難局を乗り越えていきましょう。本日はありがとうございました。

(取材=大関 まなみ)

特集一覧トップへ

食べログ掲載店募集中

飲食施設の分煙環境整備補助金の取り組み
Copyright © 2014 FOOD STADIUM INC. All Rights Reserved.