自分の都合だけを考えた闇雲な交渉はNG。相手の事情を汲み取ることから始める
家賃交渉で最も重要な点は、オーナーとの関係性です。現在のように社会全体の情勢が不安定な時には、次のテナントが入りにくいことも予想され、オーナーも大きなリスクを抱えている状況にあります。加えて、世間の家賃減免への動きも活発化していることから、オーナーが家賃交渉に応じてくれる可能性は決して低くはないでしょう。とは言え、オーナーも大変な思いをして建物や物件を維持しているので、ただ「売上が下がって困っているから」と自分の都合だけでお願いしても受け入れてもらうことは難しく、交渉が決裂するリスクが高くなります。相手の事情を汲み取るためにも、まず、交渉に臨むための材料を集めることから始めましょう。
家賃交渉をしようと思った際、押さえておくべきポイントは、“オーナーがどんな人物か”ということです。そもそも家賃とは、相場や経済状況を加味しながらも最終的にはオーナーの意向によって決まるもの。オーナーの情報をどれだけ集められるかが、交渉の成功率に関わると言っても過言ではありません。
まず、可能な範囲でオーナーが何を本業として収入を得ているかを調べ、それに対し、家賃が収入のどれくらいの割合を占めるのかを予想します。それを基に、自社の家賃が削減された場合、オーナーの収入にどの程度の影響を与えるか考え、可能と思われる家賃の削減幅を決めると良いでしょう。当然、これらの情報を全て集めるのは難しいので、大まかな予測で大丈夫です。
また、現場に出ることの少ない経営者が交渉を行う場合、普段のオーナーと現場社員の関係性や、物件の破損などのトラブルがないかも把握しておくことも重要。例えば、店の設備を壊してオーナーに迷惑をかけていたことも知らず、謝罪もなしに交渉を持ちかけてしまった……なんてことにならないようにしましょう。さらに、オーナーの性格もある程度知っておくと、交渉の際のアプローチに役立ちますね。商業施設などデベロッパーから借りている物件の場合は、交渉相手は管理会社の担当者にあたります。決定権は担当者自身ではなく会社にあるので、最初から話を聞いてくれないこともありますが、中には親身に耳を傾け、上に掛け合ってくれる人もいます。そういった担当者の心をつかむことが大切です。いずれにせよ、こちらの都合だけでなく、相手の事情や感情も加味して、交渉の流れをシナリオとして数パターンまとめておくと、うまく運ぶ可能性が高まります。
自店舗の現状と希望は、ありのままを伝える
まず、オーナーに家賃の削減を相談したい旨を伝えます。本来は直接対面すると良いのですが、新型コロナウイルスの影響が心配される昨今の状況では、電話で話すのが無難です。オーナーが相談に応じてくれるようであれば、現在の自店舗の状況を記した書面を送ります。削減幅などに関しても希望削減額を明記します。そして書面が届くタイミングで必ず電話を入れて書面の内容について直接お伝えします。
オーナー側の経済状況にもよりますが、今のタイミングであれば50%程度の削減依頼もまずは受け取っていただける可能性があるかと思います。新型コロナウイルス感染症の収束が見えない現在の社会情勢では、次のテナントの見通しが立たないことが、オーナーにとって大きなリスクです。そのため、家賃を大きく下げてでもテナントを埋めておきたいという心理が働きやすくなります。逆に、家賃の10%減程度といったように控えめな削減幅を提示すると、その額で決まってしまう可能性もあります。現在は少しでも大きな額の削減をご協力いただきたい飲食店が大半だと思いますので、変に遠慮をするよりも、自社の苦しい状況と必要な削減幅を、真摯にありのまま伝えることが、オーナーの心を動かすきっかけになり得るはずです。
最初に申し上げた通り、交渉ではオーナーとの関係性が最も重要なので、普段からオーナーや管理会社の担当者とコミュニケーションを取っていると、今回のような状況で役立つでしょう。また、経営者とオーナーが関わることの少ない状況であっても、自店舗が入居していることで発生するメリットをしっかり伝えることで、良い心象を与えることができると思います。例えば、自店舗があることで街の活性化につながっている、喜んでいる人達がいる、など改めて自店舗の存在意義を問い直し、そしてオーナーに伝えてみましょう。
このご時世、飲食店経営者は本当に辛いと思いますが、オーナーの事情をしっかり汲み取り、自店舗を応援してもらえるようなプランを立て、苦しい局面を乗り切るための一手になればと思います。