【開催概要】
開催日時:2020年1月23日(木) 15:00~16:30
池袋サンシャインシティ文化会館ビル
共催:フードスタジアム/焼肉ビジネスフェア事務局/居酒屋JAPAN事務局
【パネリスト】
六花界グループ CEO
一般社団法人 Experience 代表取締役理事
森田 隼人 氏
株式会社 クリスプ/株式会社 カチリ
代表取締役
宮野 浩史 氏
株式会社 和音人 代表取締役
外食5G 代表幹事
狩野 高光 氏
【コーディネーター】
大注目のパネリスト・6人が集結
大山 正(以下、大山):いま、メディアの立場においても時代の流れの速さを感じています。そうした中で、今回のセミナーのテーマは、「もうこれしかない!」ということで「未来型飲食店経営」にしました。最初は2~3人でやろうと思ったのですが、「この人にも話を聞きたい、あの人にも聞きたい」ということで6人になりました。盛りだくさんの内容になると思います。それではさっそく、パネリストの方々に自己紹介していただきます。
森田 隼人氏(以下、森田):六花界グループCEOの森田です。いま都内で焼肉店を6店舗営業していて、一般社団法人Experienceの代表としても、お肉とお酒を広める活動をしています。今日、なんで自分がお声がけいただいたかと言うと、大山さんと古い付き合いだからというのもありますが、僕がいろんなことを先駆けてやってきたからではないかと思います。日本の飲食店で初めてレストランにプロジェクションマッピングを取り入れ、VRで食を楽しむということも一番にやりました。自社のラボで7名のスタッフが食の対する研究も行っています。
森 智範氏(以下、森): M&Co.代表の森です。博多で「魚男(フィッシュマン)」という店をやっていて、飲食店経営、プロデュース・コンサル業、商品の卸業の3つの事業を軸に活動しています。ここに(プロジェクターの写真)紹介してもらっている刺身の階段盛りは、うちが元祖です。ガストロノミー料理を、居酒屋に転用するということを10年前からやってきました。
(今でこそよく見かける階段状の刺し盛は、森氏が元祖)
宮野浩史氏(以下、宮野):クリスプ代表の宮野です。僕は今、カスタムサラダ専門店「クリスプ・サラダワークス」を15店舗やっています。カチリというテクノロジーの会社もやっていて、最近騒がれている「モバイルオーダー」を3年くらい前から手掛けています。自社の課題を解決するためにアプリを作り、自社でセルフレジも開発し、現在は販売も行っています。
大山:宮野さんは外食アワード2019も受賞されました。おめでとうございます(会場から拍手)。次の高橋さんは今回、唯一、飲食店オーナーではありませんが、注目のグルメサイトを手掛けています。
高橋洋太氏(以下、高橋):SARAH(サラ)代表の高橋です。「SARAH(サラ)」は、従来のグルメ口コミサイトとは違って、一皿からレストランを探すグルメアプリです。例えば、「渋谷・ポテサラ」、「渋谷・麻婆豆腐」といった形でエリアと料理でググってもらうと、食べログさんやRettyさんよりも上に出てくるようになっていて、月間で100万人くらいに利用してもらっています。新規事業としては、「SARAH」に投稿されている口コミを分析し、いまこのエリアで、どんなお客様が何を食べているのかといったデータを飲食店や食品メーカーにに提供する「フードデータバンク」を昨年末から開始しました。さらに飲食店の紙のメニューをお客様のスマホに置き変える「スマートメニュー」という事業もテスト的に初めています。
狩野高光氏(以下、狩野):和音人(わいんびと)代表の狩野です。まだ独立してから4年ちょっとしか経っていないので、まだまだこれからの会社なのですが、三軒茶屋で直営店を7店舗やっていて、プロデュースした店も2店舗あります。他に山形で農業の事業もやっていて、今後はワイナリーや宿泊施設を山形に作っていくという流れになっています。
大山:狩野さんは、「外食5G」という若い経営者の勉強会の代表幹事も務めています。次の新井さんも35歳の若手経営者です。
新井勇佑氏(以下、新井):カオカオカオ代表の新井です。「タイ屋台999(カオカオカオ)」という屋号のお店を展開しています。タイ料理さんというと、「タイ料理レストラン」というイメージがあるかと思いますが、私たちは「タイ×居酒屋」という形でやってきました。自分は元々、外食産業に入る前は心理学の分野にいました。そうしたこともあって、僕は外食産業を心理学として捉えながら運営しています。その中で特に重視してきたのが「認知とと行動」です。お客様が店に来てから帰るまでのすべてを、心理学の認知と行動という観点から見ていくことで、いろんなムダを省くことができます。最終的にしっかりと利益を残すことを目指していて、「どの店舗も利益を30%残す」ことをスタッフたちも強く意識しています。
モバイルオーダーで何が変わるのか?
大山:皆さん、ありがとうございます。それではさっそく、各テーマに移りたいと思います。一つめは、未来型経営と言えばテクノロジーということで「モバイルオーダー」です。森さんがプロデュースした三光マーケティングフーズの「博多金の蔵」ではモバイルオーダーを導入していますが、まずどんな業態か教えてください。
森:元々、三光マーケティングフーズさんの「金の蔵」という店名は、マルコポーロが東方見聞録で日本を表現した言葉です。そこで、マルコポーロが博多を旅して見つけた逸品を集めた『セレクトショップ酒場』というコンセプトにしました。博多の経営者仲間たちが協力してくれて、博多の人気店の名物料理が一堂に会した業態になっています。
(三光マーケティングフーズが恵比寿にオープンした新業態「博多 金の蔵」)
大山:モバイルオーダーを導入したきっかけは何だったのですか。
森:人手不足に対応するために、以前からタッチパネルは使っていましたが、これは投資が大きい。そこで、お客様にQRコードでメニューをスマートフォンにインストールしてもらうモバイルオーダーを導入しました。お店にとって低投資なのが魅力です。
大山:私も3回ぐらいお店を利用しましたが、このモバイルオーダーは体感として利用金額が上がっていく感じですね。
森:そうですね。このモバイルオーダーは、飲食店ではまだまだ導入されていなくて、お客様にとっては新しい体験なので楽しさがあり、注文し過ぎる傾向があるかもしれません。実際、出品数が上がっています。
大山:新しいシステムということで、スタッフさんたちの混乱などはありませんか。
森:まったくないですし、人件費を下げるためだけに使うのはもったいないツールです。モバイルオーダーによってスタッフの手が空いた分、お客様とのコミュニケーションの機会を増やす。そういう活用法が大事だと思っています。
高橋:とても興味があるお話なのでお伺いしたいのですが、デバイスがタブレットからスマホになると画面が小さくなり、お客様にとっては使いづらいというデメリットもありますが、その点はいかがですか。
森:確かにそういう意見もあります。使い方をきちんと説明してあげることが大切です。
大山:高橋さんも新事業で「スマートメニュー」をテスト的に始めていますが、どんな考え方で進めているのですか。
高橋:スマホをデバイスにする場合、画面が小さくなるというデメリットがあるので、ポイントはインターネットにつながっている個人のスマホというところを意識して、消費者にどうメリットを与えていくかだと思っています。個人のスマホということは、その人が過去に何を食べたか、食べた料理をどう評価したかなどのデータからのリコメンド(顧客の好みなどを分析して、その顧客に適した情報を提供)や、何回来店したかという来店頻度のデータに合わせたサービスが考えられます。そうした点に着目していくと、スマホをデバイスにするメリットが大きくなります。
森:それは、ぜひ作ってくださいよ(笑)。
新井:卓上の紙のメニューをモバイルに変えると、お客様が注文を決定するまでにやらなければならないことが増えて、行動と認知の観点から言うと出品数が減りそうなイメージがあるのですが、逆に増えるのですね。
森:卓上には紙のメニューも置いていて、スタッフがそれを使っておすすめのコミュニケーションを図るようにしているので、そういったことが出品数が増える理由になっているのかもしれません。僕はテクノロジーに人の体温を入れることを特に意識していて、そういうオペレーションの組み方をしています。
大山:モバイルオーダーと言えば、卓上モバイルではありませんが、宮野さんの「クリスプ・サラダワークス」では本格的に導入しています。どんな特徴があるのですか。
宮野:まず、いま15店舗あるうちの5店舗は完全キャッシュレスです。フルサービスではなくカウンターでのセルフサービスの店で、セルフレジで決済まで行なっています。先ほど高橋さんもおっしゃっていましたが、我々の強みはパーソナライズです。従来のポスレジは何が何個売れたかという過去の情報ですが、そこに「誰が買ったか」という顧客情報が加わることで未来が分かり、リコメンドなどが可能になります。
さらに僕がモバイルオーダーの大きな長所だと思っているのは、価格の調整がしやすいこと。紙のメニューだと価格を変える度に印刷などが必要で、特に店舗数の多いチェーン店は大変ですが、モバイルオーダーなら価格変更を簡単に行うことができます。ピーク時は価格を高くして、オフピーク時は安くする、いわゆるダイナミックプライシングと言われるホテル業界などでは当たり前に行われていることを、飲食店もモバイルオーダーでやっていくべきではないでしょうか。我々もまだまだできていないことがありますが、店舗によっては売上の半分くらいがアプリ経由の注文になっています。店が混みだすのは12時くらいですが、朝の9時や10時にはすでに100件くらいの注文が入っていて、スタッフが余裕を持って作ることができるのも大きなメリットです。先ほど森さんがおっしゃっていたことと似ていますが、テクノロジーによって生まれた余裕を、人でなければ価値を生み出せない部分に使うということを目的にしていますし、僕だけでなく多くの飲食店のみなさんが、今そうしたマインドを持ってテクノロジー化を進めています。
飲食店の商機を拡大するデリバリー
大山:次のテーマは「デリバリー ゴーストレストラン テイクアウト」で、フードスタジアムでも非常に注目している分野です。今日、会場に来ているゴーストレストラン研究所の吉見さんのお店も、先日取材させていただきましたが5坪のキッチンで月に500万円を売っています。
※ゴーストレストラン研究所 記事はこちら
今、外食だけではなかなか答えが出しづらくなっていて、これからは外食と中食の垣根が無くなっていくと見ています。ということで実は私、この年末年始にウーバーイーツの配達員として働いてみました。六本木、麻布十番、新橋などで101回配達し、太ももがパンパンになりましたが(笑)、実際に働いてみると特に土日のランチなどは注文が鳴りやまず、デリバリーのニーズが大きくなっていることをリアルに感じました。宮野さんの「クリスプ・サラダワークス」の商品も何回か運びました。「クリスプ・サラダワークス」はウーバーイーツでも人気店ですが、デリバリーの比率はどれくらいになっているのですか。
宮野:平均でウーバーイーツの比率は2割弱ですが、店舗によっては約4割というところもあります。さらに言えば、全社平均でモバイルオーダーが3割、セルフレジが2割、デリバリーが2割なので、うちの場合、もう7割くらいがデジタルです。つまり、アプリを店だと思っているお客様がそれだけ多いということです。そうなると、店舗にかけてきてお金を、アプリに回すという発想も必要になってきました。何割か回すだけで、かなりすごいアプリが作れそうです。
森田:この分野が伸びていくことは、今さら言うまでもありませんが、僕も店舗経営の在り方がかなり変わっていく可能性があると見ています。ネットの世界でこれから重要になると言われているのが「OMO」。OMOはOnline Merges with Offlineの略称で、オンラインとオフラインが統合されていくという意味合いです。これまではOnline to Offlineの「O2O」で、オンラインからオフラインに集客するためにSNSなどを頑張りましょうということが5年前くらいから言われてきましたが、現在のようにデリバリーやテイクアウトのオンライン注文が当たり前になってくると、もうオンラインとかオフラインの区別ではなく、それありきの店舗運営になります。そうなってくると、もしかしたら店舗は「体験の場」になっていくのかもしれません。店舗での体験でお客様との信頼関係を築き、家にいる時にアプリを使ってデリバリーなどで注文をしてもらう。そういうところで頑張るマーケティングの仕方に変わっていく可能性があり、これは飲食店に限ったことではありません。すでに中国では、売上の7割がアプリからの注文というスーパーもあるし、化粧品などの業界でも同様のことが起きています。
宮野:おっしゃる通りで、今、アパレルの店舗がショールームのような体験の場になっているのと同じです。飲食店の店舗が体験の場になることは、働く人たちにとってもプラスだと思います。店舗だけで売上を確保しようとすると、忙しさで丁寧なサービスがしづらくなります。デリバリーなどで販売チャネルを増やせば、店舗自体がそれほど忙しくなくても売上を確保でき、スタッフもサービスに注力しやすくなります。それが働く楽しさにもつながります。
森田:デリバリーによって中食の市場を取り込んでいくことができるのは、飲食店のみなさんにとって大きなチャンスなのではないでしょうか。これによって飲食店の市場規模が、今後伸びていく可能性もあると思います。
~後編に続く(近日公開予定)~