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【海外取材企画】フードスタジアム主催ポートランド・シアトル・サンフランシスコ視察ツアーレポート 第3回 ポートランド編 〜その3〜

第3回は、最後のポートランド編をお届けする。今回のテーマは「イートローカル」。この街を歩いてみると、誰もが「地元産」に強いこだわりをもっていることに驚く。「食」になると、その傾向はさらに強まる。人口62万人、豊富な生産地を擁する地方都市だからこその「イートローカル」がある。この街が確立するその地産地消モデルを取材した。
(レポーター/望月みかこ)

ポートランド州立大学で毎週土曜日に開かれる“Portland Farmers Market”
近郊の農家が出展するブース。新鮮な地元の食材を買い求めに、一般客だけでなく、地元のシェフたちも多く訪れる
“Portland Farmers Market Associaiton”が主催する6つの市場のなかでも、PSUでひらかれるのは最大級。毎週土曜日、約2万人の動員数があるという
農産物の販売だけではなく、クレープリーなど飲食、物販などの出展も数多くある
市場の中心に設置された食器の返却ボックス。ゴミをださないため施策が徹底されている
毎週末長蛇の列をつくるポートランド発のアイスクリーム店。地元産、オーガニック食材で手作りする。他店では味わえない風変わりなフレイバーが魅力だ
同店で定番人気の“Strawberry Honey Balsamic with Blackpepper”。イチゴとバルサミコの意外な組み合わせが面白い。酸味と甘味のバランスが絶妙で美味!
はちみつなどの使用している食材は、店内の棚にディスプレイして販売する。すべてオレゴン州産。“MADE WITH OREGON'S BEST”だ

地産地消を支えるファーマーズマーケット

土曜、午前9時——。ひんやり澄んだ空気が気持ちのいい休日の朝。
街の中心に位置するポートランド州立大学(PSU)では、朝からたくさんの地元の人たちでにぎわう。ここはその規模と先進性から「アメリカズベスト」として知られる“Portland Farmers Market”だ。NPO団体“Portland Farmers Market Association”が運営する。彼らのミッションは、「地元の小規模農家を支援すること」。1992年に駐車場の一画を借りて、13農家からはじまった。現在では120〜160の出展者と2万人の地元民が毎週土曜日、PSUのキャンパスに集い、祭りのような活気を呈する。彼らはこの場所を含めて週6日、市内の様々な場所でファーマーズマーケットを開催している。

市場を歩いて最初に気づいたのは、どこの出店者も、商品を入れるレジ袋や紙袋などの包装資材を一切使っていない点だ。みんな商品をそのまま客に渡す。客はケールだろうがジャムだろうが、持参したエコバッグやリュックにそのまま入れて持ち帰る。キッチンカーも使い捨ての紙皿などは使わず、食器で提供する。食べ終わったら、店の名前が書いたボックスに返却する。ゴミを極力出さない、という環境への配慮が細部にまで行き届く。
出展者もバラエティに富んでいておもしろい。日本では農家などの生産者がメインで、キッチンカーが少々というイメージだが、ここは違う。生産者だけではなく、市内の人気レストランやベーカリー、パティスリーなどもこぞって出展する。生産者、加工業者、飲食店がごちゃまぜだから、訪れる人をさらに楽しませる。
出展者の8割は、オレゴン州かワシントン州の160km圏内からやってくる。東京からだと、栃木県那須塩原市あたりまでの距離だ。流通時に排出される二酸化炭素を抑えるため、運営側で出展者を選別する。出展希望のウエイティングリストはいつまでたっても長いままだ。
92年にはじめた当初は、出展者が足りず、厳しい運営を強いられていた。そんな時、彼らの活動を支えたのは、地元の飲食店だった。シェフたちは市場が開かれると、地元でとれた新鮮な食材を毎回買い付けにきた。彼らにとっても、十分なメリットがあったからだ。新鮮で、旬のものが手に入るだけではない。生産者から食材について生の情報が得られる。食材への理解が広がり、それを新たなメニューにいかせる。そして、地元産食材を購入することで自分たちが住むコミュニティを活性化できると考えたのだ。

最近、東京でもよく見かけるようになったマルシェやファーマーズマーケット。直接、生産者から購入できるところに魅力がある。どのように育てたのか、どのように調理するのが美味しいか、旬の野菜はどれか、など様々な情報を聞くことができる。日本でも「生産者の顔が見える」や「食の安心・安全」への関心が高まってきているが、まだなにか足りない印象をうける。それはなんだろうと考えた時、“Portland Farmaers Market”を見て思った。「飲食店と生産現場がまだまだ遠いな」と。
この街では、どの店で食事をしても、使用している食材についての情報が圧倒的に多い。メニューには書かれていなくとも、店内のどこかに生産者や食材に関する説明が見られる。一見すると「オーガニック」や「ローカル」という言葉とは無縁にみえる「ザ・アメリカン」な店でも、やはりメニュー表には「オレゴン州産」や「オーガニック」のマークがつけられている。
それを支えるのは「地産地消」や「産直」。ファーマーズマーケットや生産者とのコミュニケーションなのだろう。

地元に密着するということ

「イートローカル」を支えるのは、地元の飲食店の大切な役割の一つでもあるだろう。この街では、「オレゴン州産」であることは、もはやスタンダード。その上で、オーガニックや生産過程や製造方法などをうたう。
今回の旅で、特に印象に残った「イートローカル」な店を紹介したい。

地元で大人気のアイスクリーム店“SALT & STRAW”だ。州内の生産者から仕入れた食材で、毎日アイスクリームを手作りする。「梨とブルーチーズ」や「ストンプタウンコーヒーとバーンサイドバーボン」など独自のメニュー開発が受け、毎週末1時間以上の行列をつくる。市内に3店舗展開する。平日のお昼過ぎ、行ってみると、行列こそないが、続々と地元客が訪れては、テイクアウトの大きなパックを買って帰る。
食材はすべて地元産でオーガニックのものを使用。その見せ方も、くどさがなく自然だ。店内の一画にラックをつくり、そこに使用している食材や商品をディスプレイ。地元の生産者や業者との「コラボ」だ。
同店は2014年、ロサンゼルスでポップアップストアを開いた。そこでも大行列ができ、人気を博したのをきっかけに、ロサンゼルスにも新店をオープン。もちろん「地元密着型」だ。ロサンゼルス店では、近郊でとれる食材を仕入れ、ポートランドとはまったく違ったメニューをゼロから開発するという。
その柔軟性、クリエイティビティがまた新たな客をつかむ。チェーン展開だからといって、全店舗で同じメニューを出す必要はない。「メニューの独自性、クリエイティビティ、地元の食材を使用して、安心して子供にも食べさせられる、新しくて美味しいアイスクリームを提供する」というのが“SALT & STRAW ”のブランドなのだから。

イートローカルの利点と課題

「イートローカル」が地域経済を自立させるために必要な取り組みであることは間違いないが、それにもまだまだ課題がのこる。

「イートローカル」の利点は
・ 流通の時間・コストが抑えられるため、鮮度がよく、ちょうど食べ頃の商品の取引ができる
・ 余分な包装資材や流通コストを抑えられる
・ 農協を通じた流通・販売ルートになじまない生産物の出荷先の確保ができる
・ 生産者と消費者の相互信頼、継続的関係が築ける
などだろう。

一方、課題としては
・ 市場が小規模なため、需給調整が困難
・ 同じ商品の安定的な供給が困難
・ 出荷量の変動で、価格が乱高下しやすい

まだまだ「イートローカル」が進んでいない日本。農業地帯をかかえる地域でも、産業分野別収支を見ると、大赤字になっているところが多い。つまり、一次生産物を県外に出し、県外で加工された商品を高くかっていることを示している。これではいつまでたっても自立した地域経済を築けない。「イートローカル」はそのためにも必要な取り組みと言える。

飲食店を含む消費サイドが、常に同じ物を同じ量だけ求めるという凝り固まった考えから脱却すれば、「イートローカル」のハードルはもっと低くなるのではないだろうか。
経済が成熟した先進国では「物」はもはや価値ではなくなってきている。いつでも、どこでもインターネットを通じて物を手に入れることができる時代、当然の流れだろう。人々は「物」の背後に広がる風景に目を向けだしている。生産地、作り手、地域経済、自然環境……。「食」の背後には、様々な問題が横たわっている。
「イートローカル」を実現するには、ほんの少しでいい。目の前の食材の背後に広がるストーリーに思いを馳せてほしい。そうすることが、生産者やその労働、自然環境に対する感謝の気持ちを生み、消費と生産の距離をもっと近づけるだろうと思う。

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