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【海外取材企画】フードスタジアム主催ポートランド・シアトル・サンフランシスコ視察ツアーレポート 第2回 ポートランド編 〜その2〜

第2回は、前回に引き続きポートランド編をお送りする。今回のテーマは「コラボ」。この街をつくる最も重要なキーワードだ。新たな「コラボ」の意義、その先に生まれる価値を、ポートランドの「飲食」に学ぶ。
(レポーター/望月みかこ)

"SE WINE COLLECTIVE"の醸造所。10社の地元ワイナリーが利用する
"SE WINE COLLECTIVE"のテイスティングルーム。併設のワイナリーでつくったもののほかに、オレゴン州産を中心として各国のワインを揃える
“LARDO”オーナーRick Gencarelliさん(右)と、ポートランドツアーをアテンドしてくれたRed Gillenさん(左)
連日満席の“LARDO”のテラス席。夜遅くまでビールとサンドイッチを楽しむ地元の人たちでにぎわう
“LARDO”テラスの一画にあるフードトラック。
この日は、カップルでミニケーキをつくるパティシエが出店していた
“IMPERIAL BOTTLE SHOP & TAPROOM”のオーナー夫婦、Alexさん(右)とShawnさん(左)
450種類以上のボトルビールがそろう。一つ一つに産地や味わいなど丁寧な説明がされている
“Pip's Original Doughnut & Chai”オーナーのNate Snellさん。店内カウンターの前で
お寿司からインスパイアされたという「揚げたてミニドーナツ」は3個2ドル。シナモンシュガーやローハニーシーソルトなど6種類

競争社会から共存社会へ。新たな「コラボ」の意味

「コラボレーション」は、もともと共同作業や共同製作、共演を意味する言葉だ。日本では2000年ごろから、広告業界で使われはじめ、以来、アート、ファッション、音楽など分野を問わず、その使用領域を広げてきた。今では、お菓子からマンガ、ゲームなど何でも「コラボ」する時代になった。翻って、こと日本の飲食業界においてはどうか。競争が激しく、10年後も生き残っている店は10%以下ともいわれる。その文化はまだまだ根付いていないのが現状だ。
今回は、一般に認識されているものとは違った概念、意味が加わったポートランドの新たな「コラボ」をご紹介したい。

零細企業もたくさん集まれば長く続く!?

街の南東部、サウスイースト地区。ニューメキシカンやタイ料理などエッジの効いた繁盛店が立ち並ぶディヴィジョンストリートを歩くと、“SE(South Eastの略) WINE COLLECTIVE”と書かれた立て看板が見えてくる。テイスティングルームを備えた「アーバンワイナリー」だ。入り口左手には約140坪の広大な醸造所が広がり、ワインのあたたかな香りが立ちこめる。右手には、落ち着いた雰囲気のテイスティングルーム。オーク樽で内壁やバーカウンターを装飾してあり、歴史あるワインライブラリーのような知的な雰囲気を醸し出している。4つあるタップからは「生ワイン」が注がれ、「ワイングラウラー」に入れてテイクアウトも可能だ。食事は、チーズやシャルキュトリーなどの軽食が主。アーバンワイナリー、すなわち市街地にあるワイン醸造所は、ポートランド市内に15軒ほど存在するが、ここは一風変わった取り組みで注目を集めている。

その理由は、醸造スペースと設備を地元のワインメーカーに貸し出し「コラボ」する、ポートランド唯一のアーバンワイナリーだからだ。同店の設備を利用するワイナリーがつくった、個性豊かなワインを併設のテイスティングルームで販売、提供している。
ワインの醸造設備はかなり高額だが、使うのは1年に1度だけ。資金や規模が足りず、設備を持てないワインメーカーが利用するこのような共用型の醸造設備は「カスタム・クラッシュ」(受託醸造所)と呼ばれる。ナパやソノマカウンティなどワインの一大産地を抱えるカリフォルニアでは広く普及しているが、市街地にある「カスタム・クラッシュ」は世界的にみてもかなり珍しい。
オーナーは、ワインギークの夫婦Joe MoroeさんとKate Monroeさん。オレゴン州のブドウの産地ウィラメットヴァレーのワイナリーで、2年間ワインメーカーとして経験を積んだ後、家の近所にワイナリーがほしいと思い立ち、2012年8月、同店をオープンさせた。現在、インキュベーターやワインコンサルとしても活躍するオーナーのKateさんに話をきいた。
この店の目的は「地元のマイクロワイナリーを紹介すること。車でなくても通える、肩肘はらないテイスティングルームが市内にあれば、それができて面白いなってずっと思ってたの。地元の個性豊かなワインを飲み比べて、楽しんでいってほしいです」。
オレゴンワインは、カリフォルニアワインと同じくらいレベルは高いそう。違いは生産規模。特にポートランドのワイナリーは、ガレージで作り始める程の小規模生産が多い。だからこそ、ワインメーカー一人ひとりの思いと個性が宿った「人」らしいワインができる。大量生産品には決してない良さがある。そういった「小規模なワイナリーを持続するビジネスにしたいと、心を同じくする仲間が集いコラボしたのが、このお店なの」とKateさん。「コラボ」を通じて、本来なら1社では続けられない小規模なビジネスを持続可能なものにする。これがこの店のミッションだ。

ポートランドの街を歩けば、いたるところでいろんな形の「コラボ」に出会う。朝のコーヒーショップ。地元ベーカリーのペストリーが店の紹介つきでディスプレイに並ぶ。昼。レストランへ入ると、まず目に飛び込んでくるのは、食材をつくった生産者の名前がデカデカと書かれた巨大な黒板だ。ブランチに、とブルーパブに立ち寄れば、食事は地元人気店のものだし、ビールも1、2種類はゲストタップ、同業者のものだ。ディナーに行けば、いつもとは違うシェフが厨房に立ち、期間限定ポップアップイベントで腕を振るう。
生産者、シェフ、オーナー、異業種、消費者が、「食」を中心に有機的なつながりをもち、新しい価値を生み出す。それが、ポートランドの「コラボ」だ。その根底に流れるのは、「競争」ではなく、自分たちの住む地域を一緒によくしていこうとする「共存」の精神だ。ポートランドが先進的であるのは、街全体、住民一人ひとりにその精神が根付いているから、なのだろう。

フードトラックビジネスにみる「次世代支援型コラボ」

「競争しない」という新しいビジネスの選択。その好例を、ポートランドのフードトラック業界に見ることができる。ポートランド市内には、いつか店をかまえることを夢見るフードトラックが700以上存在する。バーガー系やアイスクリーム、ピザからコリアン、ラーメン、はてはたこ焼きまで、みんな思い思いのメニューで勝負する。この背後には、フードトラックを「コラボ」によって支援する飲食店が数多く存在している。
市内に3店舗展開するサンドイッチ店“LARDO”もその一つだ。連日、テラス席まで満席が続く超人気店。その一画に小さなフードトラックがある。日替わりで、独立を目指すスーシェフやアシスタントシェフ、パティシエなどの飲食人たちに無料で場所と設備を提供するポップアップストアだ。意欲ある彼らの作品は、斬新でユニークなものが多いが、作品を発表する場がない。そこで、集客力、発信力のある同店のフードトラックが役立つ。一日出店するだけで、多くの人に知ってもらえる。今年の夏は14社に貸し出しだそうだ。「次世代支援型コラボ」だ。
彼が小さなサンドイッチ屋台を構えたのは、わずか5年前。アルバイト1人と、3種類のサンドイッチからはじめた。多いときで1日200本を売った。2012年、フードトラックを売却して、サウスイースト地区に物件を購入。念願の店をオープンした。今では10ドル前後のサンドイッチだけでも、1店舗で1日800個以上を売り上げる大繁盛店だ。こんなことをはじめた理由をオーナーのRick Gencarelliさんに尋ねた。「僕はフードトラック1台からサンドイッチ屋をはじめたんだ。その頃、いろんな苦労を経験してね。だから、小さいけど、個性的な地元の飲食店を応援したいと思うんだよ」と満足げな笑みをうかべて、答えてくれた。

ローカル、ネイバーフッド規模だからこそできること

さて、ポートランドは「コラボ」にあふれた街だ、ということをこれまでご紹介してきたが、その先には何があるのだろうか。効率化によるコスト圧縮や、お互いの繁栄にとどまらない。あくまで地域貢献、コミュニティづくりが目的だ。そんな「コラボ」を実践する店を2つ、取り上げたい。

1つ目は、“IMPERIAL BOTTLE SHOP & TAPROOM”。2013年7月に開店して以来、老若男女さまざまな常連客でにぎわう。450種類以上のボトルと16タップという圧巻の品揃えで、地元の人から愛されているビアバーだ。
私たちが訪れた時はちょうど「フレッシュホップナイト」というイベント中。ビールの重要な原料の一つである「ホップ」。世界で24%のホップがオレゴン州とその隣りのワシントン州で生産されている。全米のシェアになると、90%にのぼる。収穫から1時間以内にボイルされたホップをウエットなままつかったビールが「フレッシュホップビール」だ。香りが強く、味わいが豊かでしっかりしているが、とてもまろやか。近くにホップの産地があるこの土地ならではの贅沢な楽しみ方だ。
経営するのは、AlexとShawn Kurnellas夫妻。二人ともかなりのビールマニアだ。ホップをかたどったネックレスやホッププリントのTシャツをまとう、とても愛らしいカップルだ。毎日、昼間から常連客でにぎわう同店について、彼らに話をきいた。
「うちのコンセプトは、“Neighborhood Bar”。自分自身も行きたくなるような、20代から90代まで近所の人が誰でも気軽に通えるバーを目指してるんだ」とAlexさん。確かに二人とも常連客にしかみえない。
「ローカルビジネスを応援したい」という思いから、彼らが扱うビールはマイクロブルワリーに限る。ほとんどが地元オレゴン州産。フードは、近くの飲食店との「コラボ」して、持ち込み制。キッチンはない。「店づくりで一番大切にしているのは、お客さんとして来てくれるご近所さんと会って話すこと」。そうすることで、近隣住民の支持を得、いつしか人をつなぐ拠点となる。近隣コミュニティをより良くしようと、関係を深める取り組みにも積極的だ。学校の先生と生徒たちの父母を招待して、懇親会イベントを主催。参加費として集まったお金は「もちろん地元に寄付した」という。
彼の父、祖父は二代にわたりレストランを経営していた。特に父はホームレスを皿洗いとして雇うなど地元への貢献を忘れなかったという。そんな父の背中を見ながら育った彼にとって、自分の住む地域に還元していくという店づくりは自然なことなのだろう。「ネイバーフッド」だからこそできること、役割を実践している。

もう1つは、今回の旅で最も印象に残った店“Pip’s Original Doughnuts & Chai”だ。注文を受けてから揚げるミニドーナツとオリジナルのチャイを提供するカフェだ。「ドーナツに対する考え方に、革命をおこしたかった」とオーナーのNate Snellさん。お寿司からインスパイアされ、一つ一つが小さな作品のようなミニドーナツを開発したそう。注文を受けて、その場で調理、提供するため、保存料や化学調味料の必要性がない。地元の生産者から食材を仕入れ、揚げ油にはオーガニックの大豆油を使用する。
“Simple and Excellent!”がコンセプトだ。

Nateさんは、これまでギター職人、真空管職人、アラスカで漁師、銀行員など多くの仕事を経験してきた。奥さんがケイタリングビジネスを7年前にはじめ、そこに合流するかたちで揚げたてドーナツとチャイの店を2013年、オープン。

同店のロケーションは住宅街、ファミリーフレンドリーな店づくりを心がけている。周辺の家族と良い関係を築いてきたからこそ、口コミで広まり、わずか3年で大人気店へと成長をとげた。1日に平均5500個、平日で1時間に400個、休日では600個ほどを売り上げる。平日の午前中にも関わらず、子供連れのファミリーやmac bookを抱えたオシャレな若者、女子グループなどたくさんのお客さんで店内はにぎわい、みんなリラックスした時間を過ごしている。

この店も、「コラボ」を通じて、近隣との良好な関係づくりに取り組んでいる。例えば、近くのネイルサロンと一緒に、同店のドーナツ色のマニキュアを開発して、販売。その売上はすべて地域に寄付した。ほかにも、店のイートインスペースを無料で一日貸切、近隣住民が自宅の庭で栽培した野菜の交換イベントを主催した。ビジネス成功の鍵は「周りのコミュニティをより良くつくることだ」と考え、地域との「コラボ」で関係を深めている。

自分が住む地域やそこに住む人々としっかり向き合う飲食店は、周りの人を引き寄せる力を持つようだ。
「効率」や「競争」なんて言葉に疲れはじめているのが、今の時代だろう。それに対するひとつの解を提示しているのが、この街、ポートランドなのだ。

飲食店が、人を集め、街を作り、やがて変えていく。オーナーに強い思いがあれば、それは街だけでなく、やがて国や時代をつくる大きな流れになっていくだろう。それは一人でやるには、あまりに時間がかかりすぎる。「コラボ」がその近道かもしれない。
これはただの理想論だろうか。だが、私はその理想が実現された店や街をこの目で見た。みなさんも、一度自分の足で確かめに行ってほしいと思う。
(ポートランド編〜その3〜に続く)

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