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【新・外食ウォーズ】3年後主力の「和民」「わたみん家」の構成比を6割まで下げ、4割を専門店業態に転換する~~ ワタミ 社長 桑原 豊


140806_gaisyoku_wars01.jpg居酒屋大手のワタミは14年3月期連結決算で最終損益が49億円の赤字に転落した。主力の居酒屋チェーンの「和民」「坐・和民」「わたみん家」が不振で、介護事業も既存施設の入居率が84・9%にとどまり、成長を牽引してきた宅食事業も競合他社の参入が続き、計画を下回ったからである。赤字決算は1996年に上場して以来、初めてのことだ。ここ最近の「ブラック企業」批判も一部業績に影響したようだ。ワタミ社長の桑原豊は決算発表の会見で「今年4月に入社した新卒社員が120人で目標の半分にとどまった」「我々の成長戦略が曲がり角に来ている」などと語り、「ゼロからの再出発」を強調した。
これより先の08年6月、ワタミで勤務していた元女性社員が自殺。これが労働災害認定された。ワタミは6,000人以上働く職場の労働環境を客観的に確認すべく13年6月に外部有識者による業務改革検討委員会を発足させた。同委員会は社員向けにアンケートを取るなど様々な角度から調査・分析し、過去に「所定労働時間を越える長時間労働」があったと指摘、「現場での人不足の解消」を提言した。これを受けてワタミは「労働環境の改善」「コンプライアンス経営の強化」策を打ち出し、そして中期的な取り組みとして「働き甲斐のある職場づくり」を掲げた。先ず桑原は、国内640店舗のうち約1割にあたる60店舗を14年度中に閉鎖すると発表した。閉鎖する店舗で働く100人の正社員と670人のアルバイトを近隣の店舗に振り分け、1店舗あたりの人員を増やす方針だ。
「店舗閉鎖は14年3月からスタート。14年7月中旬現在で40店舗閉鎖、あと20店舗は15年3月末までに実施します。中途採用なども継続して行い、最終的に1店舗あたりの社員数をスタート時の1・86人から2・20人へと大幅に増やしたい」(桑原)
桑原は営業時間の短縮にも踏み切った。通常平日は深夜3時、週末は深夜5時まで営業しているが、需要の少ない店舗を中心に平日は深夜1時、週末は深夜3時に短縮した。さらに毎月1回店長の会議・研修は業務時間外に行われていたが、半分に減らした。また階層ごとの研修会では課題図書を選定、レポート提出を義務付けていたが、これも見直した。ワタミグループの成長を支えてきた「理念教育」は方針は変えず営業中にOJT(職場内教育)方式で行うなど、やり方を変えた。一方では異動の伴わないエリア限定社員制度の導入、時短社員や障がい者の雇用、女性社員の活用など働き方の多様化を進める。働きがいのある職場づくりのためにメンタルヘルスの相談窓口を設けるなど「労働環境の改善」に努める。宿泊・サービス業では新卒3年後の離職率は平均約50%だが、桑原は離職率を全産業平均の30%以下に抑えようと考えている。

3年後主力の「和民」「わたみん家」の構成比を6割まで下げる

140806_gaisyoku_wars02.jpgワタミの外食事業が不振なのは国内640店舗の9割を占める居酒屋チェーンの「和民」「坐・和民」と「わたみん家」の既存店が前年対比割れを続けているからだ。どちらの業態も客単価3000円未満であるが、桑原は「客単価2000円台や3000円以上の専門性を兼ね添えた既存業態は好調なのに、客単価3000円未満の総合型居酒屋は差別化できずに苦戦している」という。
ワタミの飲食店は「和民」「坐・和民」と「わたみん家」の3業態以外は、新業態を含めそれぞれ好調である。社員独立支援用に開発された炭火串焼と旬鮮料理の店、居食屋「炭旬」(標準店15~20坪、初期投資1000万円~)は22店舗展開、年内もう5店舗開店する予定だ。桑原は、「炭旬」(30坪70席、初期投資約2000万円)の直営店をオープンし、「売上高でも稼ぐ」店作りを進めようとしている。アメリカンレストラン&バーをコンセプトにする「TGI フライデーズ」も絶好調だ。昨年3月大阪に「ユニバーサルシティ ワコウビル店」(188席)、今年4月に名古屋店(170席)を開店した。名古屋店は名古屋駅前の新しい商業施設への出店で話題も呼び、日商100万円をたたき出している。今年10月には大阪・梅田に国内14号店を開店する予定だ。
「新規業態は今年2月に中華業態の『WANG’S GARDEN』を開業。好調で、この業態はショッピングモールなどこれまでにない新商圏に出店するつもりです。
今年3月にはワタミの中では客単価が4000円と一番高い『炉ばたや 銀政』を銀座にオープンしました。非常に好調で『銀政』は「坐・和民」を業態転換して9月に六本木、11月には新宿野村ビルに開店する予定です。年末にかけてもう1~2店舗オープンしたいと思っています」(桑原)
140806_gaisyoku_wars03.jpg 桑原は今後も年に1~2店舗新業態を開発し、反響を見ながら展開を考える方針だ。これまで大手チェーン店は「1業態3ケタ出店(100店舗以上)」を念頭に展開してきた。だが少子高齢化、人口減少社会、若者のアルコール離れなど飲食業界を取り巻く環境が激変する中で、1業態で500、600店舗と出すのが難しい時代に入った。これからは「専門店化」「多様化」をキーワードに、1つのブランドで20~30店舗展開、10ブランドで200~300店舗展開するというのが、チェーン店の店舗展開の考え方になりそうだ。桑原はワタミの外食事業の復活は「専門店」の「多業態戦略」で進めようとしている。
「2年半後の17年3月末時点で主力の『和民』『坐・和民』『わたみん家』の構成比を『仰天酒場 旨い屋』を受け皿に、現在の9割から6割まで下げてゆく計画です。後の4割は好調な新業態を再配置してゆきたいと思っています。その時点の店舗数はトータルで700店舗を想定しています。総合型居酒屋の『和民』『坐・和民』『わたみん家』は不振とはいえ、3年後でも依然としてボリュームゾーンを形成していると思います。したがって『和民』『坐・和民』『わたみん家』は客単価を5%値上げし、それに見合ったキラーコンテンツとなる付加価値のある、圧倒的なメニューを提供しようと考えています」(桑原)
ワタミは外食産業の中では農業でも先行しているが、北海道の「花畑牧場」と提携、安全・安心・手づくりの独自の6次産業モデルを構築する企業間のコラボレーションを展開している。桑原は3ヵ年計画でワタミの外食事業の再構築を推進する。創業者で参議院議員の渡邉美樹はフェイスブックで「赤字は絶対に繰り返してはならない」と発言し、経営陣に奮起を促している。
ワタミは渡邉の「創業の時代」(起の時代)から「守成の時代」(承の時代)に入ったといわれる。だが桑原は「創業と守成」を同時にやり遂げなければばらない、大仕事を任されたように思われる。桑原はこの難局を乗り越えて名実ともにワタミの2代目実力経営者に脱皮できるかどうか。
桑原の挑戦は2~3年先の「外食ウォーズ」の構造変化を知るうえでも非常に興味深いのである。

(文中敬称略)
〈新・外食ウォーズ〉
外食ジャーナリスト 中村芳平

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