金浦空港のゲートを出るとすぐにバス乗り場がある。バスに乗り込み全州に向けて出発した。韓国のリムジンバスは座席の間隔が広く、二列と一列の座席になっている。そのため一人の移動にも隣を気にすることなく目的地に向かうことが出来る。夕暮れの綺麗な夕日を見ながら、リクライニングシートを倒し約四時間の移動を楽しんだ。途中サービスエリアで休憩があり、そこで韓国式のおでんを楽しみながら向かった。
■全州市とは…
全州は1200年の歴史の地であることは第一回のレポートで記したが、様々な伝統的な建物が残されているためたくさんの観光客が訪れることで有名である。また「食の都」としても有名であり、全州の特産品は「全州八味」と呼ばれ、全州の食べ物は韓国の中でも最高とされ、全州の人の味覚のレベルは高いといわれている。全州韓屋村に隣接する南部市場は、朝鮮時代の三大市場といわれており、地元の特産品やスンデクッパ(スンデとは、豚の腸に豚の血・野菜・肉を詰めたもの)など、全州のグルメが満喫できる市場もある。南部市場にあるスンデクッパの店は、外にまで行列ができるほどの賑わいをみせていた。
全州は文化的にも発達している地であり、毎年行なわれる全州国際映画祭など様々な見どころがある。全州国際映画祭のメインストリートである「シネマストリート」や高士洞にある明洞のような全州1の繁華街「歩きたい道」など映画館や屋台やカフェなどの施設があり、全州の若者が集う。
このように様々な食や文化がある全州市。全州の名産物を語る上で欠かせないのが「ビビンバ」と「豆もやしクッパ」である。今回は「食の都」全州から生まれた「全州ビビンバ」と「豆もやしクッパ」の有名店を訪ねてみた。
■全州ビビンバ発祥地「韓国屋」
1952年創業の全州ビビンバの発祥地とされている専門店。ソウルにあるロッテデパートがオープンと同時に進出しており、韓国の数多くの著名人が愛した味である。「ビビンバ」の由来は韓国語で「混ぜたごはん」という意味がある。ここは2011年の韓国版のミシュランガイドにも掲載され、世界に認められた味であるといえる。この店ではおかずのおかわりは自由であり、各自で取りに行くというスタイルである。後で調べていて分かったことであるが、全州の名店の中ではもともとのご飯に味がついているものもあるという。こちらでは白米の上にナムルや野菜がのっていた。私たちはスタンダードのビビンバと石焼ビビンバを注文した。食べてみると、野菜の量とご飯の量がちょうど良かった。ついてくるおかずのチョレギサラダも私好みの味でとてもおいしかった。ここの醤油は60年間継ぎ足して使っているというこだわりのもの。ビビンバは石焼きと石焼ではないビビンバの2種類ある。私は最後に、ここのトイレを利用したが、とても清潔で掃除が行き届いているという印象を受けた。本場のビビンバを食べてみたいのなら一度は足を運んでみてはどうだろうか。
(住所・全州市完山村殿区2-1)
■豆もやしクッパ「三百家」
ビビンバ以外にも、全州にはとても有名な郷土料理がある。それは「豆もやしクッパ」である。ここの豆もやしは、100パーセント国産のものを使用している。以前は店頭で豆もやしの直接栽培を行っていたが、最近では使用量が増えたことから一括管理して栽培しているという。ここのメニューはなんと三種類のみである。豆もやしクッパ、牛の血を固めて寒天状にしたソンジクッパ、モジュというマッコリにシナモンを入れて作ったものである。
豆もやしには、アスパラギンが入っており、アルコールを分解する効果があるといわれている。この店は24時間営業なので、酒の締めにくる人もいれば、二日酔いの辛い朝に食べにくる人も多いという。
いりこのだしでとったスープに、豆もやしと卵、そしてご飯が入っている。たったそれだけしか具がはいっていないが、薄味でとてもおいしい。辛くはないので子供や辛い物が苦手な人でも食べることができる。薄味が物足りないようなら、桜えびの塩辛を入れると塩味がでる。また辛さがほしいのであれば輪切りの青唐辛子をいれながら調節すればよい。ほかのおかずは、目玉焼きと韓国海苔(豆もやしを海苔に包んで食べるのが良し)、牛肉のしょっぱく煮た柔らかいものがあった。ここは一同大絶賛し、完食した。ソウル旅行歴の長い私だが、豆もやしクッパは食べたことがなかった。こんな美味しいものをどうして知らなかったのだろうと後悔した。そのくらい「三百家」の豆もやしクッパにハマってしまった。24時間営業なので、滞在中に是非食べてみてほしい。
(住所・全州市完山区高士洞454-1)
■観光の見どころは…
豆もやしクッパと全州ビビンバ以外に全州の名物といえば「マッコリ」である。全州は韓国の三大マッコリの1つであり、全州を代表する酒である。全州のマッコリのスタイルはちょっと変わっているのである。メニューはマッコリのみであり、マッコリを注文するとやかんにペットボトル約三本分のマッコリが入れられて出てくる。何故マッコリをやかんに入れて飲むのか尋ねてみたところ、昔は甕に保管し飲みやすいようにやかんに入れて飲んでいたのだという。その名残を今も受け継いでやかんにいれたマッコリを楽しんでいるらしい。日本の韓国料理店でも最近よく見られるようになったが、源流はここ全州なのである。
先ほど記したように、全州のマッコリ店のシステムはとっても面白い。マッコリ店のメニューはマッコリのみで、これを頼むとテーブルに乗り切らないほどの沢山のおかずが出てくる。つまり、メニューはマッコリを頼むとおかずがついてくるシステムである。また頼めば頼むほどおかずの料理のクオリティーが上がっていくのが面白い。同じものが二度出てくることはなく、毎回違うものが出てくるのも驚き。おかずには貝類や枝豆、刺身やスープなど様々なものがある。どの店もだいたいマッコリ1缶2万ウォンで、二回目以降だと安くなる。店員にマッコリ、と頼めば自然とおかずは出てくるし定額で楽しめるのは楽である。
今回私たちが行ったマッコリ店を2つ紹介しよう。
【「カイン」韓屋村にあるマッコリ店】
ここは美人大学生のボランティアの女子2人がオススメしてくれた韓屋村にあるマッコリ店である。店内は壁にやかんがぶら下がっていて庶民的な店であった。感じのいいおじさんが接客しつつ店内で常連客と飲んでいるのが印象的であった。また店内の壁中にはマジックで書かれた落書きがたくさん書かれていた。天井にまで大きく名前まで書かれており、日本では見ることのできない店内の様子に驚いた。マッコリを注文すると大きなやかんとともに沢山のおかずが出てきた。店名の「カイン」は美人という意味でつけられたらしい。ここでは刺身や貝などを中心に15皿のおかずが出てきた。これで2万ウォン(2000円弱)というから驚きである。
【「ヨンジンチブ」 三川洞にあるマッコリ横丁の有名店】
ここは今回の私たちのツアーを案内していただいたガイド役のカンさん(社団法人韓日文化交流センター理事・事務局長の康哲ミン氏)おすすすめの有名店。三川洞にあるマッコリ横丁が一番店の数が多いといわれていて、まさにマッコリ激戦区である。店内のテレビにはプロ野球が放送されていたが、誰もテレビに注目することなくそれぞれの会話を楽しんでいた。ざわついた店内はとても賑やかで活気があった。カンさんがマッコリを注文するとすぐに沢山のおかずとやかんに入ったマッコリが出てきた。ここはスープや大根の煮物や刺身などが出てきた。ここは2杯目から豪華になると聞いて2杯目を頼むと、蟹や生ガキが出てきた。蟹にとても興奮する私であった。ここはおかずもとても豪華で、なによりも食事が本当においしかった。蟹の次はどんな豪華なものが出てくるのだろうかと頑張って呑んでいたが、やかん2缶が限界だった私たち。こんな風に次々と種類の異なったおかずが出てくるなら、いくらでも飲みたいと思ってしまう全州のマッコリ店。マッコリ横丁は全部で6つあるらしい。いつかは全部制覇したいものである。
最後にカンさんが最近全州ではやっているというビール店に連れて行ってもらった。ここも日本にはないスタイルであり、最近人気がある店らしい。番外編ということでレポートする。
【番外編「チョニルカポ」 スーパーに併設されたビール店】
カンさん曰く最近の韓国ではマッコリや焼酎だけでなくビールを好む人が多くなってきた。そこで最近はやっているのは小さなスーパーの奥にある広々とした店内でビールを飲む「カメク」というスタイルである。カメクというのは「店」と「ビール」を合わせた略語である。カメクは全州に広がっており、簡単なつまみとビールを気軽に楽しむことのできる店のこと。店内は男女問わずたくさんの人であふれていた。ここは店内に冷蔵庫があり、その中に入っている瓶ビールを飲みながらつまみをつまむ店である。ビールはそれぞれ自分の好きなように取ってくるシステムである。私たちが行った「チョニルカポ」には、干し鱈に唐辛子の輪切りが入った辛い味噌をつけて食べるスタイル。この辛い味噌がとても人気でこの店は繁盛しているらしい。カンさんがいうにはここまで繁盛したおかげでビルを建てられたとか。ここでは女性同士できている人も多かった。
■主な観光地は…
【韓州韓屋村】
韓国最大の韓屋村である。ここは全州で一番の観光地であり、週末になると沢山の人が集う場所である。朝鮮時代から現代までの歴史が随所に溶け込んだ都市型韓屋村であり、観光施設だけでなく実際に住居としても使われている。土産屋や飲食店、またラジオ放送局もある。そして韓屋村の中にゲストハウスもあり、韓屋村での滞在を楽しむことができる。のどかな家並みを歩きながら散策しながら、様々な伝統的な文化体験ができる。週末になると、道の路上でストラップや手作りのぬいぐるみを売る人など、さらににぎやかな盛りあがりを見せていた。今回私たちが訪れたときには全州ビビンバ祭りが行われており、ビビンバのイベントや歌謡祭が開かれていた。とくにここにはおしゃれなカフェや伝統茶のお店が多く、女性が好む場所でもある。ここは「2010韓国観光の星」、「2011オススメ韓国名所」に指定されている。
私たちの宿泊したホテルは韓屋村の目の前にあったので滞在中にはなんとなく場所も覚えてきて馴染み深くなっていった。朝に散歩にいってみると、街を掃除している人や、犬の散歩をしているなど、また違った韓屋村の生活を見ることが出来た。ホテル滞在も良いが、韓屋村での暮らしを体験してみたいのであれば、ゲストハウスに宿泊することをおすすめする。
【昔懐かしの南部市場】
韓屋村に隣接する南部市場にも足を運んでみた。ここには海産物や生活雑貨、穀物や漢方薬など様々なものを扱っている。ここには先ほど記したようにスンデクッパの有名店もあり賑わっていた。チョニルカポで食べた干し鱈もここで売っていた。また大きな袋に入った沢山の唐辛子を見ることもできた。私たちが向かったときは昼過ぎだったのでそこまでの混雑はなかったが、全州の市場を見学できるいい機会であった。
食だけでなく観光地も沢山ある全州。知れば知るほどその魅力にはまっていくように思う。またタクシー代金も安いので気軽に移動できることも魅力のひとつである。最後に私たちはイムシルにあるチーズ村に足を運ぶことにした。
【イムシル「チーズ村」】
イムシルは人口3万以下の都市であり、村おこしの成功例だといわれている。1967年にベルギーの牧師チ・スンジャン氏がチーズ作りを広めた。
ここでは実際にチーズ作りの体験をし、試食できる。チーズ村といっても、チーズのテーマパークのようなところで、全国からの小中学生がチーズ村に一年間で75,000人が訪れるという。体験ブースの他に、食堂やチーズ博物館も併設されている。韓国では子供たちがチーズ作りを体験しにくるということは、成功した証だといわれている。また国内だけでなく、中国・東南アジアから訪れる人もいる。大量生産することより、手作りすることに重点をおいていて、こだわりを持って作っていることが伺える。
ここのチーズは地名のイムシルから名付け「イムシル・エヌチーズ」と呼ばれている。チーズ作りを開始した当初はカマンベールチーズを作っていたが現在はピザチーズ、モッツァレラチーズを作っている。
【チーズ体験レポート】
チーズを作るには63度に低温殺菌した牛乳とレンネットという牛の4番目の胃からとれるものが必要である。このレンネットはチーズ村では作っておらず、輸入しているものを使っている。
牛乳の中にレンネットを入れ5度回してそのまま置く。15分後にチーズの前段階である固まったものをバラバラにちぎって90度のお湯に入れ少し待ち、柔らかくしてから伸ばしまとめる。チーズは驚くほど伸ばすことができて面白かった。韓国の子供たちにもこのチーズ体験は大人気なのだそう。伸ばしたチーズはそれぞれ細かく分けて持ち帰ることができる。熱いお湯にいれたチーズを丸めるときには、代表者が軍手をした上にゴム手袋をして行なう。
このあとチーズ博物館でチーズの歴史を確認した後に食堂に向かった。ここでとれたチーズを使ったスペシャルピザと名物であるチーズトンカツを食べた。韓国のトンカツにはソースではなく野菜が入っている甘いソースがたっぷりかかっていた。
私たちがチーズ村に行ったときも、多くの小学生たちが見学に来ていた。広い施設で自然もたくさんあり、外で遊んでいる子供たちもたくさんいた。今回が初めてのチーズ体験であったがとても勉強になった。イムシルチーズの輸出は行なっていないそうだ。ピザブランドを持っているために購入にくる人も多いという。
【番外編 ドラマロケ地レポート】
ここからは私の大好きな韓流ドラマロケ地レポートを紹介する。全州ではドラマ撮影が多く行なわれていることで有名である。私は「JYJ」のユチョンのファンなのだが、カンさんと話していくうちにここでドラマの撮影が行なわれていたことが発覚した。1つは「トキメキ☆成均館スキャンダル」というドラマである。ここの撮影地の1つに「全州郷校」が使われていると知り、連れて行ってもらうことにした。
ここは儒生たちが勉強した部屋や宿、生徒が出入りした門、樹齢1000年を超す銀杏の木などがある。ここにユチョンも来ていたといたのだと思うと、なんだか幸せな気持ちになる私であった。全州郷校は入場無料であり、気軽に写真をとることができる。
次に向かったのはユチョンのドラマの「会いたい」で出てくる階段。ここには赤い字で「ポゴシッタ(韓国語で会いたいという意味)が書いてあり、その文字をどうしても一目見たく行ってみた。着いたのは静かな住宅地にある一角であった。しかし、もうすでにその字はコンクリートで消されており見ることはできなかった。これからこの階段を見に行く人はもう消されてしまっているので要注意。ショックを隠し切れなかったが記念撮影をして帰宅した。このドラマは私もハマっていたので見に行くことができてとても嬉しかった。
観光レポートは以上である。今回は限られた時間ではあったがガイドのカンさんのおかげで色々なところに足を運ぶことができた。次第にカンさんとも打ち解けることが出来て色々な話を聞かせて頂き、全州のディープな情報まで聞くことができた。
様々な話の中で分かったことがある。まず一つは頭に「全州」とつけば大概のものはおいしいということである。例えば、「全州ビビンバ」「全州マッコリ」など本当においしいものが多かった。二つ目はカンさん曰く、「キムチが美味しい店はほかの料理もおいしい」こと。韓国ではキムチが欠かせないものであるために、キムチが味の基準になっているということである。三つ目は代行運転が盛んなことである。安く便利に利用できるために代行運転が豊富らしい。カンさんも私たちに付き合って酒を飲み、そのあとは代行運転を利用し自宅へと帰って行った。
食の都だけでなく、観光地としての魅力がたくさん詰まった全州。ここには紹介しきれないほどの魅力があふれている。ソウルはもう行きつくしたなという人や、また違った文化を体験したいのであればぜひ一度は足を運んでみてほしい。
韓国語が心配という人もいるだろうが、ホテルには日本語のマップも置いてあるし日本と比べると料金もかなり安いのでタクシーを利用しても良いだろう。マッコリ横丁は回り切れないほどたくさんあるし、ビビンバはもちろんのこと、飲んだ後に24時間営業している豆もやしクッパを食べ、夜はカラオケにいくのも良い。韓国のカラオケにも日本語の曲が入っているので、一度は行ってみることをおすすめする。
このようにソウルと同じように深夜まで遊ぶことができる。韓屋村にはオシャレなカフェもたくさんあり、女性同士が楽しめるところも多い。また、全州韓屋村にはボランティアの外国語ガイドツアーもあるので、こういうツアーをうまく利用するのも良いだろう。
私自身、韓国には何度も旅行に来ているが全州に行くのは今回が初めてであった。全州に来て一番びっくりしたのは、やはりマッコリのスタイルである。頼むとたくさんのおかずが出てきて、次はどんなおかずが出るのかとワクワクしながらお酒を楽しく飲むことができた。おかずの中で一番衝撃だったのは生のさつまいもがでてきたことである。甘く、果物のような感じで不思議な感覚。本当に食べ物がおいしかった。豆もやしクッパはもう一回食べにいきたいと思うほどである。そろそろソウル以外の所にいってみたいと思っている人にはぜひ全州を推薦したい。