新・編集長コラム

あえてご当地を言わない「ステルスご当地居酒屋」が増える理由とは?

PROFILE

大関 まなみ

大関 まなみ
1988年栃木県生まれ。東北大学卒業後、教育系出版社や飲食業界系出版社を経て、2019年3月よりフードスタジアム編集長に就任。年間約300の飲食店を視察、100軒を取材する。


ここ最近は「ステルスご当地居酒屋」が増えています。何それ?初めて聞いた。と思いますが、わたしが今考えました。どういうものかというと、どこかの地域(都道府県)をテーマにしながらも、あえてそれを謳ってない居酒屋です。

もともと「ご当地居酒屋」というものはありました。特に北海道や沖縄、九州などをテーマにした居酒屋は昔から人気です。2010年代半ばにはfun functionが北海道八雲町や佐賀県三瀬村にフィーチャーした居酒屋を展開し、ご当地居酒屋ブームを生み出しました。ところが、最近はあえてご当地を謳わずにステスル(隠密)にやるのが流行りになっています。

まずは事例から紹介し、なぜステルスなのか?考察していきます。

今や大人気の渋谷「ツーピース」もステルスご当地居酒屋

例えば渋谷の人気居酒屋「ツーピース」。オーナーの地元、静岡をテーマにした料理を取り揃えています。静岡おでんに富士宮やきそば、静岡県産のブランド豚や干物を使ったおつまみ、静岡のクラフトビールまで、静岡愛を感じるラインナップ。しかし、店はそこまで大きく「静岡居酒屋」とは打ち出していません。店内には壁に富士山をモチーフにした飾り棚がさりげなくありますが、ぱっと見はスタイリッシュなイマドキの居酒屋という感じです。

「ツーピース」の店内。2023年12月にオープンし、今や人気店となった

マルホが展開する渋谷「きんぼし」や学芸大学「びゃく」、三軒茶屋「せきらら」も、すべてオーナーの実家が秋田で営む青果店から仕入れる野菜をふんだんに取り入れたおばんざいを売りの一つにしています。中には都内ではあまり見ない野菜もあり、秋田の味覚を楽しめます。しかし、これらの店は決して「秋田居酒屋」とは言っていません。

三軒茶屋「せきらら」では季節の秋田野菜を中心としたおばんざいが売りの一つ

さらに先述のご当地居酒屋の旗手、fun functionも最近の店舗ではあまりご当地色を打ち出さなくなりました。2025年8月にオープンした「サカバミハマ シンジュク」は、福井産食材を生かした炉端焼き居酒屋。新宿の繁華街に非常にわかりにくい入口から入店すると、おしゃれなビストロやカフェのようなスタイリッシュな空間が広がり、あまり「福井感」は感じません。ここでは福井産のサバをはじめとした海鮮の炉端焼き、〆は福井の越前そばを提供してます。同社の古参店舗「北海道八雲町」などはのれんや店内に大きく「北海道八雲町」と記載してあり一目でご当地が伝わりますが、それとは反対の見せ方になっています。

いずれも、実際に訪れてみてからご当地を打ち出していることに気づくお客も多そうな見せ方です。

なぜご当地居酒屋が再注目される?

どこの飲食店も料理が美味しいのは当たり前。差別化するために、オーナーの出身地や思い入れのある土地の食材や料理を打ち出せば、そこに含まれるストーリー込みで魅力として打ち出すことが可能になります。「僕の地元でとれた野菜です」と提供すれば、それだけで付加価値になるでしょう。

また近年、人はカテゴリに自分を当てはめるのがますます好きになっています。若い人の間でMBTIや骨格診断が流行していることがその証です。「出身の都道府県」はその最たるものだと思います。ほとんどの人が「○○県出身」という分類に属しており、そのふるさとに対して思い入れや誇りを持っているものです。

「ステルス 」にする意味

ご当地を打ち出したからといって、必ずしも集客パワーになるとは限りません。

北海道や沖縄、博多(九州)など、ブランド力のある一部の地域であれば集客のフックになるかもしれないですが、少しマイナーな県だと逆にイメージが沸かず、逆に足が遠のいてしまうということも。

実際には地方ごとに美味しい素材や料理がある。あえて最初にそこを打ち出さず、実際に来て食べてみて「こんなにおいしいものが!」と知ってもらうことがよいのかもしれません。

また、ガチガチにご当地テーマを決めすぎてしまうのも自分たちの首を絞めることになります。実際問題、食材や料理にご当地の縛りを入れてしまうと仕入れや商品開発がかなり難しくなります。「ご当地のものが中心だけど、それ以外も取り入れる」というゆるいスタンスでやるのがちょうどいい。そういう意味でも大きく打ち出さないことが効いてくるのかもしれません。

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