最新・野菜酒場のヒット事例
肉酒場、肉バル、海鮮酒場などはよく見ますが、野菜を主役にするのはなかなか難しいと思われていました。肉や魚と比べると食べ応えやボリュームは劣ってしまい、あくまで前菜やメインの付け合わせなど脇役だった野菜。ところが最近は、野菜を主役にしてヒットしている酒場が登場しています。
2022年、下北沢にオープンした「串焼きと煮野菜 下北沢の零や」は、「野菜と食べたらカロリーゼロ」を謳い、様々な野菜を煮るという調理法でフォーカスした「煮野菜」と「野菜巻き串」を看板にした酒場です。オーナー自身が20代であることと、下北沢という立地柄もあり20代を中心にたちまち人気の店となりました。勢いに乗り、今年4月には至近に「焼野菜 銀河団」もオープン。こちらも変わらず野菜が主役で、「焼野菜」をテーマにしています。
また、渋谷で人気の「酒場きんぼし」も野菜が主役。オーナーの妻の実家である青果店との提携が強みで、そこから仕入れる野菜のおばんざいが若い女性を中心に評判です。6月にはや新店舗「渋谷ニッカ」もオープン。「あふれる野菜」をテーマに、より野菜にフォーカスしたメニュー構成となっており、こちらもすでにヒットの予感がプンプンします。
なぜ野菜は主役になれるのか?
以前と比べて野菜を食べることが身近になっている背景もあるかと思います。その功労者の一人は、日本にサラダボウルを広げた「クリスプ・サラダワークス」ではないでしょうか。あくまで副菜だった野菜を、サラダボウルというスタイルで主食にするというイノベーションを起こしました。
野菜は“自然な”映え要素が演出できることもポイントです。世の中に「インスタ映え」という言葉が登場してから、カフェなどのスイーツ店では、シンプルなチーズケーキやガトーショコラなどに代わり、色とりどりのフルーツを使ったスイーツが爆発的に増えました。フルーツはカラフルな見た目に仕上げることができて、写真の拡散が狙えます。
居酒屋では野菜がその役目を負うことができそうです。茶色くなりがちな肉と違い、葉物の緑やトマトの赤、ニンジンのオレンジ色など、さらに白とピンクのコントラストが美しい紅心大根など、探せば見た目にもインパクトある野菜も多数あります。もともとの色合いの鮮やかさから、手を加えなくても自然に映えるのが強みです。ことあるごとにイクラをかけてみたりと居酒屋での映え合戦もそろそろ敬遠される中、不自然ではない華やかさがあるものが今後支持される映えになりそうです。野菜は季節感を表現しやすいのもメリットですし、おまけに「野菜だからヘルシー」という触れ込みは酒を飲む罪悪感を薄れさせます。
野菜酒場をヒットさせるためのポイントは?
ただし大事なポイントは、決して“野菜だけ”にならないことです。「肉や魚を排除して完全に野菜のみ」や、「野菜の栄養価や効果効能にまでフォーカスする」といったストイックなコンセプトでは、ベジタリアンなど一部からはニーズがあるかもしれませんが、大多数のお客は惹かれません。酒場である以上、嗜好性の高いものが求められます。野菜を主役にしつつ、酒に合う仕立てや味付け、適宜、肉や魚、炭水化物なども使い食べ応えを出した料理が支持されるポイントでしょう。あくまで“ゆるく”野菜を楽しみたいのです。博多から全国に広がっている野菜巻き串も、野菜が豚バラに巻かれているからこそ酒のつまみとして成立しています。前述した「零や」「酒場きんぼし」などの事例も、そこをうまく押さえているからこそ繁盛店になっている印象です。次にやる店の業態に悩むオーナーさん、野菜酒場なんていかがでしょうか。