新・編集長コラム

修業の学び生かしながらオーナーの個性を発揮、楽卒業生の強さ

PROFILE

大関 まなみ

大関 まなみ
1988年栃木県生まれ。東北大学卒業後、教育系出版社や飲食業界系出版社を経て、2019年3月よりフードスタジアム編集長に就任。年間約300の飲食店を視察、100軒を取材する。


数々の独立者を輩出し、居酒屋業界に多大なる影響を与え続けている楽コーポレーション。卒業生の店舗については同社のホームページで確認できるが、その数の多さや範囲の広さには驚くばかりだ。ここ最近も、相次いで卒業生による新店が登場している。

3月にオープンした方南町の「てげてげ」は、楽で12年にわたり修業した高原将太氏の独立店舗。居酒屋不毛地帯の方南町に目を付け、自身の故郷である宮崎をテーマにした居酒屋を出店した。名物の「もも焼き」は、今では宮崎のローカルフードとして有名。同店では肥育期間の長い霧島鶏の親鳥を使用し、噛めば噛むほどに旨みがあふれる。ほか、チキン南蛮や鶏わさなど宮崎をアピールする料理やドリンクを取り揃え、メニューの品書きに楽の名残はあまりないが、活気あふれる雰囲気づくりや細やかな気配りなどは楽そのもの。すでに地域の人気店となっている。

さらに、飲食業界でいま注目度が高いのが、楽で10年勤めた福留達成氏が恵比寿に9月オープンした「福味み」。楽が得意とする客単価4000~5000円の居酒屋から、ワンランク上を目指した店づくりが見どころ。恵比寿の「創和堂」をイメージしたようなカウンターの店内。料理のクオリティも居酒屋から一歩上げて、提供時は銘々盛りにするひと手間をかけて単価は7000円で着地させている。高級店まではいかないが、ガヤガヤした居酒屋の気分でもない。恵比寿に多大にありそうな、そんなニーズをうまくキャッチしている。

同じく業界注目度の高いのが、下北沢に8月オープンした「まいにち千秋楽」。なんと楽在籍期間は23年と最長!?かもしれない後藤千秋氏が、縁あって独立。後藤氏の人柄がよく表れた店づくり、とにかく楽のパワーを感じる酒場だ。

野毛にも面白い店が登場した。もともと同エリアで「呑毛笑店 ゑぶり亭“」と横浜駅西口で「ヨコハマ笑店 ゑぶり亭”」を展開する楽卒業生の小木泰輔氏。10月にオープンした3店舗目「ゑぶり場亭“」はガラリと趣向を変えたおでん酒場だ。「呑毛笑店 ゑぶり亭“」から至近距離だが、あえて詳しい住所は非公開、予約はInstagramのDMを通じてのみという秘密めいたブランディングを図る。既存店が50席ほどの活気ある居酒屋であるのに対し、今回は4坪にカウンター8席のみ、お客一人一人にべったり丁寧にもてなすスタイルで営業。しかし随所に散りばめられたユーモアある仕掛けや細やかな気配りは、やはり楽を彷彿とさせる。3店舗目と、スタートアップから次の経営ステージに進んだ卒業生の進化にも注目だ。

これら以外にも楽卒業生の繁盛店は枚挙にいとまがない。楽で学んだことをうまく取り入れつつ、オーナー自身の色を存分に発揮する店づくりが魅力だ。元気な接客やちょっとしたユーモアでクスっと笑わせる仕掛けなど、楽ならではの「楽しませ術」はしっかりと踏襲しつつも、商品や空間づくりでは、楽とは異なる、オーナー自身が本当にやりたかったことを表現。「一国一城の主」の強さをまじまじと見せつけている。

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