幸之助氏が語った言葉をまとめた「不況における松下幸之助の研究」(「THE 21」PHP研究所、1992年11月号、筆者・佐藤悌二郎氏)という論文がある。バブル崩壊後の不況時に発表されたものだが、その中で紹介されている幸 之助氏の「不況語録」はまったく錆付いていない。歴史は繰り返すが、物事の道理、原理原則は変わらないことを示している。論文にはこう書かれている。<松 下幸之助は、不況に対してことあるごとに「不況またよし。不況は改善、発展への好機である」といっていた。また、「松下電器は不況のたびに伸びてきた」 と、こうもいってはばからなかった。> そして、いくつかの語録を紹介している。 「不況といい好況といい人間がつくり出したものである。人間がそれをなくせないはずはない」「景気 の悪い年は、ものを考えさせられる年。だから、心の改革が行なわれ、将来の発展の基礎になる」「不況のときこそ会社発展の好機である。商売は、考え方1 つ、やり方1つでどうにでもなるものだ」「不景気になっても、志さえしっかりともっておれば、それは人を育て、さらには経営の体質を強化する絶好のチャン スである」。まさに「不況こそビジネスチャンス」と繰り返し語っているのだ。 私がハッとさせられたのは次の言葉。「かつてない困難、かつてない不況からはかつてない革新が生まれる。それは技術における革新、製品開発、販売、 宣伝、営業における革新である。そしてかつてない革新からはかつてない飛躍が生まれる」。まさに100年に一度の経済危機といわれる今回の不況下で、この 言葉は輝きを放つ。かつてない不況からかつてない革新、かつてない飛躍が生まれる…。これは、大企業内だけのことではない。かつてない不況期にはかつてな い革新的なビジネスモデルが生まれ、大きく飛躍するベンチャービジネスが誕生するということだ。外食業界においても、“サードG”世代の経営者はいま、 ニュービジネスモデル構築の絶好のチャンスだといえよう。もう精神論はいい。今こそ独自の事業モデルを創造して時代の要請に応えていくべきではないか。 幸之助氏はさらに語る。「『苦労は買ってでもせよ』というが、不況とはその貴重な苦労が買わずとも目の前にあるときである」「不況は贅肉をとるため の注射である。いまより健康になるための薬であるからいたずらにおびえてはならない」と励ます。まだ低価格路線で乗り切ろうという経営者に対しては、「不 景気でもいいものは売れる。だから、品物がよく価格も適切なら、不景気でなくなる」と戒める。価格より品質を重視する店、そして世の中に新しい価値を提供 できる企業が勝ち残れるのだ。
コラム
2009.03.26
不況がベンチャービジネスを育てる!
歴史は繰り返すというが、好不況の波は必ずある。今回は100年に一度といわれる大不況だが、「不況またよし!」と捉え、過去の大きな危機を乗り越えてきた松下幸之助氏の不況語録"には学ぶことが多い。"
佐藤こうぞう
香川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本工業新聞記者、雑誌『プレジデント』10年の編集者生活を経て独立。2000年6月、飲食スタイルマガジン『ARIgATT』を創刊、vol.11まで編集長。
その後、『東京カレンダー』編集顧問を経て、2004年1月より業界系WEBニュースサイト「フードスタジアム」を自社で立ち上げ、編集長をつとめる。
現在、フードスタジアム 編集主幹。商業施設リーシング、飲食店出店サポートの株式会社カシェット代表取締役。著者に『イートグッド〜価値を売って儲けなさい〜』がある。