高級店が展開するローコストのセカンドライン業態を“ディフュージョン”と言うが、最近の傾向としては単なるディフュージョンではなく、まったく新しいコンセプトの“カジュアルダウン業態”を出す例が多い。2月18日、麻布十番にオープンした「紫玉欄」は、高級中国料理の「中国飯店」の新業態。1,000円以下の小皿料理を多数取り揃えた“チャイナバル”業態である。メニューには500円台の「椎茸の細切り黒酢和え」や「上海式ポテトサラダ」などの“タパス料理”が並ぶ。さらにスペインバルやイタリアンバール、ビストロバルなどで出される小鍋メニューを意識したと思われる“土鍋料理”もラインナップ。三種類の麻婆豆腐も土鍋で出され、価格も1380円と安い。
中国飯店はミシュラン一つ星の姉妹店「富麗華」も展開するが、今回は思い切った“チャイナバル”という新業態でカジュアルマーケットに斬り込んだケースとして注目される。
六本木ヒルズの周辺でも変化が起きている。西麻布の人気レストラン「サイタブリア」は、昨年11月六本木ヒルズけやき坂にビストロ×ダイナーの新スタイル「Lauderdale(ローダーデール)をオープンした。2001年にオープンした「サイタブリア」は、最上のホスピタリティを追求し、店舗展開をしない方針で経営するレストラン。お客を第一に考えメディアにも一切登場しないことでも知られている。そんな同社が六本木ヒルズという商業施設に新業態をオープンした経緯について、女将の石田弘子さんは「『サイタブリア』も9年が経ち、私たちのスタイルもメディアに動かされることなく確立してきました。『サイタブリア』はシックで大人のイメージなので、明るく、テラスがあるような対照的な店をつくりたいと以前から考えていて、そのイメージにしっくりきたのがこの場所でした。『サイタブリア』よりもカジュアルに、お子様からご年配の方まで幅広いお客様に気軽に使っていただける店です」と語る。
アッパー業態を多く手がけてきたスティルフーズも、東京ミッドタウンの「ダノイ」が撤退した跡に出店したバール「Ba-tsu(バツ)」は、カジュアルなスタイルと低価格のメニューで人気を集めている。その同社が今度はけやき坂通りにプライムステーキを用意する本格的なステーキハウス「37 Steakhouse & Bar」を3月15日にオープンした。ここもかつてエノテカが経営するレストラン「ブルディガラ」の居抜き。鈴木成和社長が「驚くほどローコストでオープンできました」と語るように、いま高級店が入っていた商業施設でも、“居抜き”による新業態の出店が進んでいる。鈴木さんが選んだ業態はプライムステーキ。ただ、高級店ではなく、ハンバーガーや1000円以下のアラカルトも揃えたカジュアルダウン業態だ。ランチも1000円から。夜は3000円でも楽しめるし、ガッツリ食べていいワインを飲めば10000円を超える。こうした使い勝手のいい店がこれから増えてくるのではないだろうか。