低価格業態間の競争が激化するなかで、現在の飲食マーケットはより高付加価値のコンテンツが求められているが、ホルモンマーケットにおいても新しいスタイルの業態が出現してきている。ホルモン店の多くは刺身(生)であれ、焼きであれ、ひたすら“ガッツリ”食べる感が優先されてきたが、ニューバージョン系のホルモン業態は居酒屋やダイニングバーとしてのポジションに近づいており、ホルモンを料理として楽しむ傾向が強まってきた。ホルモンの鮮度は当然であるが、さらにその店独自の仕入れルート開拓、個別品種化、限定的部位の確保といった専門的価値を極める動きが出てきている。注目点としては、従来のホルモン専門店にはなかったメニューや提供法、ドリンクとのマッチング提案といった点である。 例えば、煙もくもくのイメージのホルモン店とは程遠いモダンでおしゃれな空間の「鉄焼151 mishukutei」(三宿)では、鉄板で焼くホルモンに合わせたワインを提供、網焼きでも串焼きでもない新感覚が楽しめる。仲卸し業60年の会社が経営する「Ushi Kushi」(麻布十番)もダイニングバーポジションといえる。一本200円からの「串焼きホルモン」と「鉄板焼きホルモン」が売りで、そのボリュームに驚かされる。グラム売りのステーキのほか野菜もバーニャカウダーといったメニューもあり、ワインや焼酎、日本酒、カクテルなどドリンクのラインナップも充実。鶏豚の肉刺し専門の「久遠の空」(中野)は一見、ビストロのような空間。貴重な「ブレンズ刺し」をはじめ、朝挽きの豚刺しには定評があり、予約必須の人気店だ。国産ワインを取り揃えており、串焼きにもよくマッチし、新たなワインの世界が楽しめる。 わずか2.5坪のガード下の“立ち焼きホルモン”で話題となっている「六花界」(神田)。七輪をシェアするスタイルも新鮮であるが、店主のホルモンを楽しませるスタンスが注目。一品500円の様々な部位のホルモンは、生で、焼きでと好みによってオーダーできる。お酒はオール400円だが、店主こだわりのお薦めの日本酒がホルモンの新しい魅力を引き出す。西葛西にオープンしたAPカンパニーの「芝浦食肉」。複数の仲卸から直接の仕入れるホルモンは新鮮さと低価格にこだわる。キャベツで蒸し焼きする「ホルモン焼き」はジューシーで美味しいと評判。町の肉屋とテイクアウトの寿司屋との“三毛作業態”も進化系である。五反田で焼肉業態2店舗を展開し、三軒茶屋にオープンしたばかりの「金肉屋」ではシロコロホルモンを一本漬けしたオリジナルな「壷漬け」から「牛一頭盛り」まで、メニューの豊富さとクオリティの高さにこだわる。また、中野の注目店「肉の四文屋」では串焼きに刺身、ホルモンの「すき焼き」「牛鍋」と、ホルモンから赤肉まで揃え、“肉専門系居酒屋”という新しいポジションの可能性を感じさせている。 さらに、B級グルメブームの中で、「厚木シロコロホルモン」がクローズアップされ、最近“豚ホルモン”への注目度も上がっている。もともと、大衆酒場のオヤジのアイテムだった焼きとん、もつ焼きなど豚系内臓肉への興味もホルモンヌたちの間で沸き起こっている。新宿にシークレット・オープンした「もつやき沼田」(新宿三丁目)は、元バーの居抜き店舗の串焼き業態。バック棚に並ぶ焼酎をはじめとした酒のパフォーマンスとカウンター越しのコミュニケーションスタイルは、まさに“串焼きホルモンバー”と言っていい。もつ焼きい志井グループ出身者がオーナーの「まんてん」は、中目黒店から4年目にして代々木に2号店を出した。2月24日オープンだったが、その日に覗いたら、地元の若いグループ客や女性客が多く訪れていた。店内は白いタイルの壁が印象的なシンプルでモダンな空間。まるでカフェのような雰囲気だ。そこで、若い客が豚ホルモンを炭で焼きながら談笑する姿は、新しいホルモン業態のスタイルを象徴するものだった。オーナーの阿部氏もまだ30代前半の若さ。ホルモン業態の可能性はまだまだ広がっていくに違いない。
コラム
2010.03.11
「ホルモン業態」の進化を追う!
「ホルモン業態」マーケットが再び活性化してきた。ホルモンマーケットをリードする新ステージを感じさせるニューバージョン系のホルモン専門店をリサーチしてみた。
佐藤こうぞう
香川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本工業新聞記者、雑誌『プレジデント』10年の編集者生活を経て独立。2000年6月、飲食スタイルマガジン『ARIgATT』を創刊、vol.11まで編集長。
その後、『東京カレンダー』編集顧問を経て、2004年1月より業界系WEBニュースサイト「フードスタジアム」を自社で立ち上げ、編集長をつとめる。
現在、フードスタジアム 編集主幹。商業施設リーシング、飲食店出店サポートの株式会社カシェット代表取締役。著者に『イートグッド〜価値を売って儲けなさい〜』がある。