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コラム

「上海飲食マーケット」視察レポート(1)

2012年秋の尖閣列島問題を巡る反日暴動を機に、一気に日本企業の進出意欲が衰えた中国・上海。その前からも「パートナーに騙され店を乗っ取られた」「大きな投資をして開店しだが客が来ずに半年で撤退」といったネガティブな情報が飛び交い、「上海飲食ビジネスは難しい」といったマイナスイメージが伝えられるばかり...。そんな上海飲食マーケットの実情を見たいと10月15~19日の4泊5日のスケジュールで上海に飛んだ。2回連載。

PROFILE

佐藤こうぞう

佐藤こうぞう
香川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本工業新聞記者、雑誌『プレジデント』10年の編集者生活を経て独立。2000年6月、飲食スタイルマガジン『ARIgATT』を創刊、vol.11まで編集長。
その後、『東京カレンダー』編集顧問を経て、2004年1月より業界系WEBニュースサイト「フードスタジアム」を自社で立ち上げ、編集長をつとめる。


今回の上海視察をアデンドしてくれたのは、2005年からアサヒビールの現地法人(上海)で市場開発を担当し、今年2月からフリーでで活躍していた遠藤浩介さん。助っ人として、浦東新区の森ビルのフードコートで唐揚店などをやっている南真昭さんにもお伴をお願いした。10月15日、上海浦東国際空港に迎えにきてくれたのは南さん(本社は福井県)。早速、空港でタクシーをゲットし、宿泊先の日本人ビジネス街の虹橋エリアにある「虹橋賓館」に向かった。浦東の空港と虹橋エリアとは上海中心部を挟み東西の端と端。高速を使い1時間ほどかかったが、タクシー代は200元程度(3700円)だった。
「上海のタクシーは安いです。地下鉄も充実していますが、ビジネスでの移動はタクシーが楽です」と南さん。タクシーの初乗りは17元、以降1キロごとに2.4元ずつと安い。ただ、タクシーの運転手はきわめて不愛想、領収書(発票)はきちんと出るが。

中国といえば大気汚染。大都市、上海も例外ではない。いわゆるPM2.5だが、やはり15日は空が霞み、高速から見えるはずの浦東、外灘エリアの超高層ビルはスモッグに隠れていた。「今日は180ですから“軽度汚染”です」と南さん。上海で暮らす人は皆、この大気汚染指標を毎日チェックしているとか。
「青空が眺められるのは、年間30日ぐらいですよ…」。
早くも私は、ブルーな気持ちに陥ってしまったが、今回の視察目的は観光ではない。日本人の飲食店経営者がいま上海でどんな戦い方をしているのか、それをこの目で見て、経営者たちに話を聞くことである。大気汚染ぐらいで落ち込んではいられない。上海で暮らし、働いている人々はそれが日常だから…。
ホテルにチェックインしたその足で、遠藤さんの待つ店に向かった。

そこは、虹橋エリアでは新しく日系飲食店が集まるようになった安龍路の「エビス参」。日本のモツ焼きが上海ローカルに受けて、大繁盛店になったという。「エビス参」(ダイネット・中川徹也社長)は世田谷を中心に多店舗展開、2008年に上海のこのエリアに出店した。「エビス参」で私の到着を待っていてくれたのは、遠藤さんはじめ、店長の石橋秀紀さん、「エビス参」の現地パートナー企業の上海柚子餐饮投资管理有限公司(柚子グループ)の星野尾雅人さん、南さんと同じく森ビルのフードコートにカレー店とラーメン店を出店している蝦名紹功さん(盛岡、仙台で飲食店展開、バセロン社長)。実は、柚子グループはアサヒビールと合弁会社をつくり、森ビル地下2階のフードコートを運営している。遠藤さんと星野尾さんがその仕掛人的な存在だ。「エビス参」も柚子グループと組んだことが成功の鍵だったようだ。

2008年、10年の上海万博に向けて、日本企業の誘致で盛り上がっていた時期とはいえ、仙霞路と安龍路が交差するこのエリアはローカルの中国料理や韓国式の焼肉店ぐらいしかなかった。日系飲食店もオフィスビルやモールが建つ虹橋開発区の中心地に集中していた。
「『エビス参』の話が来たとき、まだ家賃の安かったこのエリアに物件が出たので出店をすすめた」と遠藤さんは振り返る。
当初は日本客がほとんど。その後、もつ焼きが徐々にローカル客にも受け入れられるようになり、いまではローカルが大半を占めるようになった。35坪65席で月商35万元(800万円)を維持している。客単価は100~200元(1700~3400円)。ローカル客はお酒をあまり飲まないので100元、日本人客のいまは接待が減って自腹飲みが多くなり、200元あたりが相場とか。
「この客単価戦略を間違うと、いまの上海飲食ビジネスでは成功しない」と遠藤さん、南さんが口を揃えた。

「エビス参」の成功で、この安龍路には6年前にほとんどなかった日系飲食店がいまや20店舗ほどに膨らんでいる。モールとは違い、このエリアは路面店が集積し、独特の日系飲食文化の匂いを街に放っている。2軒目に覗いたのは、焼肉チェーン「ホルモン酒場」2号店。いま上海市内で6店舗展開中。オーナーは、千葉県の一家ダイニングプロジェクト出身の後藤田利之さん。6年前に上海に来て最初は居酒屋を開業。その後、焼肉業態に絞り「ホルモン酒場」をオープン。FC展開含め来年30店舗目指すという。
「将来は、香港に株式上場したいんです。日本にはもう帰らない覚悟です」と後藤田さんは熱く語る。一家ダイニングプロジェクト武長太郎社長と同じ38歳。退路を断って、上海飲食ビジネスに突き進む。
日本式のもつ焼き、焼肉ホルモンがいまの上海ではちょっとしたブーム。そこの登場したのがこの7月、ホルモン焼き「ホルモンまるみち」、ワイン酒場「バルミチェ」、など10業態20店舗を全国に展開するディーアール(品川区、谷脇宗社長)の初の海外店となる「新鮮ホルモン まるみち 上海店」。オーナーは現地資本だが、ディーアールがすべてプロデュースした。場所はやはり安龍路のど真ん中。安龍路3店舗目は、焼き鳥の繁盛店「TORI YASU」へ。ローカル客がほとんど。ローカルにも日本式の焼き鳥は定着している。

上海視察の初日は、いま最もホットな安龍路エリアで終了。それにしても、「反日」とか「日本企業の撤退」とかいったネガティブイメージは、初日に吹っ飛んだ。日本のもつ焼き、ホルモン、焼肉、焼き鳥、居酒屋などのアルコール業態が繁盛している。しかも、ローカル客が半数を占めている。日本人ターゲットの店は駐在員が減り気味ゆえに厳しい店が増えているようだ。しかし、ローカルターゲットにシフトした店は生き残り、勝ち上がってきている。アジアのどの街もそうだが、やはりキーワードは「ローカライズ」ということ。上海1日目は、そのことを教えられた。
(つづく)

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