コラム

新たな「専門店化時代」到来か!?

牡蠣に雲丹に魚卵、フォアグラ...とキラーコンテンツ食材の「専門店」を前面に打ち出した居酒屋や酒場、バルが増えている。顧客からすれば「何屋かわかりやすい」、店側からすれば「売れ筋メニュー」を軸にオペレーションしやすいというメリットがある。

PROFILE

佐藤こうぞう

佐藤こうぞう
香川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本工業新聞記者、雑誌『プレジデント』10年の編集者生活を経て独立。2000年6月、飲食スタイルマガジン『ARIgATT』を創刊、vol.11まで編集長。
その後、『東京カレンダー』編集顧問を経て、2004年1月より業界系WEBニュースサイト「フードスタジアム」を自社で立ち上げ、編集長をつとめる。
現在、フードスタジアム 編集主幹。商業施設リーシング、飲食店出店サポートの株式会社カシェット代表取締役。著者に『イートグッド〜価値を売って儲けなさい〜』がある。


8月21日、新宿東口の飲食店ビル6階に、札幌で話題の繁盛店「居酒屋にほんいち」の東京進出1号店がオープンした。同店の売りは、「かにぶっかけだし巻き卵」(880円)。だし巻き卵の上に、客がストップをかけるまで蟹の身を盛るというパフォーマンス。「札幌一太いたらば蟹」もあり、水産問屋が営む鮮魚居酒屋という業態でありながら、「蟹専門店」的な打ち出しが印象に残る。しばらく予約が殺到する話題店になることは間違いない。経営は34歳の市川暁久社長のアイ・コンセプト。高田馬場に最近オープンしたのは、「雲丹専門店」を謳った「利尻 うに小屋」。希少な「水うに刺し」(一人前980円)や「雲丹しゃぶ」(一人前1980円)など、キラーコンテンツのうに料理が売りだが、姉妹店の「あげ屋」の名物である「栃尾あげ」をはじめ、居酒屋メニューも並ぶ。店名こそ専門店化を打ち出してはいるが、実は「うに料理を掲げた居酒屋」である。経営はプラスフードシステム(勝俣賢治社長)。こうしたキラーコンテンツ食材を打ち出して「専門店化」をコンセプトにした居酒屋、酒場、バルがここにきて増えている。ブレークしている例として、「かき小屋」(ジャックポット)、「イカセンター」(スプラウトグループ)などがある。「かき小屋」は、祐天寺から始まり、恵比寿、新橋、高円寺の4店舗、「イカセンター」は、西新宿から始まり、神楽坂(2店舗)、渋谷、日本橋、御茶ノ水、横浜へと展開。専門店の強みを活かしたチェン展開を行っている。総合居酒屋や何屋かわかりにくい店と比べ、来店動機が明確になり、販促面でも顧客に訴求しやすく口コミで広がりやすいというメリットがある。同じ鮮魚系居酒屋でも、こうした特定の人気食材を店名に打ち出すことによって、認知度のスピードを上げることが可能なわけだ。鮮魚以外でも、銀座にオープンした「銀座フォアグラ」などはとてもインパクトがある店名だ。店名を聞いただけで、「えっ!フォアグラの専門店!?」という驚きがあり、「行かなきゃ!」といった来店動機が生まれる。そして、「専門店化」の波がさらに広がる条件として、レストランや居酒屋だけでなく、大衆酒場やバルの「専門店化」がある。例えば、ご当地ブランディングをコンセプトにしているファンファンクション(合掌智宏社長)の「北海道厚岸 かき酒場」、「炉端かば」のかばはうす新業態の「エビキング」、そして近々神楽坂にオープンする「牡蠣屋バル」など。これらは、「専門店の日常使い」を促すような流れをつくる可能性を秘めている。今後、「うにバル」「海老酒場」といった店が続々と登場してくるのではないか。しかし、この手の業態で注意しなければならないのは、“羊頭狗肉”では必ず失敗すること。高級食材であればあるほど、クオリティやポーションが中途半端だと、期待が失望に変わり、ネガティブな評価が口コミで広がる。やはり、「ハイクオリティ・カジュアル」(品質重視・低価格)のトレンドを外してはならないということだ。

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